日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
頭頸部癌に対する分子標的治療
丹生 健一大月 直樹清田 尚臣
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2012 年 115 巻 7 号 p. 671-675

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抄録

分子標的治療薬とは, がん細胞に特異的な遺伝子, 蛋白などを標的として作られた薬剤のことである. これまでの抗がん剤が自然界に存在するさまざまな物質をがん細胞に与えては抗腫瘍効果をみるという「はじめに効き目ありき」の手法で開発されてきたのに対し, 分子標的薬は「はじめに作用機序ありき」で開発するところが大きく異なる. 従来の代表的な抗がん剤にも標的があったが, その標的は正常細胞の増殖や分裂に関与するため, がん細胞のみならず正常細胞にも同様に障害を与え, 白血球減少や下痢, 脱毛などの副作用を避けられなかった. これに対して分子標的治療薬は, まず腫瘍に特異的な標的に選択的に作用する物質を見つけ出すことから開発が始まるので, 正常細胞への影響が少なく, がん細胞に特異的に殺傷効果を与える薬剤が作りだされることが期待できる.
製剤面からは膜 (貫通) 型チロシンキナーゼ (TK) 受容体に対する阻害剤のような低分子化合物と, 標的に対するモノクローナル抗体に大別される. 標的としては細胞表面抗原, 増殖因子, 増殖因子受容体, シグナル伝達系, 細胞周期・アポトーシス, 血管新生, がん遺伝子・がん抑制遺伝子などさまざまなものが候補となるが, 現時点で頭頸部癌に対して欧米で承認されている分子標的薬は, 頭頸部扁平上皮癌で過剰発現している膜貫通性TK, EGFRに対するキメラ型IgG1抗体Cetuximabのみである. 残念ながら本邦では未だ頭頸部癌に対しては承認されていないが, 大規模な臨床試験で, 中・下咽頭および喉頭の局所進行扁平上皮癌に対する放射線治療への上乗せ効果や, 遠隔転移・再発頭頸部扁平上皮癌に対するCDDP+5-FU療法への上乗せ効果が示されており, 一日も早い導入が望まれる.

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© 2012 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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