主催: 日本ヒトプロテオーム機構
関節炎は、結合組織を侵す全身性の免疫疾患であり、特に手足の関節にみられる関節軟部組織の肥厚を生じ軟骨を浸食する。更に、大きな特徴として変成蛋白質による反応性アミロイド症を生じ、ネフローゼ症候群や血管への浸潤による出血などの臨床症状を呈する。これまで関節炎患者の脊髄液中に病態マーカーを探索し、コントロールと比較して発現増大を生じるリポカリン型プロスタグランディン合成酵素 (L-PGDS)を見いだしている。今回、本物質の酵素活性低下を生じる要因として、脊髄液中の成分との会合を認めたので報告する。
方法:脊髄液中の蛋白質を酸で沈殿濃縮し冷アセトンでの洗浄後可溶化した。可溶化サンプルは二次元電気泳動を行い蛋白質成分の分析を行った。泳動プロフィールは解析ソフト(Phoretix 2D)を用いて、コントロールとの有意な発現差異を示すゲルスポットを見出し、抽出蛋白質をMALDI-TOF-MS/MS 質量分析を行いMascot解析により同定した。 PGD2, 15d-PGJ2, PGE2のレベルは、市販キットにより定量化した。会合蛋白質は、ウエスタンブロッティングと免疫沈降実験により分析した。
結果:関節炎の脊髄液中に、発現増大を示す成分としてL-PGDSを見出している。RA病態におけるL-PGDSの動態を分析するために、L-PGDS 産生物質 PGD2と非酵素的代謝物(15d-PGJ2)を定量化した。L-PGDS は見かけの発現量が増大しているにもかかわらず、RA 群の酵素活性が減少していることを認めた。次に、酵素活性低下の要因として、RA 患者のL-PGDSが蛋白質変成を生じている可能性を検討した。患者脊髄液中の蛋白質を転写したブロットと抗L-PGDSモノクローナル抗体との反応は、26 kDのL-PGDSと高分子量のバンドを見出した。更に、特異抗体と反応する脊髄液蛋白質との免疫沈降物を分析すると、上記と同様の高分子成分が認められた。そこで、電気泳動後の本成分をゲルから抽出し、トリプシン処理を行い質量分析計にて測定した。Mascot解析から、本物質は α-1 antitrypsin として同定できた。以上、本研究により L-PGDS の酵素活性が低下する要因として、α-1 antitrypsinとの会合に起因している可能性が示唆された。