本研究は,自己報告型の主観的イメージテストを用いた多くの研究がなされ多くの知見が蓄積されているにもかかわらず,イメージ能力の機序がイメージ研究者の間でほとんど問題にされてこなかったことを指摘し,畠山(2018b)によるイメージテストの認知的課題・事象に対する予測力に関する広範で詳細な研究の展望をもとにして,イメージ能力の鮮明性,統御性,常用性(表象型),没入性の各次元について機序の同定と,各次元の中心的特性の提示を試みる。同定された機序は次の通りである(アスタリスク(*)はそれぞれの次元を成り立たせると考えられる機序,無印はその次元がもたらす効果としての機序)。鮮明性:神経心理学的基盤*,知覚的入力情報の豊富さ*,長期記憶の知覚的情報の豊富さ*,視覚的ワーキングメモリ容量の大きさ*,刺激の細部への注意*,イメージの情報量の豊富さ*,イメージ生成の速さ*,知覚との機能的等価性,自発的なイメージ方略の使用,イメージ符号化による記銘,生理的反応の制御。統御性:認知的・適応的柔軟性*,イメージ生成の柔軟性*,注意の配分と切り替えの効率*,長期記憶の知覚的情報の幅広い活用*,イメージの情報量の豊富さ,自発的なイメージ方略の使用,イメージ教示の忠実な実行,場面や話の展開の符号化,イメージ符号化による記銘。常用性:神経心理学的基盤*,表象型に合致する符号化*,知覚的入力情報の豊富さ*,長期記憶の知覚的情報の豊富さ*,長期記憶の知覚的情報の幅広い活用*,視覚的ワーキングメモリ容量の大きさ*,知覚との機能的等価性,自発的なイメージ方略の使用,イメージ符号化による記銘,生理的反応の制御。没入性:想像活動への関与の強さ*,弛緩状態の惹起*,生理的反応の制御。またそれぞれの次元の中心的特性として,鮮明性はイメージの持つ情報量の豊富さと維持しやすさ・頑健さ,統御性は認知的・適応的柔軟性,常用性は刺激入力時の符号化とそれ以降の処理の仕方を方向づける性質,没入性は想像活動への関与の強さと弛緩状態の惹起しやすさが提示される。各次元の機序間に一定の重なりがあることについて考察がなされる。本研究が提示した各次元の中心的特性と機序の活用によって,認知的課題・事象とイメージテストの関連の有無について,解釈や予想が可能になることが主張される。