はじめに:一般に悪性腫瘍の治療戦略は術前の病理診断を基に決定する。今回われわれは術前に悪性との確定診断を得られなかった、経過の緩徐な舌根部の粘表皮癌例を経験した。症例:患者は 59 歳の女性。5 年前から口腔内の違和感および左舌根部の隆起性、弾性硬の腫瘤を自覚していた。数回の病理組織検査において悪性所見は認められなかったが、腫瘤が徐々に増大してきたため腫瘤切除術を施行した。術後病理組織検査にて初めて低悪性度の粘表皮癌と診断された。切除断端は陰性であったが、今後慎重な経過観察が必要であると思われた。考察:粘表皮癌は病理組織学的所見により悪性度が分類され、治療方針もそれに基づいて決定される。それ故、術前の病理診断が重要であるが、時に困難なこともある。また治療においては外科的治療が第一選択である。しかし本症例においては術前に悪性腫瘍との診断が得られなかったため切除範囲はやや不十分であると思われた。 術後追加治療はせずに経過観察にとどめているが、追加化学療法や放射線照射の適応についても検討する必要があったかもしれない。結語:今回長期経過をたどった舌根部粘表皮癌の比較的まれな症例を経験した。適切な治療のためには術前の病理学的な評価が不可欠であるが、時に困難なこともあるため治療に際しては悪性腫瘍の可能性を常に念頭に置いておくべきであろう。