日本家政学会誌
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日本の近代染織品に使われた無機色素の調査と鉄系色素の同定
古濱 裕樹谷田貝 麻美子
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2025 年 76 巻 1 号 p. 1-10

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抄録

 日本の江戸時代末期から大正時代にかけての染織物に使われた無機色素を非破壊手法で分析した. 蛍光X線分析によって染織物の色ごとに元素分析を行ったところ, 無機色素を構成する可能性がある元素としてアルミニウム, カルシウム, チタン, クロム, 鉄, 銅, 亜鉛, ヒ素, バリウム, 水銀, 鉛を検出した. そこで今回は多くの試料に含まれる可能性が示唆された鉄系無機色素について, プルシアンブルー, 黄色酸化鉄, 赤色酸化鉄の同定を試みた. 分光測色計で得た色彩値がリファレンスの鉄系無機色素と合致し, かつ鉄の元素が多く検出された部分について, 可視反射スペクトルの二次微分スペクトルで分析した. 二次微分スペクトルのピークの出現波長を多数のリファレンス試料のピークの出現率と平均強度から比較した. プルシアンブルーは近赤外マイクロスコープによる撮影画像も判定材料とした. 190試料の分析によってプルシアンブルー6試料, 黄色酸化鉄10試料, 赤色酸化鉄6試料を同定した. いずれも絹の染織物であり, 大正時代以降のものはなく, 同一染織物中に複数の種類の無機色素が使われているものもあった. 鉄系無機色素は色彩的価値や下地の色を隠す隠蔽性, 入手のしやすさなどから明治時代の染色ではしばしば使われていたことが分かった.

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