2007 年 110 巻 6 号 p. 470-476
当科においてアブミ骨手術を行ったキヌタ骨長脚欠損を伴う先天性アブミ骨底板固着症例のうち, シュークネヒト型ワイヤーピストンをツチ骨柄へ固定した26症例30耳について, 手術成績を報告した. 手術の際には, ワイヤーピストンを脱落のないように変形させてツチ骨柄に固定した. 一方で, 鼓膜の異常やツチ骨およびキヌタ骨の固着がなくアブミ骨底板の固着のみを認め, キヌタ骨へワイヤー固定を行った39症例49耳を手術成績の比較対象群とした.
術後の平均気導聴力レベルはツチ骨固定例で28.6dB, キヌタ骨固定例では21.6dBであり, それぞれ術前の気導聴力と比較すると35.7dBと29.7dBの聴力改善を認めた. 日本耳科学会の聴力成績判定基準案 (2000年) に基づいて行った手術成績は, ツチ骨固定例では90%, キヌタ骨固定例では98%であった.
ツチ骨固定例における術後の平均気骨導差は15.8dBであり, キヌタ骨固定例と比較すると4.3dB大きい結果となった. この2群間の差は術後の伝音効率の差に起因すると考えられた. 以上の結果から, シュークネヒト型ワイヤーピストンをツチ骨柄に固定するこの手術法は, 良好な手術成績が得られる有用な方法であると考えられた.