抄録
本研究は、病院情報システムに入力/保存されているデータを活用した一連の実証研究の一環で、クリティカルパスの導入が病院経営におよぼす経済効果についての分析である。具体的には手術をともなう入院を必要とする複数の症例をとりあげ、病院が行っている治療の収支の実態を疾患別/患者別に把握するとともに、これらの症例の治療にクリティカルパスを導入したと仮定した場合の仮想的な収支を試算した。
その結果、手術をともなう入院では、手術の収支はおおむね黒字であるが、入院加療については基本的には赤字で、つまり、入院が長引けば長引くだけ病院の収益率は低下することが明らかになり、高額の差額ベッドを別にすれば、長期入院は病院にとって得策ではないことが実証された。クリティカルパスを導入すると仮定して行った試算によれば、クリティカルパスの導入によって入院期間が短縮するので、患者一人あたり (入院1ケースあたり) の病院の総収入は減少するが、一方で、収益率はかなり向上することがあきらかとなった。