日本家政学会誌
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福徳平価住宅における生活支援機能に対する居住者の評価とその検討 (第2報)
台北市平価住宅における高齢居住者の居住様態と住意識に関する研究
謝 嫣娉今井 範子
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2002 年 53 巻 5 号 p. 465-476

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抄録

平価住宅における生活支援に対する評価から, それらの改善や整備を検討した結果をまとめると, 以下のようである.
(1) 在宅サービス利用者は, 現状の在宅サービスに対し, 安心して自立生活ができるサポートであると評価している.在宅サービスシステムを一層活用できるように, 利用者の身体状況の評価基準を明確にすることやヘルパーの養成など, サービスの制度を整備する必要がある.また, 在宅サービスの利用者も, 在宅サ一ビスを受ける基準を正しく理解し, 身体状況の変化に応じた適切なサービス受けるようにすることも重要である.
(2) 平価住宅の居住者はほとんど自炊しており, 給食サービスの利用者は少数である.給食サービスを利用しない理由として「味が合わない」が最も多くあげられている.平価住宅居住者の出身地は中国の各省出身者が多いため, 料理に対する味付けの好みも異なっている.給食サービスにおけるメニューの多様化が求められる.
(3) 緊急救援システムは, 独居高齢者にとって自立生活していく上で安心感を持たせていることがわかる.今後, 独居高齢者に限らずに, 夫婦のみや家族と同居している高齢者にも提供し, 家族と高齢者とも安心な暮らしを提供することが大切である.
(4) 平価住宅は購買施設を併設しており, 高齢者にとって, 買い物による身体的負担が軽減されている.また, 購買施設は住戸へ宅配サービスを行っており, このことは, 今後, 多くの高齢者が居住する他地域の購買施設においても, 充実させていくことが必要である.
(5) 平価住宅の職員の職務は, 福祉に関するものを中心としているが, 実際には居住者の人間関係や行事などに多岐にわたって, 対処しなければならない状況にある.そのため, 住民は職員の職務内容に対する正確な認識が重要である.また, 住民と職員との交流を深めるため, 行事などの活動による交流を広げることも大切である.一方, 夜間による在宅サービスの提供, 緊急救援システムの設置, 人員の配置などの支援体制を検討することが必要とされる.
(6) 平価住宅における行事への参加について, 行事への参加有無は, 高齢者の身体状況に依っている.そのため, 行事内容も工夫をし, 身体状況が良好ではない場合にも, 気軽に参加しやすい行事を行うことが大切である.また, 近隣住民との交流意識について, 多くの居住者は, 言葉が通じる人と話したいという要求がある.また, 平価住宅以外の近隣住民も公園に話しに来るという実態から, 地域生活空間における平価住宅は, 新たな交流の場所としての活用が期待できる.そのため, 居住者側と地域高齢者側との交流を促進するために, 地域への行事活動 (高齢者のレクリエーションなど) の提供を検討していく必要がある.
(7) 近隣の交流状況は, 「親しく付き合っている」型, 「挨拶のみ」型, 「近隣と付き合わない」型という3つのタイプが存在している.まず, 「親しく付き合っている」型は, 近隣との交流方法として, 会話や趣味などを行い, 交流場所も個人住戸内を利用している.
近隣関係は親密に付き合いをすることによって, 近隣による精神的・緊急的な生活支援を行いやすい.しかし, 高齢居住者の体力や精神を考慮すると, 適切な社会的支援も必要である.
次に, 「挨拶のみ」型は, 廊下や公園などの公共空間でしか交流活動が行われない.身体状況が良好ではない場合は, 「親類・友人」や「平価住宅のスタッフ」からの手伝いが多い.しかし, 親類, 友人, 職員による支援は, 緊急時に行うことが難しいと考えられる.そのため, 在宅サービスの実施や緊急救援システムの設置などの社会的支援が重要である.続いて, 「近隣と付き合わない」型については, 近隣と付き合わないため, 身体状況が良くない場合には, 「親類・友人」による支えが中心になっている.しかし, 「挨拶のみ」型と同様に, 親類・友人による援助には限界があるため, 「近隣と付き合わない」型に対して, 在宅サービス・緊急救援システム・職員による注意などの社会的支援が必要である.

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