日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: P-18
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ポスターセッション
末梢血単核球のプロテオーム解析による潰瘍性大腸炎とクローン病の鑑別診断
*初谷 守朗黒川 真奈絵紅露 剛史永井 宏平有戸 光美増子 佳世末松 直也岡本 一起伊東 文生加藤 智啓
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抄録

[目的]
潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)は原因不明の難治性炎症性腸疾患であり、その病態には免疫系の異常が関与していることが示唆されている。病初期には、両疾患のどちらであるか鑑別の困難な例が存在し、両者を区別できるマーカーの確立が望まれている。そこで我々はUCおよびCDの患者末梢血単核球で発現している蛋白質を網羅的に検出かつ定量し、その蛋白質発現プロファイルを解析することにより、両疾患の鑑別が可能であるか否かを検討した。なお鑑別に有用な蛋白質の同定は病因・病態解明の一助にもなると考えられる。
[方法]
UC患者17例、CD患者13例およびこれら患者と性・年齢を一致させた健常人14例より末梢血を採取し、単核球を分離し蛋白質を抽出した。すべての蛋白質試料を等量ずつ混合して標準試料を作製し、Cy3で標識した。各蛋白質資料はCy5で標識した。患者または健常人の一試料と標準試料とを同一のゲル上で2D-DIGE法にて展開した。検出した蛋白質スポットのそれぞれについて標準資料との比較から個々の患者での存在量比を算出した。これを用いてSIMCA-P+による多変量解析を行い、両疾患群の鑑別および臨床所見あるいは検査値の結果予測が可能か否かを検討した。
[結果]
UC患者、CD患者および健常人全44例を2D-DIGE法にて解析した結果、576個の共通した蛋白質スポットが得られた。UC群、CD群、健常群間でANOVA検定を行い、有意差のみられた276個の蛋白質スポットを用いOPLS法にて多変量解析を行った結果、UC群とCD群とを判別することができた(R2=0.994、Q2=0.462)。より信頼性、寄与度の高い蛋白質スポット58個を用いてOPLS法を行ったところ判別能の向上がみられた(R2=0.948、Q2=0.566)。臨床所見あるいは検査値の結果予測では、UCにおいて罹患期間(R2=0.960、Q2=0.660)、活動性(R2=0.776、Q2=0.760)、腸管病変の範囲(R2=0.961、Q2=0.821)、CRP(R2=0.945、Q2=0.909)、および治療反応性(R2=0.980、Q2=0.595)を高率に予測できることが判明した。
[結論]
UCおよびCD患者における末梢血単核球由来蛋白質の網羅的解析により、両疾患群の判別ができること、またUCにおいては活動性や腸管の罹患範囲、治療反応性等を予測できることが示された。末梢血単核球のプロテオミクス解析は、UCとCDとの鑑別診断に有用な検査を提供する可能性があることが示唆された。また、UCにおいては病態把握や治療法選択に有用なマーカーとなりうる可能性が示された。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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