抄録
がん治療領域において, 分子標的治療が臨床現場に導入され10年以上が経過した. その間にヒトの遺伝子配列の解読や新たな治療標的分子の発見など, 個々人に最適な医療を提供する個別化医療の研究も進み, その成果が発揮され始めている. 個別化医療においてカギを握るのがコンパニオン診断薬という体外診断薬である. 1990年代にその概念が提唱され, 欧米では2011年にコンパニオン診断薬についてのガイダンスが発表され, 本邦では現在作成中である. 乳がん領域においては, HER2を標的としたトラスツズマブが国内の個別化医療として最初に登場し, コンパニオン診断は脚光を浴びた. トラスツズマブは投与前にHER2蛋白の過剰発現やHER2遺伝子の増幅を調べることにより, トラスツズマブの効果が期待できる患者層を選定することが可能である. 蛋白発現判定のための免疫染色, 遺伝子増幅判定のためのFISH法がコンパニオン診断薬として承認されている. 最近では, 複数の遺伝子をチェックし, そのパターンから再発可能性や治療効果を予測する診断法も開発されている. 乳がん領域においても, 21種類の遺伝子の発現を調べてスコア化し, 早期乳がん患者に対する化学療法の効果および再発可能性を予測する診断検査であるOncotype Dx® の開発が進んでいる. これからの展望としては, 感度や精度の高い診断法が, 対象となる新薬とともに整合性よく市場に提供されることが望まれ, 今後もさらにコンパニオン診断薬の研究開発が進んでいく一方で, 新薬が次々と開発される状況, 診断検査の精度管理, コストといった取り組むべき課題も多く存在する. コンパニオン診断薬の開発は個別化医療の推進において非常に重要であり, 産官学を挙げて研究開発を進めていくことが必要である.