日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第3回大会
選択された号の論文の158件中1~50を表示しています
  • 森田 敦
    セッションID: S101-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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     血液には非常に多くのタンパク質が含まれており、その多くは生体の様々な状態に合わせて変動している。したがって、これらのうち特定のものに注目し、その濃度や活性を測定すれば、生体の現在の状態や近い将来起こるであろう変化までも読み取ることが可能である。今日までに、幾つかの血中タンパク質の変動を捉えることにより、疾患のスクリーニングや確定診断、病勢の把握などに利用されてきた。しかし10万種類以上存在するとも言われる血中タンパク質において、マーカーとしての意義や有用性を検討されたものは未だ一部に限られており、診断や治療方針策定に役立つ疾患マーカー、或いは薬剤の開発に役立つサロゲートマーカーになるものは、数多く存在すると考えられる。
     近年、急速に進歩したプロテオーム解析技術は、多種類のタンパク質の変化を一度の実験で網羅的に捉えられることに加え、これまで困難とされてきた微量タンパク質を効率良く解析することを可能にした。本技術を利用することにより、疾患に起因する血中タンパク質の濃度変化を検出し、特徴的に変動しているものを抽出して詳細に分析することは可能である。しかし、マーカーの有力候補となるタンパク質の殆どは僅かな濃度でしか存在しない。一方、血中にはアルブミンやグロブリンなど高濃度のタンパク質が存在しており、これらが微量タンパク質の差異解析を非常に困難なものにしている。このことが一因となって、微量の血中タンパク質のプロテオーム解析は、技術の進展に追随した報告例が比較的少ない状況にあると言える。
     これを打開するために、最近、血中に存在する高濃度タンパク質を予め除去して、微量タンパク質の解析を可能にする方法が開発されている。これらの中で、除去効率が優れている抗体アフィニティカラムを用いた方法により試料を調製し、蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動(2-D DIGE)法にて、卵巣がん疾患をモデルとした検討を試みた。その結果、これまで高濃度タンパク質の影響で捉えることのできなかった多くのタンパク質の濃度変化を観察することが可能となり、さらにマーカー候補として期待される幾つかのタンパク質も見出すことができた。
     本発表では、上記データの紹介に加えて、血中タンパク質を材料とした疾患マーカー探索おけるプロテオーム解析の課題や対策などについても述べたい。
  • 秋山 英雄, 田中 祥徳, 黒田 俊彦, 鄭 基晩, 棚橋 一裕, 菅谷 博之, 内海 潤, 川崎 博史, 平野 久
    セッションID: S101-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    昨今、プロテオーム解析の手法を用いた疾患関連マーカー探索が全世界的に活発に行われている。中でも血液(血清または血漿)を用いたプロテオーム解析は最も競争が激しい分野である。しかし、血液中にはアルブミンなどプロテオーム解析を妨害する20種前後のタンパク質が大量に含まれており、血液から如何にこれらの妨害タンパク質を除去できるかが課題となっていた。現在、妨害タンパク質の抗体等を用いた除去法が開発されているが、処理可能なサンプル量が少なく、除去できるタンパク質の種類も限られる。当社は中空糸膜を利用した分画デバイスを独自に開発し、血液中の妨害タンパク質を一気に除去すると共に、血中に低濃度で存在するタンパク質を濃縮することに成功した。この分画デバイスを3次元LC/MS/MS手法と組み合わせることにより、1mLの血液処理から2、500種前後の血中微量タンパク質を同定することに成功した。
  • 小林 直之
    セッションID: S101-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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     プロテオミクスとは細胞に含まれるすべてのタンパク質について網羅的にその発現や性質を研究することであり、この目的は、すべてのタンパク質の構造、機能、役割、および相互作用をオルガネラ・細胞・器官のようなタンパク質複合系の中で明らかにすることである。プロテオミクスの中核技術の1つである蛋白質のプロファイリングは、ゲノムのもつ遺伝子の発現情報をプロテオームのプロファイルとして可視化する試みであり、細胞や組織を対象とした蛋白質のプロファイリング技術の目標は数千から1万種類の蛋白質の分離と言われている。
     プロテオミクスでは発現の程度が大きく異なる数千ものタンパク質試料を一度に分離する必要があるため、試料の複雑さを軽減するための前処理(分画)法が重要である。フリーフロー電気泳動(free flow electrophoresis; FFE)は無担体電気泳動の1種であり、1960年代にBarrolierらおよびHanningによってはじめて紹介された。その原理は、2枚の平板からなる薄層分離チャンバー中に泳動バッファの流れをつくり、この流れと直角に直流電圧をかけて分離を行なうというものである。サンプル中の荷電粒子は荷電状況に応じて電圧の方向と平行に分離される。これまでに、タンパク質・ペプチドからオルガネラ・細胞などの高分子成分までの分離例が報告されている。FFEは以下に挙げる特徴を有する。
    1)分離層にゲルのような支持担体を使用しない(無担体電気泳動)。
    2)連続分画により数100 mg-数gレベルの試料を分離できる(連続電気泳動)。
    3)1つの泳動装置でも泳動バッファを選ぶことで3つの分離モード;(A)ゾーン電気泳動(zone electrophoresis; ZE)モード,(B)等速電気泳動(isotachophoresis; ITP)モード,(C)等電点電気泳動(isoelectric focusing; IEF)モード、を選択できる。以上の特徴から、FFEはプロテオーム解析における試料の前処理方法として、SDS-ゲル電気泳動、二次元電気泳動、LC-MS、MALDI-TOF-MSなどの分離・解析技術と多彩な組み合わせが可能である。
     本講演では、従来からの課題であった低発現タンパク質や膜タンパク質などを含むプロテオーム解析に、FFEを試料の前処理法とした応用例を挙げて、プロテオミクスにおける本技術の将来性について考えたい。
  • 服部 成介
    セッションID: S101-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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     近年プロテオーム解析が盛んに行われているが、その分解能はいまだ充分ではないためにシグナル伝達系の構成因子のような微量成分は、その解析から漏れているのが現状である。われわれは、2次元ゲル電気泳動を行なう前に生化学的な分画を行なうことにより微量成分が効率よく同定できると考え研究をすすめている。また異なる蛍光波長の色素を用いてタンパク質を標識し、同一ゲル上で展開することによりゲル間の泳動誤差を排除して解析している。
     シグナル伝達における重要な反応であるタンパク質リン酸化に注目し、リン酸化タンパク質を精製しそのパターンを解析することで、特定のキナーゼ基質を網羅的に同定するシステムを開発した。MAPキナーゼスーパーファミリーのひとつであるERKを活性化した細胞および抑制した細胞に由来するリン酸化タンパク質のパターンを比較したところ、ERK活性化細胞のみに見られるスポットを数十個検出することができた。これらのスポット中にはERKキナーゼカスケードの構成因子や既知のERK基質が認められ、このアプローチの妥当性が示された。他のスポットはERKの新規基質である可能性が高く、これまでに試験管内によりERKによりリン酸化されること、そのリン酸化部位はERKに特徴的なアミノ酸配列に一致していることなどを見いだしている。この方法は特定のキナーゼに対する特異的な阻害剤が利用可能であれば応用できる汎用性が高い方法であり、アポトーシス刺激によりp38MAPキナーゼによってリン酸化される因子についても研究を進めている。
     さらにシグナル伝達系因子が集積するとされる細胞内ラフト領域を精製し、その解析を行っており、T細胞抗原刺激にともない複数のシグナル伝達系因子が移行することを認めている。ラフトに移行する因子の中にはPIP3結合性のタンパク質が複数見いだされ、これらの因子がPI3-キナーゼの下流で機能することが示唆される。
     これらの結果は、2次元ゲル電気泳動の前に前分画を行なうことで、プロテオミクス技術によるシグナル伝達系の網羅的解析が効率よく行えることを示している。
  • 稲垣 直之
    セッションID: S101-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    二次元電気泳動法はプロテオーム解析法の中心的な基礎技術である。二次元電気泳動法は、質量分析法と組み合わせることにより組織や細胞に発現する多くのタンパク質(プロテオーム)を分離し同定することが可能であり、タンパク質の定量的解析ならびにその翻訳後修飾の解析にも威力を発揮する。しかし、数年前に我々が二次元電気泳動法をベースとしたプロテオミクスを始めてみると、本法にはいまだ感度の面で大きな制約があると実感せざるを得なかった。すなわち、細胞には数万種類のタンパク質が1~105から1~106のダイナミックレンジで発現していることが予想されるが、通常の二次元電気泳動法で検出可能なタンパク質のダイナミックレンジは1~104以下で数千個のタンパク質のスポットしか分離できない。我々はこの点を克服するために、複数のラージゲル(24 cm x 70 cm)を12枚組み合わせて93 cm x 103 cmの大型ゲル2次元電気泳動システムを構築した。その結果、約11,000個の細胞タンパク質スポットを検出することが可能となった。検出のダイナミックレンジの幅は1_から_105で、従来の手法の10_から_100倍であった。本法の応用例として、神経極性形成分子群の網羅的プロテオーム解析を紹介する。巨大ゲル2次元電気泳動法を用いて神経軸索に濃縮するタンパク質200個を検出し、そのうち82個のタンパク質を質量分析装置を用いて同定した。同定された分子のひとつは軸索に濃縮するのみならず神経細胞の極性形成初期の48時間に発現量が上昇することがわかった。この分子のEGFP融合タンパク質を作成してタイムラプス顕微鏡で観察したところ、神経軸索の先端部の成長円錐で流れ星(Shooting star)のようにダイナミックに移動することがわかったのでShootin1と命名した。また、抗体を作成しその細胞内局在を調べたところ、この分子は神経極性形成とともに神経軸索成長円錐に強く濃縮してゆくことがわかった。さらにShootin1の過剰発現により神経極性に乱れが生じ、過剰軸索の形成を誘導することがわかった。以上の結果からShootin1は神経極性形成の初期の段階において重要な役割を果たす可能性が示唆された。
  • 真鍋 敬, 金 亜, 谷 修
    セッションID: S101-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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     ヒトを含む動物のタンパク質システムを分析し再構成するためのモデル系として、ヒト血漿タンパク質の2次元ゲル電気泳動による解析を行ってきた。一般には、2次元ゲル電気泳動は変性条件(あらかじめ高濃度尿素、還元剤、界面活性剤で一本ずつのポリペプチドに解離させてから等電点電気泳動、SDSゲル電気泳動を行う)で実施されてきた。これは、タンパク質の分析において最も重要な情報であるアミノ酸配列を決定するために、化学的配列決定法を用いると試料はほぼ純粋な単一のポリペプチドである必要があったことが、主な理由であると考えられる。 しかし、ゲノムの塩基配列が決定され、質量分析法によってペプチドのアミノ酸配列を推定したり、タンパク質を同定することができるようになった現在では、変性条件の2次元ゲル電気泳動を用いる必要性は以前に比較してずっと小さくなっている。我々が以前から主張してきたように、非変性条件で機能を保持した状態のタンパク質を分離し、その機能とアミノ酸配列・ポリペプチド鎖構成とを同時に分析することが、タンパク質システムの再構成には必須であると考えている。 この趣旨から、ヒト血漿タンパク質を非変性条件の2次元電気泳動で分離し、質量分析法でタンパク質の同定・部分アミノ酸配列の決定を行ってきた結果を報告する(Mukai and Manabe, J. Electrophoresis 2004, 48, 59-66, Jin and Manabe, Electrophoresis 2005, 26, 1019-1028) 。また、ヒト血漿をマトリックスと混合したものを直接 MALDI-TOF MS のターゲットにすることによっても、分子量30kDa以下程度のタンパク質について簡便・高感度・高精度にタンパク質とその修飾物の検出と同定が可能であることを報告する(Jin and Manabe, Electrophoresis 2005, in press)。
  • 高尾 敏文, 里見 佳典
    セッションID: S101-7
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    Nano-ESI-MS is a routine, standard analytical method that is used in the structural characterization of small amounts of samples. When used in conjunction with a Q-TOF mass spectrometer, high-accuracy mass measurements can be obtained. However, m/z values measured by TOF show significant drift in a time- and temperature-dependent manner and this can affect mass accuracy. In particular, a potential drift in mass detracts from the accuracy of LC/MS. To overcome this issue, a dual sprayer that is suitable for use in conjunction with nano-ESI was developed.The two sprayers are positioned orthogonal to each other. The analyte sample solution (10-100 fmol/uL) was placed, either in a glass-capillary tip or introduced as the effluent of a nano-flow LC into a fused-silica tip (10 μm, i.d. (tip)). The reference solution (α-endorphin, 2 pmol/μL) was introduced using a syringe pump at a flow rate of 1 μL/min into a fused-silica transfer line (20 μm, i.d.). Separate voltage settings, independently generated by two high voltage power supplies, are then applied to the sample and reference sprayers. The data from the reference spray were used to calculate a correction factor for calibrating the m/z scale.When the sample and reference sprayers are raised to the target voltages in the range of 0 - 3.0 kV, a nano spray at a rate of 5-10 nL/min can be generated from the sample sprayer using a nano-flow borosilicate tip and a conventional spray at a rate of flow of 1-2 μL/min from the reference sprayer using the fused-silica line in an alternate fashion by switching over from a low (high) to a high (low) voltage at each sprayer. It thus permits the acquisition of consecutive mass spectra of a sample and reference compound. The mass accuracy obtained after correction with a lock mass reference was found to be within 4 ppm for ions up to m/z 1000 that were observed in a nano-ESI-MS of synthetic peptides or a nano-flow LC/ESI-MS of a LEP digest of carboxymethylated BSA.
