日本家政学会誌
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日本人成人女子にみられる身体形質の近代化と衣生活意識との関連性
岡田 宣子
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1988 年 39 巻 7 号 p. 699-710

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抄録

現代日本人成人女子について身体形質の近代化の現状に着目し, 衣生活に関する意識を背景とした衣生活行動をとらえ, 身体形質の近代化がどのように衣生活の選択傾向にかかわっているかということについて検討を行った.
1) 横断的な3世代にわたる20歳前後値資料により被服寸法にかかわる項目についてみると, 身長では約50年間に55mm, 下肢長は30年間に 28mm の増加がみられた (Table 4).柳沢資料と30年隔てた岡田資料に主成分分析を行ったところ size factor (長身化傾向), shape factor (細長化傾向), limbs to trunk factor (長脚化傾向) の主成分が解釈され, これら3主成分いずれも両集団間には0.1%で有意な時代差がみられたことから (Table 6), 身体形質の近代化が確認された.
2) 日常着を対象とした年間を通じての衣生活に関する意識調査から, 3世代のなかで世代が若いほど自己の体つきを強く意識しており, 体つきを配慮し, 整容のための下着を着用し, 流行を気にし, 格好の良さや見ばえの良さを配慮する衣生活行動の現状がとらえられた. 自己をより良く見せたいとする女性の着装への配慮から, 現代人にとって文化としての衣生活は, 社会生活を営むうえで大きな役割を演じていることが明白である.因子分析の検討から3世代はともに因子として「体つきを配慮する傾向」 (Table 8, 9) が解釈され, これが衣生活のなかで重要な要因として働いていることが明らかになった.また, 老年女子世代は中年女子世代の衣生活行動とかなり類似していることが統計的に裏付けられた (Table 10) ので, 次の「身体形質の近代化と衣生活意識との関連性」では老年女子世代を省いて検討することとした.
3) 「身体形質の近代化と衣生活意識との関連性」 をとらえるために, 体つきに対する意識と衣生活の選択傾向との関係について数量化斑類により検討した.その結果, 体つきの意識において母親娘集団はともに形質の近代化の影響を受け, ST.3の母親集団 (Fig.2) および娘集団では, 靴のヒールの高さの選定・衣服デザインの選定は, 高さの意識を基にして考慮しているとする高さの軸が解釈された.すなわち, 背の高さをより高く見せようとの配慮を示している.
また, 娘集団の約11%を占める, 背が高く形質の近代化の顕著なST.5の娘集団 (Fig.3) においては, 長さに関する二つの軸, 背の高さの意識の軸と脚の長さの意識の軸が認められ, ふとん・靴・衣服のデザイン・ズボンに関するすべての項目で, 背の高さを低く見せようとの配慮を示している.
以上のことから, 生物現象としての身体形質の近代化が, 文化としての衣生活における選択傾向に, 強く影響を及ぼしていることが明らかになった.

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