日本家政学会誌
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親子の居住形態からみた遠隔郊外居住の問題点
―奈良県榛原町における―
今井 範子伊東 理恵
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2006 年 57 巻 11 号 p. 761-774

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抄録

本研究は, 開発から約30年を経過した遠隔郊外に立地する戸建住宅地を対象に, 居住地の問題を明らかにし, 居住者の家族構成や親子の居住形態の動向を明らかにすることを試みた. その結果を以下にまとめる.
1) 住宅地内の空地が約10%, 空家が約5%存在すること, 中古住宅の割合が2割に満たないことから住民の入替わりが頻繁に起こらず, 住宅地としての停滞状況が把握できる. このまま流入が停滞すれば, 住宅地として衰退することが予測される. また住宅の改修率が低く, 住宅更新があまり行われておらず, 住宅の老朽化がみられる.
2) 駅から遠く, 坂の多いこの住宅地において, 居住者は買い物をはじめとして日常生活を車に依存した生活を送っている. 駅から遠いこの住宅地で高齢期を過ごすことへの不安は極めて大きく, 移動に関する交通手段の整備などをはじめとして, 高齢者のための居住地整備が求められる.
3) 60歳未満において, 女性有職率が極めて低く, 食関連施設の不足, 医療や福祉関連施設が不十分であり, 仕事場が遠い, 駅から遠いことから, 女性が就労することを前提とした住宅地でない.
4) 昭和40年代前半の都市計画により, 住宅地内の幹線道路沿いは店舗等を想定し中高層の建物が建築可能な用途地域として計画された. しかし分譲開始から現在に至るまでこの道路沿いに店舗は少なく, また3層以上の建物は建築されていない. 存在した店舗の撤退が近年相次いでいる.
5) 「65歳以上の人がいる」 高齢世帯の割合は4割弱, 60~64歳の人がいる世帯を含めると6割が高齢世帯であり, 今後さらに急激な高齢化が予測される. 遠隔地という立地上, 子は独立して流出し, 戻らない傾向が強く, 今後, 高齢夫婦のみ, 高齢単身世帯が増加すると予測される.
6) 別居既婚子との居住形態は, 遠居が特徴である. このため, 交流頻度は低く, たとえば買い物などの日常的な家事や通院の付き添いといった, 子からの直接的な支援は実質受けられない状況にある.
7) 自然環境の良さが永住意識と結びついているが永住したいと考えるのは半数に過ぎず, 永住意識は低い. 住み替え希望があっても地価の下落により転売を困難にしている.
8) ここ10年ほどの間の転入者のうち, 親世帯や子世帯と近接居住のためにこの住宅地に転入してきた世帯は若干存在し, 近年微増の傾向がみられる. また, 現在他地域に居住している親世帯や子世帯が今後転入し同居, 近居予定のある世帯も一定の割合で存在した. しかしながら全体としてその割合は極めて低く, 血縁による居住の継承の可能性は低い. このため, 今後居住地として持続していくためには, 血縁によらない, 新規流入が必要である.
9) 徒歩圏内の食関連の店舗, 今後増加する高齢者のための居場所, NPO活動のための空間などの整備が求められる. それらに対し, 空地, 空家の活用等が当面重要である.
10) 対象遠隔住宅地の問題点を集約すると, つぎのようである. (1) 新規流入が停滞している現況を踏まえると, 団塊世代以上の年齢層の居住者が多く居住し, 高齢化が, 一挙に進展することが予測されること, (2) 親子の居住形態の動向は, 同居は少なく, 別居が主であり今後, 高齢夫婦のみ, 高齢単身世帯が増加すること, (3) 買い物等を車に頼っている現状から, 加齢に伴い車の運転から遠ざかり, 日常生活における移動困難が発生すること, (4) 子との居住形態は遠居であり, 子からの身近な支援は受けにくいこと, (5) 血縁による居住の継承の可能性は低いこと等である.
11) このような遠隔郊外住宅地の方途として, いくつか考えられる. まずは, どの方途であっても, 高齢期に対応した居住空間と居住環境の整備は急務であることはいうまでもない. 今回の調査から即断することは出来ないが, このまま新規流入が少なく停滞状況となるならば, 必然的に衰退化を招かざるをえないであろう. しかし, 周辺に保有する自然環境と歴史環境を生かし, また空家や空地の発生に伴う居住地の再編を進め, ゆとりのある郊外住宅地として多世代が生活を共有できる持続可能な住宅地にむけた再構築をめざす方途も一つの方向である. 本調査からは, いずれかの方途を具体的に指し示す即断は避け, 遠隔郊外住宅地がかかえる課題を精査し, 今後の方策とそのあり方を考えていきたい.

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© 2006 一般社団法人 日本家政学会
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