めまいの治療には大きく分けて薬物治療, 薬物治療以外がある. 近年, めまい治療における薬物治療以外の代表が良性発作性頭位めまい症 (Benign paroxysmal positional vertigo; BPPV) の Epley 法などの頭位治療である. しかし, それ以外のめまい疾患への対応であるめまいのリハビリテーション (以下めまいリハ) は十分施行されているとは言えない. 一方, 薬物治療に医師が限界を感じている代表的疾患に, 前庭神経炎後遺症やハント症候群の後遺症, 繰り返す非典型的眼振を認める Possible BPPV, 加齢性平衡障害等が挙げられる. これらの薬物治療では効果が不十分なめまい, 平衡障害に対し, 当院ではめまいリハを積極的に施行している. めまいリハは慢性めまいの治療には有効で, 特に自覚的なめまい感には有効であるというエビデンスを認める. 本邦全体では積極的には施行しているとは言えないめまいリハは今後のめまい治療として取り組む余地が大いにある. よって, 前半はその代表的めまいリハの方法を図を用いて解説した.
一方, めまいの治療の基本は薬物治療である. しかし, わが国では約40年間にわたり新しいめまい治療薬が上市されていないのが現状である. よって, めまいの治療にはめまいの保険病名を持つ使用可能な薬剤を組み合わせて用いるなど治療上の工夫が必要である. ところで, めまいの保険病名の適応を持つ薬剤に漢方薬がある. しかし, めまい薬物治療として十分に普及しているとは言えない. この背景には患者の証を診て薬剤を選択するという漢方処方の特徴と, その点に困難を感じる漢方非専門医が医師の大多数を占めているという状況がある. そこで, 後半はめまい専門医の立場から漢方薬の有効性と漢方非専門医にとって証の替わりとなる臨床的所見について検討結果を通じて紹介する. 具体的には, めまいの代表的薬剤である半夏白朮天麻湯の治療効果とめまいに伴う精神症状の改善効果を有する補中益気湯の有用性を西洋医学的観点から解説した.
外来診療の工夫における最終目標は, まず患者満足度を高めることであり, 次いで確かな技術を提供し疾患を可能な限り治癒に導くことである. さらに, 治療を行う医師のモチベーションの維持も重要な要素と考える. 当院では開院当初の2003年より電子カルテを診療に使用し日常業務の効率化を図っている. 同時にインターネットを経由して携帯電話やパソコンで当日の順番予約を取る受付順番取りシステムを採用し診療所内での待ち時間短縮を図るなど患者満足度を高める工夫をしている. 外来診療の電子化は運用面での注意が必要で, そこに対面職業であることの認識を新たにしたさらなる技術革新を期待したい. 副鼻腔炎治療においては, 副鼻腔炎治療用カテーテルを用いた洗浄療法をロシアで開発された従来品を改良し, 日本で作成されたシリコン製 ENT-DIB 副鼻腔炎治療用カテーテル® を用いて行っている. 耳鼻咽喉科医ならではの手技として適応症例に対して積極的に使用するとともに, 難病指定された好酸球性副鼻腔炎の術後治療への応用も検討している. 日本で作成されたカテーテルを用いて世界特にアジア地域への普及活動も視野に入れ研究会を立ち上げている. 診察医の診察意欲を高める工夫として勤務医時代から診療と手術に携わっていた病院で脳神経外科, 耳鼻咽喉科, 救命救急の専門医を取得されている医師と内視鏡下鼻内手術を中心に外傷症例や境界領域の手術に携わっている. 開業医が手術治療に携われる環境をつくることでモチベーション維持を試み, 新鮮な刺激と最新の知識を得て日々の診療意欲の高まりに結びつけている. 今後耳鼻咽喉科を専門とする医師の減少が見込まれる場合は手術に習熟した開業医が専門外来, 手術応援という形で病院業務の一端を担うシステムの構築は有用かもしれない. 将来に向けて取り組む課題は多いが, 日々の診療において継続した工夫を重ねていくことが重要と考える.
