日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
Online ISSN : 2435-7952
総説
好酸球性副鼻腔炎におけるtype2炎症と凝固・線溶系異常による鼻茸形成
高林 哲司
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2021 年 1 巻 3 号 p. 135-142

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抄録

慢性副鼻腔炎は炎症のタイプによるエンドタイプ分類が病態の理解や治療法の選択を行う上で望ましいと考えられるようになってきた。エンドタイプは大きく,好酸球性炎症を呈する好酸球性副鼻腔炎(ECRS)と非好酸球性副鼻腔炎(non-ECRS)の二つに分類され前者はtype2炎症を呈し,難治性であることが知られている。ECRSにおける鼻・副鼻腔粘膜の病的な浮腫は鼻腔においては鼻茸と呼ばれており,篩骨洞を中心に認められる病的粘膜も同様の組織学的な特徴を呈することから同じ病態によって形成される病変であると考えられる。またこれらの病的粘膜は喘息,特にアスピリン/NSAIDs不耐症を伴う場合では極めて難治性でありECRSの治療の主なターゲットは鼻・副鼻腔の鼻茸を含めた病的浮腫状粘膜である。

ECRSにおける鼻茸の組織学的な特徴は,強い炎症によって末梢血管から漏出したアルブミンを中心とした血漿タンパクの貯留による著しい浮腫,線維化の低形成,そして好酸球の著しい浸潤である。我々はこれまでの検討によって鼻茸組織において浮腫の遷延化の原因が鼻粘膜に過剰に形成されたフィブリン網が液体の血漿タンパクをゲル化することによって組織内に保持されることが鼻茸形成の主な形成メカニズムであることを報告している。生体におけるフィブリン網の形成は止血機構としての働きの他に,組織の初期修復にも関与し,いずれも凝固系によって形成され,線溶系によって分解される。フィブリン網の過剰な沈着は様々な疾患の原因になることが知られており,ECRSにおいても凝固・線溶系の制御異常が鼻茸形成に関与することが窺われる。

本稿では我々が行ってきた研究の中で,ECRSの鼻粘膜においてtype2炎症が形成されるメカニズム,またtype2炎症が凝固・線溶系に影響し,どのように難治性の鼻茸の形成に関与しているのか,最後に病態を踏まえた上での治療ターゲットの可能性について概説する。

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© 2021 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
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