抄録
S-1 投与後に、腸炎を始めとした重篤な有害事象を認めた症例を経験した。症例は 73 歳、男性。声門上癌 cT2N0M0 に対し、根治的放射線化学療法として CDDP 併用の CRT を開始した。腫瘍は速やかに縮小傾向となり治療反応性は良好であったものの、CDDP 投与後に Grade3 の低ナトリウム血症や骨髄抑制を来し、さらには薬剤性腎障害によりクレアチニンクリアランスは 60 mℓ/min を切る状態となったため、以降の併用化学療法として S-1 を選択した。S-1 投与開始後 13 日目に 40 ℃近い発熱や 1 日 30 回を超える下痢を認めたため、S-1 による薬剤性消化管障害と判断し同日で中止した。しかしその後も約 2 カ月にわたり下痢や骨髄抑制が遷延した。重篤化した副作用の原因として dihydropyrimidine dehydrogenase(以下、DPD)欠損も疑われたが、精査の結果、DPD 欠損の診断には至らなかった。フッ化ピリミジン系薬剤は現在においても頭頸部癌化学療法において主たる役割を果たしているが、本邦においてはまれではあるが DPD 活性低下ないしは欠損の患者に遭遇することがある。その場合には非常に重篤な副作用を呈する可能性が高く、留意が必要である。本症例においてはその診断には至らなかったが、非常に重篤な副作用を呈し、DPD 欠損症も疑われた。その臨床経過および精査結果も含めて報告する。