抄録
小児期に自覚した難聴が機能性であったミトコンドリアDNA3243点変異症例を経験した。症例は20歳女性で、小児期に難聴を自覚した。当科初診時の純音聴力検査の結果は、気導3分法で右107dB、左77dBの感音難聴であった。祖母、母親、叔父、弟に難聴の家族歴が認められた。母系の遺伝形式に矛盾しない家族歴と遺伝子解析の結果、ミトコンドリアDNA3243点変異であると診断した。しかしながら、診察時に担当医とやりとりがスムーズで聴力検査より想像される難聴のレベルに一致しないこと、再来時に観察された聴力レベルの変動が本人の難聴の自覚症状の増悪と一致しないため、機能性難聴を疑った。トーンピップ音を用いたABR検査で反応閾値を求めたところ、30dB以下の値で反応を得られたため、機能性難聴と診断した。またうつ症状の改善とともに聴力閾値が低下し、精神症状と同期した動きを示した。ミトコンドリアDNA3243点変異の一症状としてうつ症状などの精神症状が挙げられている。小児期より遷延する機能性難聴にこのミトコンドリアDNA3243点変異の精神症状が本症例において寄与しているのではないかと推測した。