日本家政学会誌
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保育の構想に顕われる保育者の価値観とその規定要因
守隨 香
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キーワード: 保育者, 価値観, 保育の構想
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2014 年 65 巻 11 号 p. 609-620

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抄録
 本研究は,保育者がどのような価値観で保育実践を行っているか,またその規定要因は何かを明らかにすることを目的とした.現行保育の基本理念が国レベルで示された1989年から10年後の1999年を,保育理念の定着期と考え,その時期において保育にどう体現されていたかを調査した.認定こども園が誕生し,日本の保育制度が新しくなろうとしている現在,我が国が目指してきた保育実践を改めて振り返り,基本理念を確認する意義は大きいと考える.
 国立・公立・私立の幼稚園と保育所の保育者を対象に質問紙調査を行った.2事例を提示し,どのようなかかわりを構想するかを尋ね,状況解決型・目標提示・達成型・連携型・一対一対応型の4つの価値観が抽出された.状況解決型は子ども同士の関係の橋渡しなど,時間をかけても状況を改善しようとする価値観,目標提示・達成型は積極的に具体的な指示を子どもに与える価値観,連携型は他の保育者や保護者と協力して状況改善を目指す価値観,一対一対応型は子ども同士のかかわりを成立させるために,まず保育者が密にかかわろうとする価値観である.各対象者が最も強く支配されている価値観を同定し,次の結果を得た.公立は状況解決型,私立は連携型が有意に多く,特に16年以上の保育者にこの違いがみられた.設置者別に異なる価値観で若手保育者の子ども理解や保育行為の選択に影響することを考えると,この結果は重要な意味をもつ.また,公立が人事異動で流動的な職員関係,私立が比較的固定された人間関係の職場であるため,前者は研修による園外の保育者との価値観交流の場に,後者は園文化に価値観形成の主な規定要因があると考えられる.
 本研究結果は日本の設置者制度の特徴だけでなく,保育者は子どもの存在の仕方に条件をつけることなく受容し,関係を重んじて教育に当たるべきであるという日本的な価値観も示している.
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© 2014 一般社団法人 日本家政学会
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