2017 年 120 巻 12 号 p. 1449-1456
【はじめに】耳小骨連鎖の形態を保存した再建法で鼓室形成術を行った症例の術後成績を, 聴力評価と真珠腫再発リスクの両面から検討したので報告する.
【対象】1991年1月~2015年9月30日までに弛緩部型真珠腫にて耳小骨連鎖の形態を保存した鼓室形成術を行った症例66耳 (Ⅰ型9耳, Ⅲ r 57耳) を対象とした.
【方法】対象症例の術後聴力成功例の累積頻度を算出し, 生存曲線で表示した. また, 中鼓室~上鼓室~乳突洞の換気路状態を評価した. さらに術後経過における真珠腫再発例について検討した.
【結果】Ⅰ型群,Ⅲ r 群ともに術後聴力成功例の累積頻度は85%以上と良好であったが, Ⅲ r 群の中でキヌタ骨を一時摘出し, 真珠腫摘出後元の位置に戻した場合は有意に聴力予後が不良であった. また, 真珠腫の限局した Stage Ib や乳突部に含気を認めた症例の一部でも前方・後方換気路の閉塞がみられた. 真珠腫再発はⅠ型群で再形成性再発2耳, 遺残性再発1耳, Ⅲ r 群で再形成性再発1耳であった.
【結論】耳小骨連鎖の形態を保つ術式を選択する際には, 真珠腫再形成性再発防止に対する配慮が必要であり, たとえ真珠腫が限局した症例であっても, 真珠腫の発生原因となり得る前方・後方換気路における粘膜隔壁が存在している可能性があるため, 耳小骨裏の状態を確認し, 十分な換気路を確保することが重要と思われた.