2021 年 72 巻 9 号 p. 609-616
楊洲周延が明治21年に制作した錦絵「貴顕舞踏の略図」に描かれた服飾について, 鹿鳴館に関する情報, 当時の服装規定等をもとに検討し, 鹿鳴館での舞踏会の場面であるとは言えないと結論付けた. そこでこの錦絵については二つの可能性が示唆された. 一点目はこの錦絵は舞踏の練習会の場面であるという点だ. 練習であれば女性がデイ・ドレスを着用していることは不自然ではない. 二点目は, 男性の服飾描写には不正確な個所もあり, そこから周延が入手した情報をもとに想像の範囲で描いたものであると推測されることだ. 当該錦絵は服飾史資料と見做すには不確かな要素があり, その扱いには慎重を期さねばならない.