抄録
C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus; HCV)は、慢性肝炎を引き起こすことで知られており、ウイルス感染後、長い歳月(20~30年)をかけて、慢性肝炎から肝硬変、更に肝細胞がんに進展する恐れがある。現在、C型肝炎治療は、インターフェロン・リバビリン併用療法が主流であるが、著効率は概ね50%前後しかなく、副作用も問題となっており、新しい予防・治療法が求められている。我々は、毎日摂取する食品の機能性を活用して、HCV感染が起因となって生じる肝細胞がんを予防することを目標に掲げている。
HCVの増殖を抑制する高機能性食品を見出すため、HCV複製のin vitro系であるHCVレプリコン細胞を用いて、宮崎県産農作物283品種、1700サンプルからスクリーニングを行った。その結果、ラビットアイブルーベリー(Vaccinium virgatum Aiton)の葉に強力な抗HCV活性を認めた。更に、精製・同定を進めた結果、プロアントシアニジン(Proanthocyanidin; PAC)が活性成分であることを突き止めた。
PACはポリフェノールの一種で、化学構造としては、カテキンのようなフラボノイドを基本骨格とした重合体である。単量体や2量体では抗HCV活性は認められなかったことから、重合することが活性発現に必要であることが分かったが、PACの標的分子も含め、作用機序は不明な点が多い。そこで、アフィニティクロマトグラフィーを用いてPAC標的蛋白質の同定を試みた。HCVレプリコン細胞抽出液に、PAC或いはカテキン(コントロール)を固定化した樹脂を処理し、結合蛋白質画分を得た。両画分を蛍光ディファレンシャル二次元電気泳動で比較し、PAC結合蛋白質画分で増加するスポットをPMF法で同定した。25スポットの同定に成功し、その多くは、mRNAの翻訳に関わるeukaryotic translation initiation factor 3(eIF3)構成蛋白質とheterogeneous nuclear ribonucleoproteins (hnRNPs)に分類され、RNAウイルスであるHCVとの関連性が示唆された。この事を確かめるため、同定蛋白質に対するsiRNAを用いてノックダウン実験を行なったところ、hnRNP A2/B1のノックダウンに伴い、HCV複製量が減少したことから、PAC結合活性を有するhnRNP A2/B1はHCV複製に必要であることが分かった。以上の結果、PACの抗HCV活性に関わる標的蛋白質は、hnRNP A2/B1である可能性が示唆された。現在、HCV複製におけるhnRNP A2/B1の関連性について、更に詳細な解析を進めている。