  • 石濱 泰, 小田 吉哉, 田畑 剛, 生木 尚志, 宮本 憲優, 佐藤 俊孝, 黒光 淳郎
    セッションID: S101-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    細胞中のタンパク質濃度を網羅的に測定することは、タンパク質の生物学的な役割を調べる上で重要である。従来法として、色素や抗体を用いる方法、酵素の場合はその活性を測定する方法があるが、正確性や網羅性に問題があった。質量分析を用いる方法としては安定同位体標識した濃度既知の合成ペプチドを試料に添加する同位体希釈法がある。我々はタンパク質混合試料を網羅的に定量する方法として、増幅同位体希釈法を開発した[Ishihama et al., Nat. Biotechnol., 2005, 23, 617-621]。この方法は、非標識合成ペプチドと同位体標識した培養細胞由来タンパク質溶液を用いて試料タンパク質を定量するもので、従来の同位体希釈法に比べ、正確性やコストなどの点で優れている。また、組織由来の試料に対しても適用可能である。ただし、対象タンパク質について少なくとも1つは合成ペプチドを用意する必要があり、その適用範囲が限られるという短所があった。そこで、より広範囲をカバーする簡便な方法として、LC-MSMS分析時に得られるパラメータからタンパク質の存在量を推定する方法を開発した。これは、測定ペプチド数と理論ペプチド数の比がタンパク質濃度の対数と直線関係にあることを利用したもので、ペプチド数比の指数から1を引いた数をexponentially modified protein abundance index (emPAI)と定義した。マウス全脳抽出試料を用いて増幅同位体希釈法による結果と比較した結果、emPAIは約100個のタンパク質に対して5倍以内の精度を有していた。異なるMSと異なる液相分画法を組み合わせながらemPAI法を適用した結果、例えば大腸菌の全可溶性タンパク質について、その80%以上(約2000タンパク質)を同定すると同時に定量することも可能となった。更に、本法を様々なマウス組織およびその組織由来の培養細胞に適用した。その結果、脳や肝臓など組織毎のタンパク質の量的な分布を比較分類することが可能となった。emPAI法はあくまでタンパク質濃度の推定法であるが、タンパク質の同定実験結果からそのまま算出できるので、簡便性および網羅性を備えたタンパク質定量発現解析の汎用法として期待される。
  • 小布施 力史, 窪田 雅之, 野沢 壮宏
    セッションID: S101-9L
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    細胞核内の遺伝子発現は複数の蛋白質によって構成される複合体によって制御されていることが知られている。しかし、複合体の構成因子など詳細な分子メカニズムは明らかになっていない。如何なる細胞で、如何なる蛋白質が複合体を形成し、如何なる修飾を受けて発現を制御するのか。プロテオミクスによる解析例とともに、多次元液体クロマトグラフィー-質量分析計(2D-LC-MS)システムと最新のハイブリッド質量分析計の機能を紹介する。
  • Vern Reinhold, Andy Hanneman, Dave Ashline, Hailong Zhang, Tony Lapadu ...
    セッションID: S101-10L
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    The proliferation of reports attributing biological function to oligosaccharide epitopes continues unabated. To fully appreciate their specific biological roles an improved accounting of carbohydrate structural details needs greater scrutiny and more judicious reporting. Unfortunately, a comprehensive strategy for carbohydrate sequencing is lacking. This brief report will outline three focused efforts to establish congruent strategies for carbohydrate sequencing, (i) analytical considerations that account for all aspects of small oligomer structure by MSn disassembly, (ii) database support using an ion fragment library and associated tools for high throughput analysis, and (iii) a concluding algorithm for defining oligosaccharide topology from MSn disassembly pathways. The data mining effort focuses on correlating the fragments of small oligomers to stereospecific glycan structures, an outcome attributed to a combination of metal ion adduction and analyte conformation. Product masses and ion intensities vary with inter-residue linkage, branching position, and monomer stereochemistry. This bottom-up approach to achieve full oligosaccharide and glycan characterization will be supplemented with an MSn fragment spectral library and associated tools. The library, identified as FragLib, was initiated with known standards and commercially available oligomers prepared as methylated derivatives. As a third component of this effort we introduce the operational details of an algorithm defined as the Oligosaccharide Subtree Constraint Algorithm (OSCAR) used to assign the topology (branching and linkage) of permethylated glycans using MSn data. OSCAR accepts multiple MSn ion fragmentation pathways and proposes topologies that are consistent with all input ions. OSCAR uses glycosidic cleavages to compute branching and, when available, cross-ring cleavages to compute interresidue linkage. Because the algorithm is de novo (and therefore not limited to previously-characterized glycans) and high-performance, they represent a step toward high-throughput glycan analysis.
  • 中山 敬一, 松本 雅記
    セッションID: S101-11
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    われわれは、チロシンリン酸化やユビキチン化やなどのタンパク質翻訳後修飾に特化したプロテオーム解析を行うため、これらの翻訳後修飾基に対する特異的抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによる精製法、およびこれらのタンパク質の網羅的同定法の確立を試みてきた。チロシンリン酸化関連プロテオームに関しては様々なシグナル伝達系の解析への適用を検討している。まず3種類の細胞(Jurkat細胞:T細胞、Namalwa細胞:B細胞、HEK293T細胞:胎児腎臓上皮細胞)に特異的なシグナル(抗原レセプター等)又は非特異的なシグナル(バナジン酸処理)を用いることによって、細胞特異性とシグナル特異性を網羅的に解析しようとしている。既にチロシンリン酸化関連プロテオームとして737種類のタンパク質を同定した。いずれの場合においても40種類以上の既知のシグナル伝達分子を網羅的に同定可能であった。また多くの未知の分子群も同定され、今後これらの分子機能解析も行っていく予定である。さらに、安定同位体標識法との組み合わせることで、翻訳後修飾関連プロテオームの変動解析に成功している。さらにMS/MS同定頻度から簡易定量法を確立し、これらの定量法を用いることによって、多くの全く予期しなかったシグナル伝達系が浮かび上がってきた。特に抗原レセプターからの細胞骨格系、タンパク質翻訳系、さらに小胞体ストレス系へのシグナル伝達系の存在が認められ、現在これらの系の詳細について解析を開始しているところである。ユビキチン関連プロテオーム(Urp)に関しては通常条件下(Urp-N:ユビキチン化タンパク質及びその結合タンパク質)で330種類、変性条件下(Urp-D:ユビキチン化タンパク質のみ)で350種類のタンパク質を同定した。Urp-NとUrp-Dの間にはそのスペクトルに明らかな違いが認められた。前者はユビキチン・プロテアソーム系の分子群を多く含み、後者は翻訳系の分子やRNA結合分子などが多く検出された。さらに、いくつかの基質分子に関してはMS/MSスペクトルからユビキチン化部位の同定が可能であった。これらのタンパク質翻訳後修飾の網羅的解析は、従来のタンパク質の同定よりも遙かに複雑で膨大な情報量を含んでおり、今後益々重要な生物学的情報を提供するようになると思われる。
  • 田口 良
    セッションID: S101-12
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    蛋白質の脂質による翻訳後修飾は、蛋白質の生体膜への結合様式や、蛋白質の局在化の制御に密接に関係している。結合している脂質分子は、リン脂質の一種であるホスファチジルイノシトール(PI)を含む糖脂質、ミリスチン酸、パルミチン酸等の脂肪酸、ファルネシル基、やゲラニルゲラニル基等のイオプレノイドがある。これらの翻訳後修飾の解析にはソフトイオン化質量分析法が有効である。特に、ESI!)MS/MS分析のプレカーサースキャンやニュートラルロススキャンという、プレカーサーイオンの測定とフラグメントイオンの測定をリンクさせて行う方法を用い、ペプチド混合物の中から、ある特定のフラグメントイオンを持つプレカーサーイオンだけをすべて検出するという方法で、翻訳後修飾を持つペプチドのみを特異的に同定できる。GPI(glycosylphosphatidylinositol anchor)アンカー蛋白質と呼ばれる一群の蛋白質は、PIと蛋白質のC末端ペプチドが糖鎖を介して結合し、そのPIの疎水性領域であるdiradylglycerol部位により細胞膜の脂質二重層の外側に埋め込まれている形をとるものである。 GPIアンカーの糖鎖とイノシトールを含む構造は、脂質部分をPI特異的ホスホリパーゼCにより分解除去し、可溶化したタンパク質のC末端ペプチドを解析するという手法により行った。脂質部分の構造解析は、亜硝酸でグルコサミンとイノシトールの結合を切断し、遊離されるPIについて、脂質メタボローム解析の手法にもとづいて行った。さらに、LC-ESIMS又はESIMS/MSを用いて直接C末アンカーペプチドを効率よくスクリーニングできないかを検討し、ESIMS/MSのCIDスペクトラムによりGPIアンカー糖鎖に特徴的なフラグメントイオンを同定した。このフラグメント情報を元にLC-ESIMSにより遺伝子情報が得られていない蛋白質からもC末アンカー構造をもつペプチドの溶出位置とおおよその構造の解析をすることができた。現在、これらの手法によりGPIアンカータンパク質のプロセシングや生体膜機能との関係を検討している。その他の脂質による翻訳後修飾についてもそれらの特異的フラグメントによる検出法を検討中である。
  • Nicolle H Packer, Niclas G. Karlsson
    セッションID: S101-13
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    The mucous membranes which coat all the epithelial surfaces of the respiratory and gastrointestinal tract are the first line of defense against pathogenic infection. The primary components of mucous are the very high molecular weight glycoproteins – mucins. These proteins are composed of up to 80% sugar and present these densely packed oligosaccharide epitopes as the first level of interaction of the host with its environment. Once bound to the mucous the pathogens can be removed by mucous clearance or are immobilised for phagocytosis in healthy people, but can colonise and infect patients with disease. This pathogen-sugar interaction thus serves as an easily accessible target for drug intervention in the infective process.We can now analyse the structure of these large, complex molecules and determine the difference in the sugar epitopes which are presented to the pathogens in health and disease. Examples will be presented of the changes in oligosaccharides on the high molecular weight mucous glycoproteins that occur in the sputum of infected Cystic Fibrosis patients, in the intestine of mice infected with Campylobacter and in the milk fat globule membranes of human milk compared to cows milk. These data support the concept that these sugars are a natural defense mechanism for capturing pathogens.
