家政学雑誌
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漁村家族における権威構造とその規定要因
志摩漁村安乗の場合
湯沢 雍彦鈴木 敏子
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1973 年 24 巻 3 号 p. 229-237

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抄録

以上, 権威構造に影響を与えると思われる要因をいくつかとりあげて分析してみた.一地方に, 現在まである程度残されている昔の庶民型の配偶者選択様式が, 夫婦間の権威構造にどの程度影響しているかに興味をひかれたのであるが, 過去の夫婦の結ばれ方よりは, 現在の家族構成や夫婦の就労状況のほうが現実の家族の権威構造を大きく規定しているようである.たとえば, 老親の有無が老親と若夫婦の関係, さらには夫と妻の関係にまで影響を及ぼしていたし, 夫が同居しているか出稼ぎ別居中かが夫の権威を決定づけていた.そして夫婦間の権威構造にもっとも差異をもたらしている要因は夫婦の就労状況であり, その関係は4.で述べたとおりである.とすると, 労働人口の9割まで水産業関係者であり, 女子のほとんどが海女稼ぎをし, 夫婦ともに漁業従事者が大部分を占めていたことが判明している戦前では, 仕事の共同性から夫婦一致型, 海女である女の貴重な労働力から妻優位型の家族を想定できる.ところが, 社会経済的諸条件の変化に伴い, 水産業関係者は就業者総数の7割程度に減じ, そして約3割は被雇用労働者となって妻は村内の小工場へ, 夫は出稼ぎに出てしまうのが近年の趨勢である.その結果, 都市的な夫婦分業型の家族と, 夫が不在であるがための妻優位型家族が増加しつつある.今後も, 漁業関係者が多くはならないであろうという見通しの中で, ここにも漁村の家族生活が都市化していく過程の一部をみた.
その結果,
1) いちばん多い権威構造の類型は妻優位型で27%存在し, 都市家族にくらべると非常に多いが, 夫婦分業型も同程度ある.
2) 非日常的な家族全体の重要問題は夫と妻の相談によるか, あるいは夫が決定者になっているが, 日常的事項や妻自身の問題の決定は, ほとんど妻に委ねられており, 総じて今回の調査項目では妻がもっとも多くの決定権を有している.
3) 以上から, この地域では妻の家庭における地位が高いと推測される.
4) 家族の権威構造をもっとも規定している要因は, 現在の家族構成と夫婦の就労内容である.とくに夫婦の就労内容と権威構造との関係を, 就業構造の時代的変化に照らしてみた場合, 夫婦とも漁業従事者に多い夫婦一致型と, 妻が海女である家族に多い妻優位型とが減少し, 都市勤労者家族に多い'夫婦分業型と, 夫が出稼ぎ不在であるがための妻優位型が増加しているように思われ, 家族の権威構造における都市化の傾向がうかがわれる.

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