内視鏡下鼻副鼻腔手術の発展に伴い, 炎症性疾患の制御から, 鼻副鼻腔腫瘍手術へとその応用範囲は拡大しつつある. 本稿では, 内視鏡下鼻副鼻腔手術の頭蓋底領域への適応拡大に焦点を絞り, 近年京都大学で取り組んでいる内視鏡下経鼻・経頭蓋同時併用手術の現況について, 内視鏡下経上顎洞アプローチによる側頭下窩手術の手技, 適応について, 内視鏡下経鼻腔・経篩骨洞による頭蓋底手術の手技, 適応について述べる. 内視鏡下経上顎洞アプローチは, 上顎洞後壁から翼口蓋窩を経て, 側頭下窩に至る手術アプローチであり, 三叉神経鞘腫, 血管線維腫, 脊索腫など幅広い病変の手術に応用可能である. 内視鏡下経上顎洞アプローチでの解剖学的な限界は, 内頸動脈の位置と考えられており, 内頸動脈の位置を推定するためのメルクマールを把握することが重要となる. 嗅神経芽細胞腫などに対する前頭蓋底手術は, 内視鏡下経鼻アプローチが最も進んだ領域であり, 嗅神経芽細胞腫治療においては内外で有用性を示す所見が得られている. 今後, 鼻腔・篩骨洞悪性腫瘍に対する応用の標準化を見据えた臨床研究の展開が望まれる.
鼻閉の改善のためには, その原因や病態を的確に捉えたうえで鼻腔形態の矯正を行うことが重要である. 鼻中隔弯曲症は鼻閉を来す代表的な疾患であり, 鼻中隔矯正術を施行するためには, 鼻中隔の解剖や鼻中隔弯曲症の成因についての詳細な理解が必要である. 術式選択には, どこまでの範囲が鼻閉の原因となっているのか, その病態はどうして生じたのか, どのようにして矯正すれば良いか, の判断が求められる. 適切な術式選択がされず軟骨および骨を過剰切除したために, 鞍鼻, 鼻尖下垂という術後合併症が報告されている. 術式決定は, 鼻中隔の形態のみから判断するのではなく, 鼻腔形態・外鼻変形なども考慮し, 鼻中隔と外鼻を立体的な一つの構造物と考え矯正するべきである. 温存しなければならない部位の矯正術は, 鼻中隔切除術ではなく再建も行う形成術となる. 本邦において hemitransfixion アプローチによる前弯矯正術や外切開による鼻中隔外鼻形成術 (open septorhinoplasty) は, 耳鼻咽喉科医にとってまだ経験の浅い術式である. 今後, 耳鼻咽喉科医の発展のために, 前弯矯正術・鼻中隔外鼻形成術は必要な手術手技と考える.
CT, MRI は頭頸部の癌診療において広く応用され, 原発および転移巣の評価に貢献している. 近年では, フルオロデオキシグルコース (FDG) を用いた PET 検査により糖代謝活性を利用して新たな病態解析が可能となっている. FDG-PET は原発巣よりも N 因子, M 因子の診断に有用とされ, 高い陰性的中率が報告されている.
PET は従来の検査に比較し, 空間および組織コントラストの分解能は劣るが, 分子イメージングの側面から新知見を提供し, 広い臨床応用が期待されている.
本稿の目標は, 頭頸部癌における PET 画像の意義および画像解釈の注意点について概説し, 知識を整理・応用することである.
頭頸部癌が, 保険診療 PET に占める割合は10.9%と, 罹患率に比して高めであるが, その保険適用には注意が必要である. 悪性腫瘍と診断確定され, ほかの検査, 画像診断により病期診断, 転移・再発を診断確定できない患者に対してのみ FDG-PET は保険適用され, スクリーニング検査や治療効果判定に使用できない.
FDG の集積機序を理解すると, 事前の糖摂取および運動制限の重要性に気づくことができる. さらに, 有意な FDG 集積を正しく評価するには, リンパ節, 唾液腺などの生理的集積および, 以下に示す偽陰性への理解が必要である.
1. 空間・濃度分解能の限界
2. 脱リン酸化酵素の活性上昇
3. 背景組織の高集積
4. 高血糖, 高インスリン
5. 治療に対する反応
6. 動き
PET 用の放射性核種は生物を構成する主要元素が多く, 核酸やアミノ酸の代謝を可視化できる. 分子生物学の研究課題はこれまでの構造解明から生体分子の分布・機能,体内動態へと発展していくと予想され, PET も難病の病態解明や, 治療抵抗性病巣に対するオーダーメイド治療などへの貢献が期待されている. PET の意義, 限界を理解し, 日常診療に役立てていただければ幸いである.
