日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
Online ISSN : 2435-7952
総説
嗅粘液の分子生物学
近藤 健二
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2025 年 5 巻 1 号 p. 21-27

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抄録

嗅粘液は鼻腔の最上部に位置する嗅粘膜を覆う鼻粘液で,嗅粘膜にあるBowman腺から分泌される。嗅粘液には嗅神経組織の保護,頭蓋内への病原体進入抑止,嗅覚受容などいくつかの機能が想定されている。病態との関連では,実験動物では加齢変化に伴う嗅神経上皮の変性にBowman腺の変性が高い空間的相関を示す。慢性副鼻腔炎には高頻度に嗅覚障害が合併するが,実際に慢性副鼻腔炎患者の嗅裂の粘液では対照群の嗅裂粘液と比較して様々な炎症性メディエーターの上昇があり,病態に関与していると考えられる。ヒトの嗅粘液にはにおい物質を代謝する機能があり,代謝により生成された代謝物はにおいの認知に影響を与えることが示されている。このような代謝機能は特発性嗅覚障害の患者で減退しているため,嗅覚障害の病態生理にも関与している可能性がある。嗅粘液の物質組成は呼吸粘液と異なっており,物質輸送に関わると考えられているリポカリンファミリーの1つであるリポカリン15が高濃度で含まれている。ヒトの嗅粘膜におけるリポカリン15の分布量と嗅神経細胞の分布量には相関があるため,嗅粘液のリポカリン15を定量することで嗅神経の量を推定することが可能であるかもしれない。嗅粘液は臨床において低侵襲でサンプルを採取することが可能であるため,嗅粘液の解析を用いたヒトの嗅覚機能に関する他覚的な検査,そして嗅粘液の機能を補完する新規治療法の開発が望まれる。

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© 2025 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
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