  • 石塚 雄一
    セッションID: S101-14A
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    タンパク質のショットガン解析に代表されるLC-MS解析データには、大量のペプチド情報が含まれており、タンパク質そのものの解析では得られない生体機能・制御に関連した知見が導き出せることが示唆されています。しかし、その情報のほとんどはタンパク質同定に費やされており、タンパク質の機能や制御を理解する上でさらに重要な“発現定量解析”にはあまり使われていません。LC-MS解析による発現定量解析においてラベル化が一般的な手法となっていますが、新たな方法としてタンパク質消化ペプチドなどのイオン強度を直接、定量解析に用いる「ラベルフリー法」が検討されつつあります。この度、アマシャム バイオサイエンスでは、ラベルフリー法に特化したLC-MS解析用ディファレンシャル解析ソフトウェア 【DeCyder MS】を開発、発表いたしました。 【DeCyder MS】 はLC-MS解析で得られたMSデータを二次元的に展開し、ペプチドピークのシグナル強度マップとして視覚化することによって、ラベル化に依存しないディファレンシャル解析を可能します。 さらに、タンパク質消化ペプチドなどでは、同時に得られた網羅的なMS/MSデータからのタンパク質同定結果を【DeCyder MS】にインポートすることで、視覚化されたLC-MSデータにペプチド情報をマッピングさせることが可能です。 これまでLC-MS解析では、タンパク質やペプチドを同定する網羅的解析に有用な手法とされてきましたが、【DeCyder MS】の登場により、ペプチドレベルでのディファレンシャル解析が実現します。 本セミナーでは、【DeCyder MS】の特徴と共に、実際にヒト血漿プロテオーム解析において本ソフトウェアによる定量解析を試みた応用例をご紹介します。
  • 高橋 信弘
    セッションID: S101-15
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    リボソーム生合成は細胞にとって最も基本的な機能の一つであり、細胞増殖・生育・分化において重要な役割を果たす。酵母菌の場合、増殖期において、RNA polymerase I, IIが担う転写の50?60%がリボソーム生合成のためだけに行われるなど、細胞は消費するエネルギーと物質の大半をリボソーム生合成に費やする。従って、細胞によるエネルギーと物質の浪費を防ぐためにこの合成過程は厳密に制御される必要がある。酵母菌の場合、リボソーム生合成過程とその制御機構について、従来からの遺伝的解析手法に加え、最近のプロテオミクスの手法の導入によって理解が大きく進んできた。一方、ヒトの場合、リボソーム合成制御の異常が癌化や他の疾病の原因となることが相次いで明らかになりつつあるなど、その合成過程と制御機構の解明の重要性が認識されてきているにもかかわらず、遺伝的解析が困難であることだけでなく、そのあまりの複雑さのためにほとんど手が付けられていないのが現状である。この発表では、リボソーム生合成過程にかかわると考えられている様々なトランス因子をbaitとして、合成段階の異なるリボソーム合成中間体を各種単離し、その構成成分をLC-MS/MSを主体としたショットガン法や安定同位体試薬を用いた定量比較法などのプロテオミクスの手法を駆使した解析に加え、生化学的手法や細胞生物学的手法を組合せた解析によって、ヒトのリボソーム生合成経路とその制御機構の全容解明を目指した試みについて紹介する。
  • 藤山 沙理
    セッションID: S101-16
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
     プロリン異性化酵素Par14は、細胞内において有糸分裂、転写、癌化等様々な現象に関与しているPin1と高い相同性を持つことから、Pin1同様、Par14も重要な役割を担うことが予想されているが、その機能については全くわかっていない。そこでPar14の機能に関する知見を得るため、まず初めに機能プロテオミクス解析の手法により、Par14とその相互作用タンパク質から成る複合体を単離後、質量分析計を用いて複合体の構成タンパク質を網羅的に同定した。タンパク質の同定手法としては、ゲル内タンパク質消化とPMF法の組み合わせと、LC-MS/MS法の二種類を用いた。その結果、PMF法では91種類のタンパク質、LC-MS/MS法では132種類のタンパク質を同定した。そのうち70種類のタンパク質は両方の同定手法で同定され、合計で153種類のタンパク質をPar14複合体の構成タンパク質として同定した。その内訳は、リボソームタンパク質63種類と53種類のリボソーム生合成過程で機能するトランス作用因子、そしてその他のタンパク質34種類であった。これらのタンパク質は、細胞内においてリボソーム生合成経路の中間体として生成するリボソーム前駆体を構成することから、Par14複合体はリボソーム前駆体である可能性が示唆された。そこで次にこの複合体にrRNAが含まれるかを検討した。その結果、3種類の成熟型rRNAに加え、4種類のrRNA前駆体 (pre-rRNA) が含まれていることを確認した。以上の結果から、単離したPar14複合体はリボソーム前駆体であると結論付けた。 そこで次にPar14は細胞内でもリボソーム前駆体と結合しているか否かを検証するため、ショ糖密度勾配遠心法によりリボソームサブユニットを分離し、内在性のPar14はどの画分に含まれるかを調べた。その結果Par14は核内の40Sリボソーム前駆体の画分に存在することがわかった。さらにRNAiによりPar14をノックダウンすると細胞内の40S小サブユニットが減少したことから、Par14はリボソーム小サブユニットの生合成を正に制御している可能性が示唆された。 以上のように本研究の結果は、全くの機能未知であるタンパク質の機能を知るためのツールとして、機能プロテオミクス解析の手法が非常に有効であることを示した最初の例の一つであると言える。
  • 岩崎 了教, 長土居 有隆, 明石 知子, 西村 善文
    セッションID: S101-17
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    Mtogen-activated protein kinase (MAPK)は細胞外から刺激に応答して活性化され、細胞表面から核内へのシグナル伝達を担うSer/Thr キナーゼである。上流のMAPKKK、MAPKKによってリン酸化されたp38は核内に移行し、ATF2をリン酸化する。ATF2はcre配列に結合する転写因子であり、N、C末端側にそれぞれ転写活性化ドメイン(TAD)とb-zip構造のDNA結合ドメインを持つ。ATF2_-_TADの構造はNMR法により当研究室で決定されており、N末端側にZnフィンガー構造を持つが、リン酸化の標的となる2つのThrを含むC末端側は特定の構造をとらず、ランダムな構造を持つことがわかっている。また、X線結晶構造解析により、p38の立体構造が決定されており、基質、上流キナーゼの一部の配列を含むペプチドとの複合体の構造も決定されている。本研究で用いた試料はいずれもマウス由来であるが、ヒトとのアミノ酸配列上の違いはp38における2残基のみで、ATF2-TADに関してはマウス、ラット、ヒト、ニワトリで完全に保存されている。ATF2-TADとp38をそれぞれ大腸菌大量発現系にて発現させ、精製した。MAPKKファミリーのMKK6で活性化したp38をATF2-TADとATPと共にインキュベートした試料をESI MSで測定したところATF2-TADのリン酸化が確認され、精製したp38は活性を保持していることが確認された。両試料を用いて、重水素交換法とESI-MSを組み合わせて解析を行っている。重水素交換後、インジェクションから酵素消化、MS(or MS/MS)測定までをon-lineで行う。
  • 田中 博
    セッションID: S101-18
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    プロテオーム情報は生命科学だけでなく医学に寄与する有力なポストゲノム情報として強力に推進されている。プロテオーム情報収集は、2次元電気泳動からのゲルスポットを切り出し、酵素消化などで処理した後、LC-ESI法やMALDI法など質量分析器で解析する方法などが取られる。質量分析なども測定方法面においてもイオン化法やMS/MSやMSnなど多様化が進められているが、情報処理における最初の段階は、これら質量スペクトルから得られたタンパク質の消化断片からもとのタンパク質を同定することであるが、これについては、近年さまざまな方法が提案され、データベースや断片化パターンに基づいた事前計算などを利用したPMF法、PST法、de novoシーケンシング法などが現在利用され商用化されたソフトも普及している。プロテオームの臨床応用(疾患プロテオミックス)では、疾患に起因して発現量が増加または減少するタンパク質が対象となる。とくにサンプルの前処理が簡単なSELDI-TOFMSは臨床応用が注目され、 (1)疾病を定量的に判断するための指標(バイオマーカ)探索を行う単一マーカ解析や、(2)複数のバイオマーカを組み合わせ、発現プロファイルを解析して疾病の有無を判定する複数マーカ解析がある。単一マーカ解析は従来の統計解析で対応可能であるが、プロファイル解析では、データから有効な情報を発見する「データマイニングdeata-mining」手法が用いられる。その手法としては主成分分析、階層的クラスタリング、非階層的クラスタリング (k-means法)、線形・非線形判別などの従来の多変量解析だけでなく、データマイニングに特有な手法として、決定木、自己組織化マップ、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシンが使用されて、これまでも前立腺がんや卵巣がんなど疾患の鑑別診断や全体的な傾向の把握に利用されている。ただ変量数(質量スペクトル)が個体症例数より著しく多い多次元データであるので、既知情報・知識などの利用なども含めた精度改善など多くの克服すべき課題が存在している。我々は最適化重み付けVoting法を新たに開発し、千葉大学大学院分子病態解析学研究室(野村文夫教授)との共同研究で、アルコール飲酒群と非飲酒群や肝がん肝硬変の患者識別に適用している。その結果もあわせて紹介する。
  • 根本 直, ディミトリ フェドロフ, 古明地 勇人, 金澤 健治, 上林 正巳, 北浦 和夫
    セッションID: S101-19
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    大規模な構造プロテオミクスプロジェクトの進展に伴い、多数のタンパク質の立体構造がNMR法やX線回折などにより非常に高速に集積されて来ている。これらの構造データの取得における最終段階には通常、分子動力学計算を用いた立体構造の「焼きなまし」が行われている。演者らは、それらの構造データのさらなる高度利用を目指し、フラグメント分子軌道(FMO)法の適用を検討してきている。本手法は、現時点ではNMR法によって構造が求められた比較的小さなタンパク質であれば重原子を含んだ全原子位置を、第一原理に基づく(非経験的な)分子軌道計算のみで高精度に構造最適化を行い、また大きなタンパク質であっても一点計算にて電子状態を解析することができる。したがって、溶液NMR法において情報の乏しい傾向が著しい短鎖ポリペプチドの解析の結果得られる多数の(不特定な)構造の一つ一つについて再度精密な構造を比較的高速に創出することが可能であり、その中には生物的意義を示す有効な構造が含まれる可能性が高い。また、リガンド_-_結合タンパク質のリガンド存在下における結合状態についてその電子状態を解析することにより、その分子の部分構造の結合への寄与の詳細を検討することが可能である。われわれは標的タンパク質として、結合ポケット内部に水分子が観測されないこと、結合ポケットにリガンド分子が結合した状態および結合していない状態の両方で構造が解かれていること、それほど大きくないタンパク質であることなどを基準に、カイコガ性フェロモン結合タンパク質を選定し、X線構造解析により構造の解かれたPDBファイル(1DQE)をもとにして各種解析を行ってきている。今回は、構造ファイル中のリガンドであるボンビコールを、自然状態でカイコガが利用しているアルデヒド体副成分ボンビカールに改変してFMO法にてリガンド各部位の部分構造ごとにタンパク質への結合の寄与度を見積り、ボンビコールと比較検討を例として応用例を示したい。
  • 剣持 聡久, 吉田 豊, 宮崎 賢司, 上條 憲一, 山本 格, 次田 晧
    セッションID: S101-20
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、研究者間の情報交換がプロテオミクスの発展を推進するものと考え、これまでに、プロテオーム解析データの交換を容易にするデータ記述方法として、XML(Extensible Markup Language)を用いたHUP-ML(Human Proteome Markup Language)を提案し、HUP-MLで記述したプロテオームデータのデータベース化を行ってきた。今回、正常腎糸球体のプロテオーム解析結果として、2次元電気泳動(2-DE)および質量分析により、約200種類のタンパク質を決定できたことから、その結果をデータベースとして構築し、さらに、Webデータベースとして公開した。データベース構築においては、まず、データ作成ツール(HUP-MLエディタ)を用いて、試料の情報、実験プロトコルおよび実験条件、2-DEゲル上のスポット情報、同定されたタンパク質のアノテーション情報等を含むデータを作成した。このHUP-MLデータから、データベースサイト各ページを構成するデータを抽出し、さらに、公共データベースへのリンク機能やCGIによる検索機能を追加して、データベースを構築した。開発したプロテオームWebデータベースは、試料の情報、実験条件、スポットの一覧、2-DE画像、元になっているHUP-MLデータのダウンロード等のメニューを備えている。スポットの一覧ページにおいては、各スポットのタンパク質のアクセッションが公共データベースへのリンクとなっている。2-DE画像上には同定スポットがマーク表示されており、クリックすることによって、pIおよびMWの観測値と理論値、タンパク質名、同定手法等の詳細情報が開く。タンパク質名、公共データベースのアクセッション、pIおよびMWの値、機能分類、関連遺伝子名、および、関連遺伝子のアクセッションをキーとして検索を行う機能も実現した。今後は、腎糸球体疾患例のプロテオーム解析結果をデータベースに追加し、正常プロテオームとの比較を行えるようにすることにより、疾患マーカーの発見、腎疾患の発症機序解明を支えるインフォマティクス基盤を強化していきたい。なお、今回構築したプロテオームデータベースは、以下のアドレスで公開している。http://www.sw.nec.co.jp/bio/.
