日本プロテオーム学会大会要旨集
日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
セッションID: P-32
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ポスターセッション
急性脳障害患者脳脊髄液のショットガンプロテオーム解析
*泉 友則小田 泰崇荒木 由佳大村 真裕子秋吉 祐樹鶴田 良介笠岡 俊志前川 剛志
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抄録

心肺停止に伴う全脳虚血により引き起こされる急性脳障害の神経学的予後は非常に悪い。心肺停止の病因として、心原性が最も多く、それ以外にもクモ膜下出血、窒息や溺水、外傷など、様々な原因により引き起こされる。迅速な心肺蘇生術により心拍の再開が得られる場合もあるが、虚血再灌流に伴う二次的な脳障害が発生し、さらに複雑な病態を形成する。早期に病態を把握し、適切な治療方針を選択することが救命と神経学的予後の改善に不可欠であり、救急医療においては急性脳障害の病態解明と早期診断法の開発が急務である。脳脊髄液(CSF)は脳室とクモ膜下腔を満たす体液で、循環血液との物質輸送は血液脳関門(BBB)により制限されている。CSFは一部の血漿タンパク質に加えて中枢神経組織に由来するタンパク質を豊富に含む。疾患にともなうこれらの変動を解析することで、病態と密接に関連するタンパク質群や早期診断に有効なマーカー候補を特定することが期待できる。我々はナノフロー液体クロマトグラフィーとQ-TOF質量分析を組み合わせたタンパク質同定システムにより、蘇生後脳症を含む急性脳障害について患者CSFのタンパク質解析を進めている。初期の小規模解析において、急性脳障害の神経学的予後と関連する一群のマーカー候補タンパク質を同定したが、同時に、患者CSF中のタンパク質濃度や組成は検体間で大きく異なることが明らかとなり、解析対象となる検体を選別する必要性が示唆された。そこで、より病態特異的な候補タンパク質を同定するためにi)タンパク質濃度や溶血の有無、SDS-PAGEパターンなどに基づき解析検体を選別し、プール試料を調製、ii) アフィニティーカラムにより主要血漿タンパク質を除去、iii) iTRAQ試薬を利用したショットガン法での相対定量解析を行うこととした。さらに、iv) 選別前の患者群全体に対して、同定された候補タンパク質の特異性をウエスタンブロッティングにより確認することで、検体選別の影響を最小限に抑えることとした。このような手順に基づく解析で患者CSFから同定された急性脳障害特異的な候補タンパク質には既知の病態マーカーに加えて、中枢神経機能や組織損傷、また炎症反応などに関連する一群のタンパク質が含まれていた。

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© 2009 日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
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