日本耳鼻咽喉科学会会報
Online ISSN : 1883-0854
Print ISSN : 0030-6622
ISSN-L : 0030-6622
115 巻, 7 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
総説
  • 齋藤 玲子
    2012 年 115 巻 7 号 p. 663-670
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/06
    ジャーナル フリー
    インフルエンザは冬期に流行する急性ウイルス性疾患である. 日本では5種類の薬剤が使用可能である. M2阻害剤のアマンタジンはA型インフルエンザのみに効果を示し, 耐性が出現しやすいことで知られる. ノイラミニダーゼ阻害剤はA型, B型インフルエンザに有効である. 本邦ではオセルタミビル, ザナミビル, ペラミビル, ラニナミビルの4剤が使用可能である. ペラミビル, ラニナミビルは新規薬剤でほぼ日本のみで使われている. 数年前にオセルタミビル耐性A/H1N1 (季節性) が流行したが, 新型インフルエンザA/H1N1 pdm09の出現により駆逐され, 現在インフルエンザはNA阻害剤の4剤すべてに感受性である. 一般的に耐性インフルエンザ株が検出されても, 健常人であればそれ自体で重症化したり経過が遷延するものではなく, 通常のインフルエンザと同様に治癒していく.
    本稿では, 日本で使用される抗インフルエンザ剤の種類と特徴, 薬剤耐性の機序について述べる.
  • 丹生 健一, 大月 直樹, 清田 尚臣
    2012 年 115 巻 7 号 p. 671-675
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/06
    ジャーナル フリー
    分子標的治療薬とは, がん細胞に特異的な遺伝子, 蛋白などを標的として作られた薬剤のことである. これまでの抗がん剤が自然界に存在するさまざまな物質をがん細胞に与えては抗腫瘍効果をみるという「はじめに効き目ありき」の手法で開発されてきたのに対し, 分子標的薬は「はじめに作用機序ありき」で開発するところが大きく異なる. 従来の代表的な抗がん剤にも標的があったが, その標的は正常細胞の増殖や分裂に関与するため, がん細胞のみならず正常細胞にも同様に障害を与え, 白血球減少や下痢, 脱毛などの副作用を避けられなかった. これに対して分子標的治療薬は, まず腫瘍に特異的な標的に選択的に作用する物質を見つけ出すことから開発が始まるので, 正常細胞への影響が少なく, がん細胞に特異的に殺傷効果を与える薬剤が作りだされることが期待できる.
    製剤面からは膜 (貫通) 型チロシンキナーゼ (TK) 受容体に対する阻害剤のような低分子化合物と, 標的に対するモノクローナル抗体に大別される. 標的としては細胞表面抗原, 増殖因子, 増殖因子受容体, シグナル伝達系, 細胞周期・アポトーシス, 血管新生, がん遺伝子・がん抑制遺伝子などさまざまなものが候補となるが, 現時点で頭頸部癌に対して欧米で承認されている分子標的薬は, 頭頸部扁平上皮癌で過剰発現している膜貫通性TK, EGFRに対するキメラ型IgG1抗体Cetuximabのみである. 残念ながら本邦では未だ頭頸部癌に対しては承認されていないが, 大規模な臨床試験で, 中・下咽頭および喉頭の局所進行扁平上皮癌に対する放射線治療への上乗せ効果や, 遠隔転移・再発頭頸部扁平上皮癌に対するCDDP+5-FU療法への上乗せ効果が示されており, 一日も早い導入が望まれる.
原著
  • 泰地 秀信, 守本 倫子
    2012 年 115 巻 7 号 p. 676-681
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/06
    ジャーナル フリー
    小児では突発難聴を来す疾患が成人とは異なり, また突発性難聴に比べて頻度が高い. 小児突発難聴20例の臨床像を検討した. 小児の突発難聴では心因性難聴がかなり多いので, 他覚的聴力検査を組み合わせて診断を行うべきである. 純音聴力検査とDPOAEの結果に乖離がみられる場合は心因性難聴が強く疑われるが, 確定診断のためにはABR検査が必要である. ムンプスでは不顕性感染が30~40%にみられるため, 耳下腺腫脹のないムンプス難聴例がある. 小児の急性感音難聴ではムンプスの罹患歴・予防接種歴を問診するべきである. 前庭水管拡大症も突発難聴において考えておくべき疾患であり, 低音域のA-B gapを伴う高音障害型のオージオグラムでは本症を疑う.
  • 鎌田 知子, 畑中 章生, 田崎 彰久, 本田 圭司, 角田 篤信, 喜多村 健
    2012 年 115 巻 7 号 p. 682-686
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/06
    ジャーナル フリー
    飼い猫からジフテリア毒素産生性のCorynebacterium ulceransに感染した症例を経験した. 症例は51歳女性, 難治性の咽頭痛を主訴に来院し, 上咽頭後壁の厚い偽膜形成と黄色膿汁が認められた. 理学所見と患者の動物飼育歴よりC. ulcerans感染症の可能性を考え, マクロライド系抗菌薬にて治療したところ症状は速やかに改善した. 患者の咽頭の白苔および飼い猫の眼脂よりC. ulceransを検出し咽頭炎の起炎菌ならびに感染経路を確定することができた. C. ulceransは人獣共通感染症を引き起こす菌の一つであり, 本邦では本報告を含めて飼い猫からの感染例が数例報告されている. 偽膜性咽頭炎の鑑別診断には必ずC. ulcerans感染症を考慮し診察することが重要である.
  • 野口 佳裕, 高橋 正時, 籾山 直子, 杉本 太郎, 喜多村 健
    2012 年 115 巻 7 号 p. 687-692
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/06
    ジャーナル フリー
    迷路内神経鞘腫 (intralabyrinthine schwannoma: ILS) は, 蝸牛神経, 前庭神経の末梢端から発生する内耳起源のまれな良性腫瘍である. 今回われわれは, 内耳から正円窓小窩, 内耳道へ進展したと考えられるILSの1例を報告する. 症例は47歳, 男性で, 36歳のときに突然の左難聴, 耳鳴を自覚し聾になった. 41歳のときに, 半年間に数回の回転性めまい発作を繰り返した. 46歳のときに左耳鳴が増強し, 造影MRIにてILSと診断された. 腫瘍の増大傾向を認めたため, 経迷路, 経外耳道的に腫瘍を全摘した. 片側性難聴やめまいを示す症例に対しては, 画像診断においてILSをも念頭においた診療が必要である.
スキルアップ講座
専門医通信
feedback
Top