  • 戸田 年総, 櫻井 洋子, 森澤 拓, 中村 愛, 廣田 三佳子
    セッションID: S101-21
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
     高齢者の介護は家族に大きな負担を強いるばかりでなく、介護保険制度上も経済的な損失となることから、国や自治体は要介護高齢者の数を減らすための『介護予防』に力を入れ始めている。高齢者が要介護状態に陥る疾患には様々なものがあるが、とりわけアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、発症初期の症状が生理的老化現象と見分けにくく、鋭敏で特異的な早期診断マーカーが望まれている。
     神経変性疾患は中枢神経系細胞の病態であり、本来なら脳組織を直接調べるべきだが、脳生検は被験者に大きなダメージとなる。最も侵襲性が低いのは血液検査であるが、血液成分の大部分は脳以外の組織に由来し、神経変性のマーカーを血液成分の分析で見いだすことは困難である。一方髄液は脳由来のペプチドやタンパク質を多く含み、神経変性疾患のバイオマーカー探索に向いているが問題点もある。そもそも髄液は血液由来の成分を多く含んでおり、またサンプリングによっては血液のコンタミを起こすことがあるので、そこから脳由来の成分の変化のみを抽出する必要がある。そこで我々はこの問題を解決するために、髄液中のタンパク質成分が、Neuron系、Astrocyte系、Ologodendrocyte系のいずれの細胞に由来するものかをあらかじめ特定し、データベース化しておくことを考えた。
     最終的にはヒトサンプルで行う必要があるが、今回はラット胎児脳から前駆細胞を単離、培養系でNeuron系、Astrocyte系、Ologodendrocyte系の細胞に分化させ、プロテオームデータベースを構築した。また脳組織、脳脊髄液、および培地中に分泌されるタンパク質の解析を行い、データベースにリンクさせた。その結果、同じグリア系の細胞でありながらOlogodendrocyteとAstrocyteの発現タンパク質には大きな差異が見られるのに対し、OlogodendrocyteとNeuronは共通点が多いことがわかった。とりわけ神経系細胞で特異的に発現されることが知られているDRP-2 とDRP-3は、二次元電気泳動で多くのアイソフォームとして検出され、Neuron系、Astrocyte系、Ologodendrocyte系細胞にそれぞれ特徴的な発現パターンを示すことがわかった。さらにこれらは細胞外にも分泌され、髄液検査の対象となりえることもわかった。
  • 吉田 豊, 許 波, 宮崎 賢司, 剣持 聡久, 上條 憲一, 次田 晧, 張 瑩, 矢尾板 永信, 山本 格
    セッションID: S101-22
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    慢性糸球体腎炎の発症機序解明と創薬ターゲット探索を支援することを目的として、ヒト腎臓糸球体プロテオームの2次元電気泳動(2-DE)によるプロファイリングとデータベース構築を行なっている。我々はすでにヒト腎腫瘍で腎摘出手術を受けた患者の腎臓のうち、病理学的に異常所見のない腎皮質から高度に精製した糸球体試料を、ラージフォーマット(26 x 20 cm)ゲルを用いる2-DEにより分離し、検出された1,713個のスポットのうち、347個のタンパク質スポットの同定に成功し、これらの結果をWeb上に公開し研究者の利用に供している(www.sw.nec.co.jp/bio/)。また、同様な手法で分析した皮質と髄質の2-DE解析の結果と比較することにより、糸球体に特異的あるいは多く存在する204個のタンパク質スポットを見出した。このデータベースをさらに発展させ臨床研究に応用するために、腎生検試料から単離した微量糸球体タンパク質の2-DEによるプロファイリングとデータベース構築の可能性について検討した。ヒト腎皮質試料から単離した糸球体タンパク質が1個あたり0.6-0.9μgであったことから、極めて高い感受性をもち、正確なタンパク質発現差異解析が可能なタンパク質標識色素であるCy-3あるいはCy5-Saturation dye(Amersham Biosciences)を用いることにより、ラージフォーマット2-DEで分離・検出することが可能であると考えた。予備的検討として、実際の腎生検試料を対象にして正確で一貫性のある定量的発現差異解析を可能にするため、大量調製が可能な摘出腎からの精製糸球体タンパク質をCy-3で標識し内部標準として使用し、腎生検試料に含まれる糸球体タンパク質をCy-5で標識し、両者を等量混合した試料を2-DEで分離するという実験プラットフォームの検討を行なった。その結果、2.5μg(糸球体で3-4個に対応)のタンパク質試料で、1500-2000個の明確なスポットが検出可能であり、また高い定量性を示すことが明らかになった。以上の結果から、腎生検試料から単離した糸球体で2-DEによるプロファイリングとタンパク質発現差異解析が可能であることがわかった。タンパク質スポット同定のためのリファレンスゲルの作製も含め、腎生検試料から単離した糸球体のプロテオーム解析システムについて提案する。
  • 谷口  直之
    セッションID: S102-1M
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    It is well known that over half of all proteins undergo glycosylation which make this reaction the most abundant posttranslational modification of proteins and is of critical importance in the post genomic era. It is timely that HGPI has been approved by the HUPO last year and has been added as one of the initiatives, since a growing body of evidence has accumulated to indicate that functional glycomics is important to our understanding of the glycoproteins, glycosylation process, and it role in the protein function. The goal of the HGPI is to characterize a disease-related glycome using two complementary approaches: One is based on functional glycomics and the other glycomics (a more structural focus) by mass spectrometry and/or glycobioinformatics. The functional screens are based on sugar remodeling techniques using these two major strategies. One utilizes cell transfectants or transgenic mice that overexpress glycosyltransferase genes. This will identify phenotypic changes and identify target proteins for glycosyltransferase genes in vitro and in vivo, and will identify functional changes in the target proteins. The second strategy uses mice, Drosophila or C. elegans by knocking out the genes or knocking down the gene by means of sRNAi methodology. This will permit phenotypic changes to be characterized the target proteins on which sugar chains are carried to be identified, as well as functional changes of the target proteins, Glycomic strategies provide a complementary approach. The goal is to identify and characterize the glycoproteins involved in disease such as cancer, inflammation, life-style related diseases, neurodenerative diseases, using newly developed, high sensitivity and high through put Mass spectrometry. This initiative will enhance the exchange of information between researchers in this field, as well as world-wide initiatives, such as NIH functional glycomics and the EuroCarb database or other consortia.
  • G. Pohlentz, M. Mormann, S. Kolbl, A. Zamfir, L. Bindila, M. Froesch, ...
    セッションID: S102-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    For implementation of novel mass spectrometry-based protocols for glycoproteomics high demands on analytical techniques related to mass determination accuracy, sensitivity of detection, directed fragmentation and speed of data acquisition are required. Identification of glycoconjugate structure calls for efficient strategies similar to those for identification of proteins, but additional structural parameters relevant for their biological interaction specificity are the site of the glycosidic bond attachment, patterns of branching, and stereochemistry at anomeric centers. High speed mapping and sequencing of complex glycomixtures by MS became suitable for glycoproteomics recently introducing the on-line capillary electrophoresis and automated chip-based sample admission [1, 2]. High mass resolution and accuracy can be achieved on Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance (FT-ICR) MS at 9.4 T along with the possibility of electron capture dissociation (ECD) and infrared multiphoton dissociation (IRMPD) fragmentation for determination of glycosylation patterns [3, 4]. Sample admission by chips coupled to FT-ICR gave a significant rise in sensitivity and speed of analysis [5-8]. High coverage of the protein sequence can be achieved by in-capillary digestion [9]. A basic new protocol requirement for HTP glycomics is a computational method for interpretation of the composition of oligomers and their sequences obtained by tandem MS experiments [10]. 1. A. Zamfir, et al., Electrophoresis 25 (2004) 2010-2016. 2. A. Zamfir, et al., Anal. Chem. 76 (2004), 2046-2054. 3. M. Mormann, et al., Int. J. Mass Spectrom. 234 (2004) 11-21. 4. M. Mormann, et al., Eur. J. Mass Spectrom. (2005) in press. 5. L. Bindila, et al., J. Mass Spectrom. 39 (2004) 1190-1201. 6. L. Bindila, et al., Rapid Comm. Mass Spectrom. 18 (2004) 2913-2920. 7. M. Froesch, et al., Rapid Comm. Mass. Spectrom. 18 (2004) 3084-3092. 8. L. Bindila, et al., Lab on the Chip 5 (2005) 298-307. 9. G. Pohlentz, et al., Proteomics 5 (2005) 1758-1763. 10. S. Vakhrushev, et al., Proteomics 5 (2005) in press.
