抄録
この研究の目的は, 子どもが認知した異なった次元の父役割を, 因子分析の手法で明らかにすること, さらに, 異なる次元の父役割と子どもの認知した父子相互作用との関係, また, 父子相互作用と子どもの自尊心との関係を明らかにすることであった.父役割は, 父役割理論の文献研究およびインタビューから得られた資料を通じて, 父役割尺度を作成し測定された. 父子相互作用は, 父親の子どもに対する理解度, 子どもの父親に対する好意度で指標化された.対象者は575名の大学生であった.結果では, 子どもが認知した父役割は六つの異なる次元に分かれることが, 因子分析の結果明らかにされた.さらに, これらの父役割のうち, 表出的, 扶養的, 教育的役割は, 父子相互作用と関連がみられた.次に, 父子相互作用の一側面である, 子どもの父親に対する好意度は, 子どもの自尊心に影響を与えていることが明らかにされた.このことから, 伝統的な父役割以上に新しい父役割である表出的父役割が子どもに好意をもって認知されているといえよう.また, マスメディアが, 日本の家族には「父親がいない」と述べているが, 子どもの心には父親像や父役割が心理的に存在しているのではないだろうかと考察できる.