日本家政学会誌
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重ね着の保温効果の解析
井上 尚子三輪 仁美高橋 勝六
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2020 年 71 巻 3 号 p. 146-154

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抄録

 重ね着衣服の熱移動抵抗を温水入りガラス瓶に装着した衣服で測定した. また, 熱移動抵抗がない仮想布で仕切られた多重空気層の熱移動抵抗を放射熱移動と対流熱移動に基づいて計算した. 厚さの小さい単層の空気層では対流熱移動係数が厚さにつれて小さくなるための熱移動抵抗は厚さとともに大きくなる. しかし, 厚さが大きくなると厚さに依存しない放射熱移動係数が対流熱移動係数より大きくなるので, 熱移動係数の厚さによる変化は小さくなる. 多重空気層の熱移動抵抗は放射熱移動が仮想布により遮蔽されるので層の数とともに大きくなる. 空気層の熱移動抵抗に及ぼす自然対流の影響は層の厚さが10 mm以下では無視できる. 実験で得られた重ね着衣服の熱移動抵抗は重ね枚数とともに増大するが, 多重空気層の熱移動抵抗よりも小さかった. 一方, 衣服間空隙が一様になるようにした重ね着衣服では熱移動抵抗は多重空気層と同様に重ね枚数とともに大きくなった. 衣服間空隙が一様でない場合, 空隙厚さが小さい部分の熱移動抵抗の減少のため全体の熱移動抵抗が小さくなり, その減少は柔らかい布でできた衣服で大きくなる. 布の種類による衣服の熱移動抵抗は布の熱移動抵抗が大きいものほど大きくなるが, 衣服の熱移動抵抗の差は布の熱移動抵抗の差に比べて数倍大きくなった.

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© 2020 一般社団法人 日本家政学会
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