  • 成松 久
    セッションID: S102-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    タンパク質は、翻訳後修飾を受けた後、機能分子となる。糖鎖修飾は、翻訳後修飾の主要な機能であるが、その複雑な構造が研究を困難にしてきた。糖タンパク質や糖脂質の糖鎖生合成機構を理解するためには、糖鎖合成に関与する糖鎖遺伝子群(Glycogene)を網羅的に取得する必要性があった。2001年の3月までに、110 種類のヒト糖鎖遺伝子がクローニングされ解析されていた。糖鎖遺伝子とは、糖転移酵素、糖鎖に硫酸を転移する硫酸転移酵素、糖ヌクレオチド・トランスポーター、その他の遺伝子群を含む。2001年4月に、我々は、残されたヒト糖鎖遺伝子を網羅的にクローニングしその基質特異性を解析するプロジェクトを開始した。バイオインフォーマテイクスの助けにより、105種類の糖鎖遺伝子候補を見つけ出し、すべてクローニングし解析した。現在、165種類のヒト糖鎖遺伝子がGatewayエントリーベクターにヒト糖鎖遺伝子ライブラリーとして構築されており、すべて活性を持ったリコンビナント酵素として容易に発現できる。このリコンビナント酵素を利用して、多種類のオリゴ糖やオリゴ糖ペプチドを合成可能となった。合成した糖鎖ライブラリーは、糖鎖結合タンパク質(レクチン、抗体、細菌毒素)やウイルスの結合特異性のスクリーニングに有効利用できる。そればかりでなく、MSによる糖鎖構造解析のための糖鎖標準品として供給している。糖鎖標準品を、タンデムMSnにより解析し、そのシグナル強度とシグナルプロファイルを集積し、糖鎖構造とMSnデータを連結したデータベースを構築している。このデータベースが完成すれば、以下の事が可能となると思える。糖鎖構造の知識、MS技術の知識、いずれも持ち合わせない研究者、技術員でも、迅速に、簡便に、かつ微量の糖鎖サンプルの構造解析が可能となる。
  • 平林 淳, 久野 敦, 久野 しおり, 内山 昇, 江部 洋史, 堀尾 浩司
    セッションID: S102-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    細胞表層に存在する糖タンパク質糖鎖は、生物種・個体・組織ばかりでなく、細胞状態(分化度・悪性度)と密接に関連し、細胞機能を制御する上で重要な役割を担っていると考えられる。構造グライコミクスは様々な機能タンパク質に付加された糖鎖の構造を、工学的手法により簡便、鋭敏、網羅的に解明することを目指す。特に疾病に関連した糖鎖構造の変化を追跡するには、糖鎖構造を完全に決定することよりも、肝心の構造変化をハイスループットに信頼度高くとらえることの方が重要な主題となってくる。すなわち、重要な構造情報に焦点化した「糖鎖プロファイリング」の技術開発が求められる。我々はレクチンの糖特異性を詳細に解析する手法としてフロンタル・アフィニティ・クロマトグラフィー(FAC)自動化装置を島津製作所と共同開発しているが(NEDO糖鎖エンジニアリングプロジェクト)、ここで得られるレクチン・糖鎖間の相互作用データを活用し、糖鎖プロファイリングの実地解析に有用なレクチンマイクロアレイの開発を行っている(モリテックスとの共同研究)。既報のプロテインアレイや糖鎖アレイの検出原理は、おもに免疫学的検出法を基礎としているため、プロービング後の洗浄操作が必要となる。しかし、一般に知られているように、糖鎖・レクチン間の親和力は弱く(解離定数Kd>10-6M)、洗浄により失われてしまうことが予想される。また、糖鎖構造をプロファイルする意味では、多くのレクチンとの結合を単に定性的に調べるだけではなく、その相互作用を強〜弱に渡る広いダイナミックレンジで解析できることが、糖鎖構造に関する豊富な情報を取得するために望ましい。そこで本研究では、プロービング溶液を除去することなく相互作用検出をリアルタイムで液層検出可能な、エバネッセント波励起型アレイスキャニングシステムを検出原理として採択し、高精度・高感度なレクチンアレイの開発を行っている。Cy3標識した糖タンパク質プローブを各種調製し、本システムの性能評価を行ったところ、アレイ上のシグナルは定量的に検出され、かつレクチンの親和性や糖タンパク質糖鎖の種類をよく反映していた。現在、FACで糖特異性が調べられたレクチンを中心に、40種のレクチンタンパク質を選択しこれらを固定化したマイクロアレイを作製し、応用面を含めさらに詳細な検討を行っている。
  • 川崎 ナナ, 橋井 則貴, 松石 紫, 伊藤 さつき, 原園 景, 川西 徹
    セッションID: S102-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
     生体内のタンパク質には様々な糖鎖が結合している。この中のいくつかの糖鎖構造は、活性や疾患等と密接な関わりがあることが明らかとなってきた。しかし、それらの糖鎖の体内分布やその糖鎖が結合しているタンパク質は一部が明らかにされたにすぎない。我々は、生物活性や疾患等に関連する糖鎖の特異的検出、及び糖鎖結合タンパク質の同定を目的として、糖鎖及び糖ペプチド混合物の中から、任意の構造を有する糖鎖及び糖ペプチドを選択的に検出し、解析する方法を検討している。
     Galbeta1-4(Fucalpha1-3)GlcNAc (Lex)は、発生や接着等に関与している部分糖鎖構造で、特にシアル酸が結合したLexは癌診断マーカーとして利用されている。しかし、Lexは抗体との反応性を利用して検出されているため、糖鎖全体の構造、及びLex結合タンパク質等については不明な点が多い。MS/MSは糖鎖配列解析用ツールとして広く利用されているが、Lexには位置異性体Galbeta1-3(Fucalpha1-4)GlcNAc (Lea)が存在するため、MS/MSによるグリコシド結合の開裂だけではLexを特定することは難しい。位置異性体が多く存在する糖鎖の特定には、多段階MS (MSn)によって生じた環開裂イオンが決め手になる場合がある。本研究では、Lexをモデル糖鎖とし、MSnによって生じたLex特異的環開裂イオンを指標としてLex結合糖鎖を選択的に検出する方法を検討した。
     はじめに、ESI-ITMS装置(LTQ-FT, Thermo Electron)を用いてピリジルアミノ化Lexを分析し、フルMS1、データ依存的MS2、MS3(前駆イオン:Gal1-4(Fuc1-3)GlcNAc)、及びMS4(前駆イオン:Gal1-4GlcNAc)の連続スキャンによってLex特異的な環開裂イオンが検出されることを見出した。そこで、モデル組織マウス腎臓から切り出した糖鎖混合物をLC/ESI-ITMS装置を用いて連続スキャン分析し、複数のLex結合糖鎖を検出すると同時に、その糖鎖構造を明らかにすることができた。
     本連続スキャン分析は他の糖鎖の構造特異的検出にも応用可能であり、また、本分析法を糖ペプチド解析に応用することができれば、Lex結合タンパク質の特定につながるものと期待される。
  • 和田 芳直, 田尻 道子, 吉田 周美
    セッションID: S102-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    Comparative glycoproteomics: Glycoproteomics is now attracting much attention in various fields of biology and medicine, but no efficient methods that enable the analyses of glycan structures and the amino acid sequences at the attachment sites in a high-throughput manner are available. Since glycopeptide is the key unit of these analyses, a method of enriching glycopeptides from a enzymatic digest has been developed (Anal Chem 76:6560-, 2004) as a core technique followed by MS, especially of MALDI with linear TOF or with multiple-stage tandem technologies. The performance of this strategy was examined by a comparative study on the site-specific glycoform at seven N-glycosylation sites of fibronectin between plasma and cellular isoforms; Asn1244 selectively escaped the global fucosylation of cellular fibronectin, while only Asn1007 and Asn2108 of the plasma isoform underwent modification. The results indicate that comparison of glycans is now very feasible at the site-specific level.Disease glycoproteomics: Defects in the genes participating in the N-linked glycosylation pathway cause congenital disorders of glycosylation (CDG). CDG is divided into two groups, CDG-I and CDG-II; CDG-I is caused by altered synthesis and transfer of the dolichyl pyrophosphate-linked precursor oligosaccharide to recipient proteins, while CDG-II results from defects in the subsequent processing steps, mostly on N-linked sugar chains. At the end of 2004, 18 different types of CDGs were known and the responsible genes and their defects have been elucidated. Considering that a number of cases remain undiagnosed, a diagnostic program utilizing the method described above has been launched in Japan.
  • 遠藤 玉夫, 戸田 年総, 萬谷 博, 鈴木 明身, 佐藤 雄治
    セッションID: S102-7
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
     老化の分子機構の解明に多くの期待が寄せられているが、老化には環境的要因や遺伝的要因が複雑に関与していることから、その機構を理解することは大変難しい。近年、線虫の寿命決定遺伝子やヒト早老症遺伝子の同定など、著しい分子生物学の進展を背景に、老化機構がようやく分子レベルで語られるようになってきたが、高度に分化した細胞によって構築されている多細胞生物の老化過程は未だ良く分かっていない。
     我々は新たな老化マーカーをプロテオーム解析によって探索し、その老化マーカー分子の機能および出現機構を探ることによって、老化メカニズムを解明することを目指している。これまでに我々が明らかにしたマーカーのうち、二つの例を取り上げて紹介したい。
     老化モデルマウスとして位置付けられているKlothoマウスの各臓器におけるタンパク質の発現を野生型マウスと比較して、Klothoマウスで著しく減少するタンパク質を発見し、αスペクトリンと同定した。さらにαスペクトリンの減少および分解をもたらすカルパインの異常な活性化を明らかにし、老化に伴う臓器不全のメカニズムを提唱した。
     もう一例は、2月齢および34月齢のラット大脳皮質可溶性糖タンパク質のコンカナバリンAとの反応性の比較により、老化により著しく増大する糖タンパク質を発見した。その同定を試み代表的なリソソーム酵素である、カテプシンDと同定した。他のリソソーム酵素の増大はないことから、リソソーム膜の崩壊による現象ではないと考えられた。また、この現象は免疫組織化学的な解析から神経細胞で起こっていると予想された。さらに、大脳皮質以外でも、海馬、小脳、腎臓、肝臓、脾臓においても同様に観察された。
     これらの分子は新たな老化マーカーとなる可能性があり、今後詳細な発現メカニズムを明らかにすることで、老化の分子機構の解明につながることが期待される。
  • Kay-Hooi Khoo, Sz-Wei Wu, Shin-Yi Yu, Chia-Wei Lin
    セッションID: S102-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    High throughput and robust MALDI-based mass spectrometry (MS) profiling and CID MS/MS sequencing often constitute the preferred, principal "first screen" strategy in defining the complexity and characteristics of a glycome. Efficient MALDI-MS/MS is made possible by recent advances in MS instrumentation, first with coupling of MALDI source to a Q/TOF and later to TOF/TOF, both of which rapidly superseded TOF-MS/MS in post-source decay mode. it is apparent that highly complementary sequencing data could be obtained from the two MALDI-MS/MS systems for an effective implementation of glycomic analysis in conjunction with judicious choice of chemical derivatization and glycosidase digestions, as demonstrated herein with our recent studies. A recurring problem in MS/MS analysis of complex glycans is to define linkage specific extension and branching pattern of glycan chains especially those of larger molecular masses. A characteristic feature afforded by MALDI-MS analysis of the permethyl derivatives of N-acetyllactosamine (LacNAc)-based glycans is the abundant in source prompt fragmentation observed, yielding readily identified protonated, terminal oxonium ion resulting from directed cleavages at the GlcNAc, which can be further selected for MS/MS. In contrast, molecular ions registered are usually sodiated which would in turn afford sodiated fragment ions. Low energy CID-MS/MS of sodiated parents on the Q/TOF tends to induce multiple cleavages which could be turned into advantages for distinguishing branching and multiple substitution by virtue of the O-Me tag introduced in the first place. Evenly distributed b and y ions are thus commonly observed across the entire MS/MS spectrum, deriving from successive neutral losses of non-reducing terminal epitopes. In contrast, MALDI-TOF/TOF MS/MS registered predominantly a single cleavage event leaving gaps in the spectra which reflects the branching nature since a certain internal structure could not be derived without cleaving at more than one sites. Our concerted mapping and sequencing strategy compared favorably with ESI-based MSn approach and is to be considered as a viable alternative, with several added advantages. On the other hand, examples will also be shown which serve to demonstrate specific cases where analysis of glycopeptides based on online nanoLC-nanoESI-MS/MS can be effectively used to solve glycan-specific structural issues as well as to map respective glycosylation sites. The latter aspects can be further expanded to full-scale glycoproteomics if necessary but often more informative for targeted analysis.
  • 野村 一也
    セッションID: S102-9
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    私達は線虫C. elegansの「糖鎖と糖鎖に関連した遺伝子」の遺伝子機能を、RNAi(RNA干渉法)や遺伝子ノックアウトで破壊して何が起こるかを調べることで、糖鎖の多細胞生物での役割を戦略的に解析しようと試みている。今回は、糖鎖関連遺伝子の機能破壊による代表的な表現型を紹介し、その表現型がどんなプロテオームの変化を伴うかを解析して糖鎖関連遺伝子の機能を明らかにする試みを紹介する。線虫は大量培養によってプロテオーム解析が可能な数少ないモデル生物であり、均一な遺伝子背景のもとで、遺伝子変異でどんなプロテオームの変動がもたらされ、表現型にむすびついていくかを理解するためには絶好の生物と考えられる。

    線虫は遺伝学と逆遺伝学的手法が駆使できる優れたモデル生物である。また発生するスピードが早く、2-3日で受精卵から成体になるので進化の研究にも使われるほどである。さらに凍結保存ができるので、様々な変異株を小さな研究室でも大量に保存して戦略的に解析できる。ハイスループットでの遺伝子解析ができる唯一の生物といわれるゆえんである。成虫は約1,000個の体細胞からできており、神経細胞は約300個しかない。全神経ネットワークも解明済みで、全細胞の細胞系譜も判明している。ゲノムDNA配列は完全に解明されており、RNAiによる遺伝子機能阻害も容易である。そして遺伝子ノックアウトも週20遺伝子程度のスピードで行うことが可能であり、遺伝子機能の解析に最適の生物といえる。

    私達は突然変異体やRNAi処理した線虫と野性株であるN2株のプロテオームを2D-DIGE法を含めた二次元電気泳動で比較し、変動しているスポットを質量分析法でシークエンスして同定している。同定結果をもとにさらにRNAiや欠失突然変異株を取得して解析をすすめ、糖鎖とそれに関連する遺伝子がどの様な遺伝子ネットワークをなしているかを明らかにしたいと考えている。

    文献:
    「糖鎖の機能を線虫C. elegansの神経系で探る」
      蛋白質 核酸 酵素 (2004)49, 2327-2335.(増刊:神経糖鎖生物学)
    野村一也、出嶋克史、野村和子、水口惣平

    「線虫の細胞分裂を制御する糖鎖コンドロイチン」
      蛋白質 核酸 酵素 (2004)、49、141-147.
