日本家政学会誌
Online ISSN : 1882-0352
Print ISSN : 0913-5227
ISSN-L : 0913-5227
被災後の被服の調達・管理の実態
阪神大震災被災者の衣生活行動 (第2報)
木岡 悦子大村 知子森 由紀
著者情報
ジャーナル フリー

1997 年 48 巻 10 号 p. 903-913

詳細
抄録

阪神大震災における被災者の衣生活に関して, 第1報に引き続き被服の調達・管理行動を通して実態を把握し考察した。豊かなくらしの中では見落とされがちな衣に関する危機管理の問題がこれらの行動実態から提示された.人間のいのちを守るための最も身近な環境としての衣の役割が浮き彫りにされるとともに, 震災後1力年の間における被災者の行動経緯から被服の意義を確かめることができた.
主な結果は以下のとおりである.
震災後避難した者 (133入) の 97% が衣類を持ち出し, 持ち出さなかった, あるいは持ち出せなかった者は家屋が全壊した4人だけであった.
家族の衣生活を管理していた者は「家族と自分の衣類を持ち出した」のに対し, 他は「自分の衣類のみを持ち出した」傾向がみられた.
最初に持ち出した衣類は「コート」が最も多く (77人), 一瞬の出来事で寒さから身を守るためのとりあえず手近な防寒衣を持ち出したが, それに比べ下着の持ち出しをした者は49人と少なかった.
一方, ライフラインのストップによって, 下着類の洗濯は困難を極め, 「親戚・知人宅」や「井戸・川・雨水」等, 少量の水でなされていた.同じ肌着を着続けた場合の不快と感じた日数は3日以内が6割強を占めたが, なかには「1週間以上」「2週間」の回答もみられ, 被災程度による有意な違いがみられた.
被災6カ月後被服の購入希望は, 53.9%を占め, 全壊に比し半壊の方が希望が少なく, 必要な衣類をなくした被災者の一面がうかがわれた.一方, 「ワンピース」や「高級・おしゃれなもの」を望む, 装いに対する心理的欲求の側面もみられた.
さらに被災1年後では, 被服の購入に対し「衝動買いをしない」37.2%, ほか「パンツスタイル」や「動きやすさを重視する」といった回答が目立ち, 衣生活への見直しの傾向もみられた.
衣類の管理については, シーズンオフの冬物衣料は「プラスチックケース」や「ダンボール箱」に入れて保管した者が多く, また, 「クリーニング店」や「トランクルーム」に預けた者もみられた.シーズン中の夏物はタンスに入れたり部屋に吊るして管理する者が多くみられた.
身の回り品の収納具としてリュックサックが多く用いられており, 両手が自由になる, 便利, 歩きやすいなどの理由から, 1年後の現在もよく利用されていた.公共施設を利用した者には貴重品を持ち出した者が多く, それを保持するのにも利用されていたと考えられた.
救援物資を利用した者は33.1%で, 避難所生活者の利用が高かった.下着類が役立った反面, 古いもの, 汚れたもの, サイズなどの不満もみられた.
被災1年後の調査結果では, 非常用衣類の用意をしている者が全壊で7.7%, 半壊で6.7%とわずかにすぎず, 直後のみ・したことがない者が極めて多かった.

著者関連情報
© 社団法人日本家政学会
前の記事 次の記事
feedback
Top