2021 年 1 巻 2 号 p. 105-110
深頸部膿瘍の原因は様々であるが,今回,経食道心臓超音波検査が契機で発症した深頸部膿瘍の1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する。症例は73歳,男性。主訴は咽頭痛。当科受診3日前の20XX年2月下旬に上記検査施行後から咽頭違和感が持続し,咽頭痛の増強及び呼吸困難感も出現したため当科受診となった。食事摂取不良,頸部皮膚発赤,腫脹,頸部伸展困難,含み声を認め,喉頭内視鏡検査では咽喉頭全周性に発赤,腫脹,気道狭窄傾向,痰,膿貯留を認めた。頸胸部CTで右側内臓間隙に低吸収域,右側優位に含気があり,採血では著明な炎症反応の上昇を認めた。気道狭窄を伴う深頸部膿瘍の診断となり,緊急で気管切開術,膿瘍ドレナージ術を施行した。術後の瘻孔造影検査や上部消化管内視鏡検査で咽喉頭と食道に穿孔がないことを確認し,気管孔の縮小傾向をもって第36病日に退院した。重篤な深頸部膿瘍をきたす症例は,迅速に治療を行い,病歴を確認すべきである。本症例は,必要性のある検査を注意深く施行し,帰宅後の注意喚起を行っていても不幸で回避しにくい合併症を発症したと考える。頸部痛,嚥下障害,発熱,呼吸困難などの症状が出現した場合は,早期に医療機関(耳鼻咽喉科)を受診することを啓発したい。