抄録
1989年から1997年までの9年間に、久留米大学病院耳鼻咽喉科で下咽頭拡大切除、両側の頸部郭清術を施行した下咽頭扁平上皮癌患者81例 (男性74例、女性8例) を対象に、p53遺伝子産物の発現と臨床経過および病理学的因子との関連を検討した。p53蛋白の発現と予後との有意な相関は認めなかったが、遠隔転移の5年制御率はp53陽性群が33%、陰性群が89%で、両群間に有意差を認めた。すなわち、p53陽性群は遠隔転移を起こしやすいことが示唆された。癌細胞の転移リンパ節内浸潤度の強さを示す、被膜外浸潤、壊死および二次濾胞消失を来した例のp53陽性率が高くなる傾向を認めた。