主催: 日本ヒトプロテオーム機構
共催: 日本生化学会, 日本電気泳動学会, 日本蛋白質科学会, 日本分析化学会, 日本質量分析学会
各種がん細胞内タンパク質を、iTRAQ法を用いて高感度に解析する方法論の確立を試みた。用いた細胞は、同一患者から分離した転移能が異なる舌がん細胞4種、及び、神経線維腫症2型原因遺伝子のSiRNAによるノックダウン上皮細胞群とコントロール細胞群である。それぞれの細胞をプロテアーゼ阻害剤、フォスファターゼ阻害剤類を含む可溶化バッファーでホモジナイズ後、アセトン沈殿にて脱塩・濃縮を行い、トリプシン分解後、iTRAQ (114, 115, 116, 117)試薬を用いて修飾反応を行い、陽イオン交換カラムクロマトグラフィーにて12〜24フラクションに分画した。その後、nanoLC-ESI-Qq-TOF、及びLC-MALDI-TOF-TOFによるiTRAQ修飾ペプチドの定量的MS/MS解析を行った。平均して各フラクションより約1000個のペプチドのMS/MSスペクトラムが定量的に得られ、約200個のタンパク質(95のスコア以上)が特異的に差異のあるものとして同定された。特に30個のタンパク質が高転移性のがん細胞に高発現するものとして、又50個のタンパク質が低発現するものとして特異的に同定された。これらのタンパク質には、上皮細胞の転移性の特徴を示すマーカー分子群であるkeratinタンパク質のすべてのアイソマーをはじめとして、転写因子群、接着因子群、ヒートショックタンパク質、機能未知のタンパク質群が含まれており、2次元電気泳動を用いたimmuno-blottingによってvalidationを行ったところ、これらが、悪性転移がんマーカーとして使用できる可能性が示唆された。本方法論を用いたシステムでは、どの細胞種においても、各フラクション約1 ug以下の可溶化タンパク質混合物において測定可能であり、iTRAQを用いた4種類の細胞内タンパク質の新しい高感度同時proteomic differential display法として有用であることが明かとなった。