    水口惣平、野村和子、出嶋克史、安藤恵子、三谷昌平、宇山徹、北川裕之、菅原一幸、野村一也
  • 津幡 卓一
    セッションID: S102-10L
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    アプライドバイオシステムズはプロテオミクスのソリューションを多数ご用意しております。タンパク質同定とバイオマーカー検出にはこの度、新しく発売致しました4800 MALDI TOF/TOFTM Analyzerが威力を発揮します。4800 MALDI TOF/TOFTM Analyzer のデータ解析ソフトウエアGPS Exprolerにより iTRAQTM試薬技術を用いたバイオマーカー検出が容易に可能です。またLC/MALDI技術を用いて、電気泳動などの前処理を用いることなく、複雑なタンパク質のプロテアーゼ消化物を分離し、多数のタンパク質を同定することが可能です。
  • 土屋 文彦
    セッションID: S102-11L
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    タンパク質のリン酸化は細胞内の分子間相互作用を制御する重要な要素である。本発表では、四重極MSを用いたリン酸化イオンの選択的検出の方法を紹介する。QTRAP LC/MS/MSシステムはコリジョンセルとリニアイオントラップをタンデムに配置することで、_丸1_リン酸が脱離しないままのフラグメントイオンが得られる、_丸2_m/z100以下の低いレンジからMS/MSスペクトルを検出できるといった、リン酸化ペプチドを検出する上で優れた性能を有している。また、複雑なペプチド溶液に微量に存在するリン酸化ペプチドを選択的に検出する多彩な測定モードでIDA(Information Dependent Acquisition)測定を行う事で、一回の測定で検出から同定までが可能となった。
  • 松原 守
    セッションID: S102-12L
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    プロテインキナーゼは、多くの生命現象に関わっていると同時に、その活性異常が疾患の原因となることからも有望な創薬のターゲットとなっている。また、細胞内シグナル伝達系の詳細を明らかにする上でも、プロテインキナーゼの包括的な理解は非常に重要である。カルナバイオサイエンス株式会社では、約500近くあるヒトプロテインキナーゼを全て集めることを目標にしており、更に、これらキナーゼのリン酸化ネットワーク解析、立体構造解析、アッセイ系開発や選択的な阻害剤の開発をめざしている。本セミナーでは、プロテインキナーゼを中心としたリン酸化解析について我々の取り組みを紹介する。特に、プロテインキナーゼや基質タンパク質のリン酸化部位同定法のノウハウや4000 Q TRAP質量分析計を用いたホスホプロテオーム解析の有効性に焦点を当てて考察する。
  • 吉里  勝利
    セッションID: S102-13
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    ホ乳動物の胚性幹細胞 (embryonic stem cell, 以下ES細胞)は、胚盤胞内に移植すると、ある割合で始原生殖細胞となり、その形質を次世代に伝えることが出来るため、発生生物学や再生生物学において重要な研究対象となっている。特に、DNA/RNA chipを用いたtranscrpitome解析によって、分化体細胞とES細胞のmRNAレベルにおける遺伝子発現プロファイルが大きく異なることが明らかとなっている。私達は、ES細胞と体細胞のタンパク質プロファイルの違いを明らかにするために2次元電気泳動と質量分析計を組み合わせたプロテオーム解析を行った。 マウスES細胞と体細胞(3T3細胞)を、それぞれ培養し、タンパク質を抽出した。両者の泳動像には幾つかの相違点が見られたが、プロファイルは、いずれも典型的な分裂可能な培養細胞に類似しており、両者に大きな違いはなかった。 ES細胞を特徴づける遺伝子産物は、転写因子などの遺伝子発現調節を担うタンパク質であることが知られているが、これらのタンパク質の細胞内での存在量はごくわずかである。対象となるタンパク質を核内タンパク質及びDNA結合タンパク質に絞り込むfocused proteomics解析を実施した。核タンパク質を抽出し、SNF2H及びSTAT3などの核タンパク質に対する抗体を用いて、抽出されたタンパク質についてウエスタン解析を行い、核タンパク質が濃縮されていることを確認した。得られた核タンパク質画分を、DNA-Sepharoseカラム、及び histon H3/4 tail domainペプチド固定化カラムの2つのカラムで分画し、それぞれを得られた結合画分を電気泳動法により分離した。その結果、ES細胞と3T3細胞で濃度の異なるバンドが多数確認された。これらのバンドに含まれるタンパク質について質量分析を行い、ES細胞に特徴的なタンパク質を多数同定することに成功した。
  • 小松 節子
    セッションID: S102-14
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    農林水産業分野では、将来の地球的規模での食糧や環境問題の解決に大きく寄与するものとして、遺伝子組換えによる画期的な農業作物の開発が期待されている。この遺伝子組換え技術による新品種開発の鍵となる農業上重要な遺伝子の単離およびその機能解明・利用において、国際的に熾烈な研究競争が行われている。このような背景のもと、農業上重要な穀物でありゲノムサイズが小さいイネについてゲノム塩基配列完全解読が達成された。そしてその機能を解析するためには従来の遺伝子解析手法のみの研究では不十分であり、タンパク質を総合的に解析するプロテオーム研究に取り組んできた。 イネのさまざまな生育時期の各種組織あるいは精製細胞内小器官から抽出したタンパク質を二次元電気泳動し、23種類の二次元電気泳動画像に基づいてそれぞれのタンパク質を精製し、気相プロテインシーケンサーあるいは質量分析計でアミノ酸配列を決定した。二次元電気泳動マップ上で分離された13,129種類のタンパク質のうち、5,676種類について分子量・等電点・発現量等の情報、およびアミノ酸配列情報、さらにそれら相同検索結果情報等をカタログ化してイネプロテオームデータベースに収録した。さらに、キーワードやアクセッション番号、等電点や分子量、二次元電気泳動マップ上のタンパク質スポットのクリックによって検索できる。(http://gene64.dna.affrc.go.jp/RPD/main.html) さらにイネの機能性タンパク質を検出する目的で、カルシウム依存性情報伝達系の解析にプロテオームデータベースを利用した。つまり、イネの低温耐性と茎葉伸長に関与しているリン酸化能を有するカルレテイキュリンをプロテオーム解析技術で検出した。この上流にカルシウム依存性プロテインキナーゼが存在し、下流にはカルレテイキュリン相互作用タンパク質が2種類存在することを検出し、それぞれに遺伝子導入形質転換イネを作出し、茎葉伸長あるいは低温耐性を獲得できることを証明した。以上、ゲノム研究とプロテオーム研究を連動させることにより、膨大なタンパク質情報を得ることができ、その生物機能情報とともにデータベース化することにより、ゲノム機能の解明を加速させることが可能となる。さらにプロテオーム解析研究はタンパク質間相互作用研究と連動させることにより、生物機能解明に多いに役立つツールになることが示唆された。
  • 細川 桂一, 宮崎 賢司, 次田 晧
    セッションID: S102-15
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    多細胞真核生物における多種分化細胞の遺伝子ゲノム発現制御はクロマチンの形質変化が重要な役割を演じている。クロマチンの数珠構造の基本体であるヒストン八量体は4種類のコアヒストン蛋白で出来ている。ヒストンの化学修飾(アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化、SUMO修飾、ADPリボシル化)及びDNAメチル化により遺伝子発現が調節され、分化細胞の形質やその娘細胞への遺伝性が維持されていると考えられる(Jenuwein, T. and Allis, D.C., Science 293, 1074-1080, 2001)。従ってヒストンの修飾を解析する事は、細胞のゲノム発現を知る為の重要不可欠の指標となる。
    新鮮なヒト肝臓切片をプロテアーゼ阻害剤存在下に0.165M HCl-0.165M NH4Clで抽出し、SDS-PAGEにより4つのコアヒストンH3, H2A, H2B,H4を分離した。ゲル上の夫々のバンドを切出し、サクシニル化、トリプシン消化を行うと、C末端以外のペプチド断片はすべてのLysが修飾されているためC末端がすべてArgとなる。これらをMALDI-TOF-MSで陽イオンとして分析すると、エピジェネティックな変化をもつペプチド断片が容易に解析できる。本法の反応段階において、ゲルからのペプチドの漏洩が見られたが、1)サクシニル化はフォルムアミド溶媒中で厳密な無水状態で行なう。2)反応終了後過剰な無水こはく酸を取除く為に(NH4)HCO3処理を行なうが、溶媒に60%アセトニトリル水溶液を用いる。の2点によりペプチドの漏洩消失を防ぐ事が出来た。ヒストンH2Bについては、サクシニル化は不必用で、トリプシン消化法のみで修飾の解析が可能である。
  • 相良 聡
    セッションID: S102-16A
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    タンパク質やペプチドは、癌や糖尿病、神経疾患、循環器病をはじめとする多くの疾患と関連していると予測されており、タンパク質バイオマーカーやペプチド性バイオマーカーの探索に多くの研究者が関わっている。 しかし実用化された成功例は少なく、しかも最も成功したバイオマーカーのひとつであるPSA(Prostate Specific Antigen)でさえ、高い偽陽性率と、低い臨床的感度が問題視されている。シングルマーカーによる臨床診断の限界が懸念される中、多くのプロテオミクス研究者が、「統計的手法の開発」や「質量分析プロファイリング法の開発」、さらに「プロファイリング・アルゴリズムの開発」を進めており、マルチマーカー志向が強まっている。特に質量分析的手法には、従来のイムノアッセイを超える様々なアドバンテージがあり、今後の臨床診断およびその開発を大きく変貌させる潜在力が秘められている。パーキンエルマーエルマーはBioEXPRESSIONTMバイオマーカーディスカバリープラットフォームによる最新のバイオマーカー探索技術を発表した。 このプラットフォームには、3つの新しい技術が用いられている。1. 膜クロマトグラフィ法を用い、キャリアプロテインに結合したバイオマーカーを濃縮する技術。この技術を用いたProXPRESSIONバイオマーカー濃縮キットは、再現性も高くハイスループット化にも対応する。 2. オーソゴーナル(直交型)MALDI TOF質量分析計による超高分解能測定。ペプチド・タンパク質フラグメントの質量パターンを正確に、短時間で、定量的に作成できる。 3. BAMF(Biomarker Amplification Filter)アルゴリズムは質量パターンからのプロファイリング、パターン認識による分類、バイオマーカーの絞込みを効率的に行う。この統合プラットフォームを活用することで、数千_から_数万サンプルを容易にスクリーニングするこが可能となり、疾患マーカーの探索をはじめ、薬効・毒性の効率的評価法の確立、投薬モニタリングなどへの応用が期待される。この新技術をアルツハイマー病のバイオマーカー探索に用い、信頼性の高いマルチマーカー候補(Sensitivity94% / Specificity89%)を発見した。700_から_10,000Daの範囲で11種類のペプチドが候補として挙げられた。
  • 野村 文夫, 朝長 毅, 曽川 一幸, 呉 迪, 根津 雅彦, 須永 雅彦
    セッションID: S102-17
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    肝疾患の検査診断においては、簡便な血液検査を先ず実施し、超音波検査など外来診療として施行可能な画像検査へと進み、さらに必要に応じて入院の上、侵襲性のある肝生検・腫瘍生検を考慮する流れが一般的である。しかし、近年のプロテオーム解析技術の進歩により血清タンパク質解析から得られる情報量が飛躍的に増加している。
    習慣飲酒は肝炎ウイルスと並ぶ慢性肝障害の主たる要因であるが、肝炎ウイルスマーカーに相当する特異的疾患マーカーが存在しない。また、ウイルス性肝硬変に併発する肝細胞癌の早期診断において、各種腫瘍マーカーは画像診断に遠く及ばないのが現状である。そこで、二つの異なる血清プロテオーム解析技術、すなわち、プロテインチップシステム/SELDI-TOF MS(サイファージェン・バイオシステム)および一次元目の等電点電気泳動にアガロースゲルを用いる蛍光標識二次元ディファレンシャル電気泳動2D-DIGE (アマシャムバイオサイエンス)を併用して各種肝疾患の新しい疾患マーカーの探索を試みた。
