日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
抗がん剤の有害事象対策
松浦 一登
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2013 年 116 巻 12 号 p. 1290-1299

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抄録

がん治療の究極の夢は「薬」で病が治ることである. 効果を得るために治療強度を増すことはしばしば行われるが, 副作用も強くなるというジレンマがある. 近年, 分子標的薬剤など新しい創薬がなされ, 治療効果とともに新たな副作用が認められてきた. 大多数の頭頸部がん患者は, 外科治療を主とする耳鼻咽喉・頭頸部外科医によって治療がなされており, われわれは多様な有害事象をマネジメントしつつ, 標準治療を理解して完遂しなければならない. 元来は兵器であったという生い立ちを忘れて抗がん剤を用いることは, 「角を矯めて牛を殺す」になりかねず, 不必要な抗がん剤使用を避けることが何よりの有害事象対策となる.
現在, われわれが最も多く用いる抗がん剤はシスプラチンであるが, 代表的な副作用は, 腎障害と悪心・嘔吐である. 腎障害は尿細管障害が主体であり, 大量補液と利尿剤で軽減を図るが, NSAIDsを避けることやMgの補充を行うことも重要である. 悪心・嘔吐対策は, 初回からアプレピタント, ステロイド, 5-HT3拮抗剤を用いて十分な対応をとり, 患者に我慢させないことが大切である. 近年, 化学療法施行時のB型肝炎再活性化が問題となっており, ハイリスク患者には抗ウイルス薬 (エンテカビル) の予防投与が推奨されている.
また, 頭頸部がんに対する分子標的薬剤 (セツキシマブ) が保険収載されたことにより, 本剤の使用が始まった. シスプラチンに比べて, 補液の管理や嘔気・嘔吐管理が格段に簡便になる反面, インフュージョンリアクションや間質性肺炎など致死的な症状が生じることがあり, われわれもこの薬剤に対する理解を深めなければならない.
現在の頭頸部がん治療では多職種でのチーム医療が必要不可欠であり, 抗がん剤の有害事象をマネジメントするにも, 担当医一人では十分な対応はできない. 看護師を含む医療従事者にも知識の共有と教育を繰り返し行い, チーム力の向上を図ることが何よりも重要である.

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© 2013 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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