日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: P-25
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ポスターセッション
二次元液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法を用いたプロテオーム発現差異解析: 悪性腫瘍組織(膵臓癌および肝臓癌)の新規分子マーカーの同定と検証
*川上 隆雄森 泰昌永坂 恵子和田 計也日比 泰造金森 英彬坂元 亨宇荻原 淳
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抄録

発表者らはLC-MS/MSを解析のプラットフォームとしておもに悪性腫瘍の分子マーカー研究を行っている。少数症例を用いた探索段階では一般に100種類を超えるマーカー候補が挙げられるが、臨床使用に耐えうるマーカー蛋白質の開発に当たっては多数例の検証実験が不可欠である。本演題では探索技術の改良に言及するとともに、マーカー開発の実例を紹介する。
培養細胞あるいは外科的切除組織から抽出した蛋白質混合物をポリアクリルアミドゲル中でトリプシンによって加水分解し、生じたペプチド混合物を分析試料とした。つぎに、一次元または二次元(2D)LC-MS/MSによって各試料由来のペプチドプロファイルを個別に取得した。2DLCは強カチオン交換LC(6分画)と逆相LCからなり、MSにはLTQイオントラップ質量分析計を用いた。発表者らが開発した、LC溶出時間の非線形的なゆがみを補正するプログラムの上で、ペプチドプロファイルの統計的な比較解析を行った。
膵臓癌の高い転移能を特徴付ける蛋白質分子の探索では、腫瘍組織由来の細胞株を神経浸潤性の高低によって2群に分けた。両群のペプチドプロファイルの比較から計214個のペプチドピークを選択した (P < 0.0001)。この候補ペプチド群から、高浸潤株でmRNAとともに正に制御されている唯一の蛋白質であるSynuclein-gammaを見出した。切除症例の免疫組織染色像を用いた後ろ向き試験 (N = 62) では、膵臓癌の有意な予後因子であることを確かめた。さらに、short hairpin RNAによる発現抑制実験およびマウスモデルの検証結果は、この蛋白質が制癌治療のための新規標的分子になりうることを示した。
肝細胞癌は一般に肝硬変から多段階に進展するが、このうちで早期腫瘍の確実な診断法が求められている。本研究では、早期癌および周辺部前癌病変の両組織(各N = 4)より取得されたペプチドプロファイルを比較し、両群を区別する283個のピークを検出した。この情報を計111種類の蛋白質に変換した。うち1種類について現在検証実験を進めている。
以上のとおり、LC-MS/MSペプチドプロファイルを用いたプロテオーム統計解析法が腫瘍研究に対して成功裡に適用されうることを示した。今後は、より高精度の質量分析計の導入を含め、さらに正確・堅牢な解析システムの構築を進める予定である。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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