    断酒治療目的に入院したアルコール依存症 (DSMIV)16名の入院時、断酒1週間後、3ヶ月後に経時的に採取した血清検体を用いた。2種類のイオン交換チップを用いたSELDI-TOF MSによる検討では断酒後に著明に変化する3つのピーク(5.9 kD, 7.8 kD, 28 kD)が検出された。これらのピークを精製・同定した結果、28 kDはアポA1, 5.9 kDはフィブリノーゲンαE鎖のフラグメント、7.8 kDはアポA2のフラグメントであった。とくに5.9 kDの変化は習慣飲酒のマーカーとして知られるγ-GTPのノンリスポンダーにおいても確認されたので、人間ドックなど健診の場への応用も期待される。一方、前処理としてのアルブミン除去後の血清を用いた2D-DIGEによる検討の結果、断酒前後に有意に変動するスポットが計8つ認められ、うち6つは断酒後発現量が低下し、2つは逆に増加した。以上のピークあるいはスポットはアルコール性臓器障害の新しい疾患マーカー候補であると同時に病態解析の一助にもなると思われる。同様の手法を用いて、肝細胞癌患者血清のプロテオーム解析を進めている。
  • 原 智彦, 本田 一文, 尾野 雅哉, 林田 康治, 内藤 克輔, 廣橋 説雄, 山田 哲司
    セッションID: S102-18
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】腎がんは無症候性に増大するため早期発見が困難な疾患である。画像診断でのスクリーニングによって早期発見、予後の改善が期待されるが、さまざまな問題がある。近年SELDI-TOF-MS法を用いたプロテオーム技術により微量血清から早期がんを診断できるとする報告がされている。SELDI-TOF-MS法にはこれまで、再現性、感度の問題が指摘されていた。今回これらの問題を克服するため、1)血清の分画化、2)異なるchip条件でのAssay、3)ロボットによる自動化処理、4)ランダムに測定したDuplicated sample dataの平均化、5)データ処理法の改良を行い、同法で腎細胞がんの早期発見バイオマーカーの探索をおこなった。【方法】年齢、性別の一致したがん患者21例と健常者24例を学習セットに、がん患者19例、健常者20例、腎盂腎炎患者5例を検証セットに用意した。検出Peakを増加させる目的で、血清を陰イオン交換樹脂によって6分画に分類し、さらに4つのchip条件(CM10 pH4, CM10 pH7, H50, IMAC-Cu)で測定した。マーカー候補のpeak intensityのCut off値はLinear Support Vector Machineを用い、各々のpeakにおいて決定した。【結果】学習セットでの総peak検出数は3,539で、総peakの変動係数は0.26-0.42であった。学習セットにおいて、腎がん患者で統計学的有意(Mann-Whitney’s U test, P<0.01)に亢進している4151、8968 m/zのpeakを選び、その組み合わせをマーカー候補として選択した。これらのマーカー候補を用いた検証セットでは感度 89.5 %、特異度95.0 %でがん患者と健常者を分類できたが、腎盂腎炎は80%でがんと分類された。Stage別での陽性率は1から4まで88.9 %、100 %、83.3 %、90.9 %であった。腎細胞癌の組織型間には差はなかった。【結語】今回の方法で、Peak数の増加が期待されたが、血清の分画化により再現性が損なわれる可能性が示唆された。今回のpeakの組み合わせにより、腎細胞がんを早期に診断できる可能性があるが、蛋白の同定や臨床に応用するためには、プロテオーム技術の向上および多数検体での再検証が必要である。
  • 本田 一文, 奥坂 拓志, 小菅 智男, 廣橋 説雄, 山田 哲司
    セッションID: S102-19
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    膵臓がんは日本国内で1年間に19000人以上が死亡し、その5年生存率は固形腫瘍の中で最も低率である。難治がんの治癒率を向上させるための戦略のひとつとして、非侵襲的に採取可能な検体から高い信頼性を持つ診断法の開発が望まれる。今回われわれは、従来のプロテインチップ法で問題があった測定の再現性、分解能の限界、質量精度の正確性などの点を克服するために高分解能を有する4重極ハイブリッド型質量分析機を用いたSELDI-QqTOF-MS(surface-enhanced laser disorption/ionization coupled with hybrid quadrupole time of flight mass spectrometry)による血漿ペプチドプロファイル法を確立し、膵臓がん患者と良性膵臓疾患ならびに正常者の計245名分の血漿ぺプチドプロファイルデーターベースを構築した。さらに人工知能に用いられる機械学習アルゴリズムを応用し、本データーベースから高率に膵臓がん患者を検出できるマーカーセットの抽出を行った。【方法と結果】国立がんセンター中央病院で採血された220名分の血漿を学習セットと検証セットの2種類のサンプル群に分割し、SELDI-QqTOF-MS法を用いてペプチドプロファイルを取得した。膵臓がん71例と正常者71例の血漿ペプチドプロファイルを学習セットとして、サポートベクターマシーンアルゴリズムを使用して教師付機械学習を行い、両者を感度97.2%、特異度94.4%で診断する4本のペプチドピークを抽出した。いずれのピークもMann-Whiteny U検定で膵臓がん患者と正常者の間で統計学的な有意差(p<0.01)が認められた。先に分割した膵臓がん患者33例と正常者45例で構成される検証セットを用いて盲検したところ、本診断モデルは感度90.9%、特異度91.1%で診断でき、さらに既存の膵臓がん腫瘍マーカーであるCA19-9を組み合わせると膵臓がん患者を100%検出することが可能であった。他施設で採血された25名分の血漿サンプルを使用して検証を行っても膵臓がん患者の検出率は100%であった。【まとめ】今回同定したペプチド診断マーカーは既存のCA19-9とは相補的であり、SELDI-QqTOF-MS法を用いた膵臓がん患者血漿スクリーニング法の実用化への可能性が示された。
  • 武内 徹, 中西 豊文, 清水 章
    セッションID: S102-20
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    Autoimmune diseases, such as systemic lupus erythematosus (SLE), are characterized by the presence of autoantibodies and autoreactive lymphocytes in peripheral blood. To elucidate the pathogenesis and facilitate diagnosis of autoimmune diseases, it is important to identify disease- and organ-specific autoantigens. To characterize unique autoantigens, we applied two combination approaches: 1) 2D-PAGE and MS: 2) 1D-PAGE with immunoprecipitated specimens and MS. In the former approach, total cellular proteins of tumor tissues obtained from kidney and lung were purchased from Cosomo Bio Co., separated by 2D-PAGE, and visualized by silver staining or transferred to a PVDF membrane. In the later approach, IgG was purified from sera of SLE patients. IgG-sepharose was prepared with purified IgG coupled with sepharose-4B and incubated overnight with sera from SLE patients. After washing, proteins bound with IgG-sepharose were eluted with 2% acetate, electrophoresed, and visualized by silver staining or transferred to a PVDF membrane. To detect autoantigens, western blotting was purformed using sera from SLE patients. For protein identification, excised proteins from a stained gel were digested in gel. Peptide mass finger printing and MS/MS spectra were obtained using LC-MS/MS or MALDI-TOFMS, and protein identification was performed using the Mascot-Search database. We detected several proteins that were reacted with sera from SLE patients. These proteins included kidney-specific and lung-specific proteins and would be candidate autoantigens for SLE. One of these proteins was identified as a 5-hydroxytryptamine receptor, which was previously reported as a candidate autoantigen for neonatal lupus.
  • 礒野 高敬
    セッションID: S102-21
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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     尿路上皮癌(膀胱ガン)は泌尿器癌で前立腺癌に次ぐ第二位の罹患者を有す。またその多くが尿路内再発を繰り返すので、経過観察症例を含めると国内では常時数万人の患者数が推計される。通常、尿路内視鏡が診断の決め手となるが多大の苦痛を伴う検査である。非侵襲的検査法の代表に尿細胞診があるが,特異度(95_から_100%)に優れているものの感度(40_から_60%)は低く、高分化癌では著しく不良である(0_から_15%)。BTAやNMP22などの尿中タンパク質を検出する補助診断法が登場したが、偽陽性が出やすく特異度が低い。それゆえ、高感度で特異性の高い尿路上皮癌の尿中診断マーカーが求められている。 我々は、プロテオミクスにより膀胱癌を含む尿路移行上皮癌の診断マーカーとなり得るタンパク質を検索するために、滋賀医科大学泌尿器科の手術症例より得られた移行上皮癌と正常移行上皮を試料として、二次元電気泳動法によるプロテオームマップのデファレンシャルディスプレイを行った。その結果、癌で発現が増強する15個のスポットを認め、うち9個スポットから10種のタンパク質が尿路移行上皮癌の診断マーカー候補として同定された。 これらのうちの一つであるカルレティキュリンについて解析したところ、全長のポリペプチドから成るスポットとC末端が一部欠失したポリペプチドから成るスポットとが存在するが、前者のスポットが癌特異的なカルレティキュリンの分子種であることがわかった。また、カルレティキュリンのC末端を認識する抗体が、癌特異的なカルレティキュリンの分子種のみと反応することを見いだした。この抗カルレティキュリン抗体を用いたウエスタンブロッティングによる検討を、多数の検体を対象に行ったところ、正常組織に比べ癌組織における発現が明らかに増強していた。更に、膀胱癌患者及び非膀胱癌患者の尿試料についてウエスタンブロッティングによる検討を行い、感度73%、特異性85%の成績が得られた。この成績から、プロテオーム解析で検索されたカルレティキュリンが、移行上皮癌における尿中診断マーカーとして臨床応用可能であることがわかった。 現在、正診率の高い診断キットの実用化を目指して、カルレティキュリンのELISA法によるキット化及びいくつかのマーカータンパク質を同時に調べる複合診断キット化の開発に取り組んでいる。
  • 日和佐 隆樹, 島田 英昭, 瀧口 正樹, 落合 武徳
    セッションID: S102-22
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    SEREX(serological identification of antigens by recombinant expression cloning)法は癌細胞由来の cDNA 発現ライブラリーの中から患者血清中の IgG 抗体が認識する抗原遺伝子を同定する方法であり、癌抗原のスクリーニング法として優れている。我々は SEREX 法を用い食道癌患者血清をスクリーニングし、計 411 クローン、297 種類の癌抗原を同定した。得られたクローンについて、大腸菌で発現させたプロダクトを用いて、血清抗体との特異的反応をウエスタン法により調べた。その結果、TROP2、SURF1 などの抗原に対する抗体は健常者血清よりも食道癌患者血清中に高頻度に検出されることがわかった。一方、得られた cDNA を GST-融合タンパク質発現ベクター pGEX に組み換え、合成された融合タンパク質を精製して ELISA 法により血清抗体のレベルを測定した。その結果、GLUT1、HCA25a 等の抗原に対する抗体価は健常者血清に比べ、患者血清において有意に高いことが判明した。従って、これらの抗原は新規の腫瘍マーカーとなり、その血清抗体の解析は食道扁平上皮癌の診断に有効であると考えられた。