平成27年4月から身体障害者福祉法における聴覚障害の認定において,「過去に聴覚障害に係る身体障害者手帳の取得歴が無い者に対し, 2級の診断をする場合は他覚的聴力検査の実施と結果の添付が必要」,「聴覚障害に係る指定医を新規に指定する場合は, 原則として日本耳鼻咽喉科学会専門医とする」という改正がなされた. 今回, 聴覚障害認定の対象となった症例数・認定結果と課題 (特に他覚的聴力検査の実施において), 聴覚障害認定指定医のうちの耳鼻咽喉科医の比率や指定医に対する研修実施状況などを明らかにするため, 112自治体 (全国の都道府県, 政令指定都市, 中核都市) を対象に質問紙法による調査を実施し, 87自治体から回答を得た (回収率77.7%). 平成26年度と比較し, 平成27年度には他覚的聴力検査が必要となった2級申請の申請数の減少傾向と認定率の有意な低下が認められた. また, 聴覚障害認定指定医のうちの耳鼻咽喉科医の比率は76.2%で, これに脳神経外科, 神経内科を加えると96.5%を占めた. 障害認定に関する研修は3都県が定期的に, 2県が不定期で実施しているのみで, その原因は研修プログラムがない, 講師が確保できないなどの理由が明らかとなった.
【はじめに】耳小骨連鎖の形態を保存した再建法で鼓室形成術を行った症例の術後成績を, 聴力評価と真珠腫再発リスクの両面から検討したので報告する.
【対象】1991年1月~2015年9月30日までに弛緩部型真珠腫にて耳小骨連鎖の形態を保存した鼓室形成術を行った症例66耳 (Ⅰ型9耳, Ⅲ r 57耳) を対象とした.
【方法】対象症例の術後聴力成功例の累積頻度を算出し, 生存曲線で表示した. また, 中鼓室~上鼓室~乳突洞の換気路状態を評価した. さらに術後経過における真珠腫再発例について検討した.
【結果】Ⅰ型群,Ⅲ r 群ともに術後聴力成功例の累積頻度は85%以上と良好であったが, Ⅲ r 群の中でキヌタ骨を一時摘出し, 真珠腫摘出後元の位置に戻した場合は有意に聴力予後が不良であった. また, 真珠腫の限局した Stage Ib や乳突部に含気を認めた症例の一部でも前方・後方換気路の閉塞がみられた. 真珠腫再発はⅠ型群で再形成性再発2耳, 遺残性再発1耳, Ⅲ r 群で再形成性再発1耳であった.
【結論】耳小骨連鎖の形態を保つ術式を選択する際には, 真珠腫再形成性再発防止に対する配慮が必要であり, たとえ真珠腫が限局した症例であっても, 真珠腫の発生原因となり得る前方・後方換気路における粘膜隔壁が存在している可能性があるため, 耳小骨裏の状態を確認し, 十分な換気路を確保することが重要と思われた.
アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎 (AFRS) は真菌に対するアレルギー反応を本態とする, 再発率の高い難治性鼻副鼻腔炎である. これまでに欧米では多数報告されているが, 本邦ではいまだ報告が少ない.
今回われわれは, 2011年4月から2016年12月までに大阪大学医学部附属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科を受診し, AFRS と診断した8症例の患者背景および治療内容・治療成績についての臨床的検討を行い, 本邦で過去に報告された AFRS29 症例との比較検討を行った. また, 術後治療として全身ステロイド投与の有効性が報告されており, 術後全身ステロイド投与の有無と再発率の関連についても検討した.
結果, 当科の慢性副鼻腔炎手術症例の3.2%が AFRS であった. 過去の報告と当科症例を合算すると, 年齢の平均値は45歳で, 69.7%が片側性病変であり, Ⅰ型アレルギーを示した真菌としてはアスペルギルスが最多であった. CTにおける高吸収域は全例に認めた. MRI T2 強調像における無信号域は11例中9例で認め, CT とともに術前診断に有効と考えられた. 過去の報告においては骨破壊症例が多く, 日常診療における疾患の認知が不十分である可能性が考えられた. また, 今回の検討では術後ステロイド投与の有無で再発率に差を認めなかったが, 治療に関しては今後さらなる検討が必要と考えられた.
AFRS は難治性疾患であり, 通常の慢性副鼻腔炎とは異なる取り扱いが必要である. 本疾患がさらに広く認知され,本邦における本疾患のさらなる研究の発展が期待される.
2013年から2016年の3年間にセツキシマブ (Cetuximab, Cmab) を投与した頭頸部癌88症例のうち, 7症例 (8.0%) が間質性肺炎を発症した. 有害事象グレード3以上の重症は4症例で, 3症例 (3.4%) が死亡した. Cmab 治療が奏効 (完全奏効または部分奏効) した43症例のうち, 間質性肺炎は7症例 (16.3%) に発症し, 5症例は導入化学療法後に Cmab 併用放射線照射で根治を目指したプロトコールであった. Cmab 治療効果が不変もしくは悪化の45症例では生じなかった (0%). 治療強度が高いプロトコール, 治療効果が高い症例ほど, 間質性肺炎に注意する必要がある.