抄録
マイクロ波加熱と従来法加熱による食品中の脂質劣化に与える影響の違いを知りたいと考え, サンマの切り身を電子レンジと電気オーブンで加熱し, 加熱魚肉から総脂質を抽出し, 中性脂質区分とリン脂質区分に分けてその劣化を過酸化物価, カルボニル価, 蛍光強度, 着色度, 脂肪酸組成の測定と薄層クロマトグラフィーを行い調べた.
その結果, 総脂質については魚肉の内部温度100℃付近の試料では両加熱法による劣化に大きな差はなかったが, 170℃付近の試料ではマイクロ波加熱のものの方が劣化が進んでいた.そして中性脂質区分の劣化はあまり大きくなく, 両加熱法による差も大きくなかった.しかしリン脂質区分の加熱による劣化は中性脂質区分に比べてかなり大きく, その劣化に対しマイクロ波加熱の方が電気オーブン加熱より大きな影響を与え, 熱酸化に加え, 水溶性リン化合物への変化もより進行することがわかった.リン脂質の加熱劣化は著しい褐変を伴うことから, マイクロ波加熱の特徴である温度むらによる焼きむらをより顕著にする一因になっていると思われた.