  • 中村 和行, 蔵満 保宏, 高島 元成, 横山 雄一郎, 藤本 正憲, 飯塚 徳男, 岡 正朗, 沖田 極
    セッションID: S102-23
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    C型肝炎ウィルス(HCV)の慢性感染は、肝線維症や脂肪肝炎さらには肝細胞癌発症の危険因子として知られている。 今回、HCV感染による肝発癌機序の解明と肝細胞癌に特異的な蛋白マーカーの探索を目的として、十分な研究説明を行って同意の得られた症例で、HCV感染(B型肝炎ウィルス陰性)のある肝細胞癌治癒切除術を施行して得られた癌部組織と非癌部組織について2次元電気泳動法と多重質量分析法を用いたプロテオーム解析を行った。その結果、癌部で2倍以上に増加するタンパク質は、熱ショック蛋白70(HSP70)ファミリーであるGRP78,GRP75,HSC70,HSP70.1、解糖系の三炭糖分解酵素およびATP合成酵素β鎖が同定された。 また、高分化癌ではグルタミン合成酵素が著しく増加していた。 一方、癌部で半分以下に減少するタンパク質は、アルブミン、フェリチン軽鎖とともに脂肪酸のβ酸化酵素のenoyl-CoA hydratase、解糖系のaldolase-Bやketohexokinase或いは尿素回路酵素のarginase-1が同定された。すでに、HCVコア蛋白を強発現した培養肝細胞や遺伝子改変マウスを用いた研究でHCVコア蛋白が細胞内のミトコンドリアや小胞体に結合して脂質過酸化を促進し、肝細胞の癌化が起こることが示唆されている。これらのことから、1)HCVの慢性感染が肝細胞内で持続的に活性酸素が生産され、2)その活性酸素が鉄イオンなどの触媒により反応性の高い活性酸素種を生み、核のDNAを傷害して変異を起こし、細胞の脱分化を生じ、3)細胞内では解糖系酵素等の賦活化によりATP合成が進み、4)さらには、HSP70の増加によってアポトーシス誘導が抑制されて細胞の増殖が進むことが肝発癌の原因の一つではないかと考えられる。 また、未分化癌で血管浸潤の強い症例ではα-enolaseが有意に増加しており、HCV感染による肝細胞癌の悪性度の指標としてα-enolaseが有用であることが示唆された。
  • 大石 正道, 小寺 義男, 前田 忠計
    セッションID: S102-24
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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     活性酸素(ROS)は,DNAやタンパク質などを酸化することにより,糖尿病など多くの病気に悪影響を与える.タンパク質の酸化修飾のうち,カルボニル化がタンパク質の機能にダメージを与えるという点で注目されてきた.カルボニル化タンパク質の検出法として2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)がよく利用されてきたが,通常2N塩酸存在下で1時間反応させるため,難溶性の凝集物を形成し,2次元電気泳動(2-DE)法では解析が困難であった. 我々は,(1) DNPHの代わりに,よりマイルドなpH条件(pH5.5)で反応できるビオチンヒドラジド(BHZ)を用い,(2)高分子量タンパク質の検出が可能なアガロース2-DEを用いることで,ラット筋肉に含まれるカルボニル化タンパク質を解析することに成功した. 本法を用いて,2型糖尿病モデルラットOtsuka Long-Evans Tokushima Fatty (OLETF)とそのコントロールラットLong-Evans Tokushima Otsuka (LETO)の各種筋肉におけるカルボニル化タンパク質を比較したところ,OLETFラット腓腹筋および心臓では,LETOに比べて,アクチンやミオシン重鎖などの筋肉収縮関連タンパク質がより多くアルデヒド化されていることが明らかになった.また,腓腹筋においては,アクチンおよびクレアチンキナーゼのスポットの中にカルボニル化タンパク質が検出されたが,トロポミオシンには検出されなかった.筋細胞において,トロポミオシンはアクチンを主体とする細い繊維上に載っているにも拘わらず,カルボニル化タンパク含量に違いが認められたことから,活性酸素によるカルボニル化の受けやすさはタンパク質分子種の違いによるものだと考えられた.しかも,アクチンとトロポミオシンはどちらも,リジンやアルギニンのようなカルボニル化を生じやすい塩基性アミノ酸残基の組成がほとんど変わらないことから,酸化傷害の受けやすさはアクチンとトロポミオシンの立体構造の違いが反映していると推測された. 以上の結果から,クマシー染色パターンから得られる発現プロテオミクス情報だけでは,疾患プロテオーム解析には不十分であり,タンパク質に質的変化をもたらす酸化修飾も調べなければならないことに気づいた.タンパク質の酸化はタンパク質の機能を変化させる可能性のあるひとつの指標であり,今後の疾患プロテオミクスにおいて重要なターゲットのひとつである.
  • 荒木 令江, 青木 雅史, 長 経子, 森川 崇, 南部 健, 豊留 浩, パトラキコムジョーン シリポーン, 小澤 達也, 佐谷 秀行
    セッションID: S102-25
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
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    種々の脳神経系腫瘍の病態発症予防・治療の基礎的情報を得るため、これらの病態組織細胞、及び原因遺伝子産物の細胞内機能を、細胞生物学的、及び最先端プロテオミクスの手法を用いて生化学的に解析している。今回、神経線維腫症(Neurofaibromatosis:NF)の原因遺伝子NF1, NF2 mRNAのSiRNAを構築し、細胞内NF1・NF2蛋白質のノックダウン法の確立を行い、これらの蛋白質の発現抑制による細胞内シグナル・細胞骨格の変化を生化学・形態学的に解析するとともに、これらの細胞内蛋白質のシグナルネットワーク解析を、我々独自に構築した病態プロテオミクス解析コアシステムによる最先端プロテオミクス解析法;2D-DIGE法、cICAT法, iTRAQ法を用いて詳細に行った。又、NF1高変異部位であるC末端部位、及びNF2高変異部位であるN末端部位に対する結合タンパク質群のプロファイリングをProteomic affinity cellular mapping法により網羅的に同定し、NF1,及びNF2蛋白質を介した細胞内シグナルネットワーク解析に供した。NF1蛋白質ノックダウン細胞においては、特異的Ras-PI3Kシグナルの活性化、それに伴う細胞骨格異常、細胞膜ruffling, 細胞運動能の亢進が観察された。又、NF2蛋白質ノックダウン細胞においても、細胞接着能、骨格系の異常が認められた。又、NF1及びNF2蛋白質への特異的結合蛋白質群として、Neuron Regulators、DNA修復酵素群、リン酸化・脱リン酸化酵素群、アポトーシス関連分子群、細胞骨格系・細胞接着系制御分子群、細胞周期関連分子群を含む、約100種類の蛋白質群が同定された。NF1蛋白質とNF2蛋白質に共通する結合蛋白質群も存在することから、これらを介したシグナルの異常がNF1及びNF2に類似する病態に関連する可能性が考えられた。
  • 礒辺 俊明, 梶 裕之, 田岡 万悟, 高橋 信弘
    セッションID: S201-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    プロテオーム研究は細胞や組織、さらには個体に発現しているタンパク質の構成と相互作用を網羅的に解析することで生命活動の分子基盤とそのダイナミクスを理解することを目指すタンパク質の大規模研究である。現在のプロテオーム研究は、疾病マーカーの探索から病態の解析、治療のための創薬にいたる先端医療開発のための新技術としての期待とともに、基礎生物学の領域に新しい概念と方法論を提供し、遺伝子の転写と翻訳からタンパク質の分解に至るプロセスや、細胞の増殖や分化を規定する各種の機能性複合体の実体など、細胞機能の中核をなすタンパク質装置の構成や製造工程、作動原理を明らかにしつつある。また、これらの装置を調節するシグナル伝達系の解析や、さらに大規模な細胞全体のネットワーク解析でも、従来の研究では予期できなかった生命科学の新しい発見をもたらしている。この講演では、ますます大規模化するプロテオーム解析法の現状を紹介する。
  • 近藤 格
    セッションID: S201-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    がんは多様性に富む疾患であって、既存の診断基準では同じように分類されても臨床経過や治療への反応性が異なることが知られている。そのため、がんの治療成績の向上のためにはより細かい診断とそれに基づく治療(オーダーメイド医療)が要求されている。がんのオーダーメイド医療を実現するためには、「がんの個性」の正確な診断を可能にする新しい診断技術の開発がまず必要である。国立がんセンターでは、網羅的かつ定量的なプロテオ〓ムのデータを臨床情報と統合することで「がんの個性」の背景にあるタンパク質群を同定し、同定されたタンパク質を使った新しい診断技術を開発しようとしている。
    定量的な網羅的発現解析の手法として二次元電気泳動法が用いられる。二次元電気泳動法は一度に多くのタンパク質を翻訳後修飾も含めて解析できるという長所があるが、その一方で問題点がいくつか指摘されていた。しかし、2D-DIGE法やハイスループットな巨大二次元電気泳動装置など、この数年間で開発された新しい手法を組み合わせることで問題の大部分は解決することができる。また、超高感度の蛍光色素でタンパク質を標識することで、がん研究に必須であるレーザーマイクロダイセクション法を二次元電気泳動法と組み合わせて簡便に行なうことができるようになった。スポットに対応するタンパク質の同定は、高感度の質量分析装置によって今ではほぼ100%可能である。プロテオ〓ムのデータと臨床情報の統合には、DNAマイクロアレイの解析で用いられているようなバイオインフォマティクスの手法が有効である。がんの多様性を考慮すると、転移や再発などの複雑な事象の背景には多数のタンパク質の協調した働きが存在すると考えられる。バイオインフォマティクスの手法によるタンパク質のネットワークの解明は、がんの診断技術の向上のみならずメカニズムの解明にもつながるだろう。
    国立がんセンターでは、大規模なタンパク質発現解析により、肝がんの早期再発、肺がんに対する抗癌剤への奏効性、骨軟部腫瘍患者の予後などを予測するためのタンパク質群を同定し、腫瘍マーカーとしての有用性を検討している。がんの形質を直接コントロールするタンパク質を網羅的に調べるという戦略は、オーダーメイド医療のための腫瘍マーカー開発の方法としてきわめて有効である。
  • 尾野 雅哉, 廣橋 説雄, 山田 哲司
    セッションID: S201-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/26
    会議録・要旨集 フリー
    ペプチドに断片化した蛋白質を液体クロマトグラフィーと高精度質量分析(LC/MS)にかけ、質量と蛋白配列情報より元の蛋白質を同定していくショットガン解析法が、放射性同位体による前処理、多次元液体クロマトグラフィーによる分離法の進歩とともに発展してきている。LC/MSのデータをmass chromatogramとして2次元表示し、2次元電気泳動のごとく解析する方法は以前より提唱されているが、主要な解析法としての地位は得ていない。今回われわれは、独自に開発したアルゴリズムで超低流量液体クロマトグラフィー(nanoLC)における保持時間(RT)が測定ごとに大きく変動することを見出し、それを補正することで再現性のよいmass chromatogramを作成することに成功し、サンプル間で異なった蛋白質を同定した。この一連の方法を2DICAL(2 Dimensional Image Converted Analysis of LC/MS)と命名した。材料と方法)運動能の異なる膵癌細胞株をトリプシン分解し、200 nL/minのnanoLCで分離し、Q-Tof Ultimaにて全マススペクトルを測定した。質量電荷比(MZ)、RTをXY軸として強度を2次元に描出し、独自の方法でピークの抽出とRTの時間差補正を行った。サンプル間で一方のピーク強度10000以上で、両者間にp<0.01のp値を有するピークを拾い出し、そのMZ、RTを標的としてMS/MSを行った。同定された蛋白はwestern blotにて発現を確認した。結果)同一サンプルでのnanoLCの平均変動時間(最大変動時間)は58秒(248秒)であり、時間補正がない状態では再現性はまったく得られなかった。しかし、時間補正を加えることによりデータ間で0.8以上の高い相関係数が得られた。検討した細胞株間でピーク強度の異なる128個のピークを拾い出し、それらを標的としてMS/MSで同定された蛋白質の発現差をwestern blotにて確定した。結論)2DICALは10万以上のピークから標的とされるペプチドを同定することができ、mass chromatogramのペプチドマップを完成する有用なツールとなる可能性が示唆された。
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