日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
頭頸部癌の免疫療法における現状と課題
岡野 晋
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2019 年 122 巻 1 号 p. 22-28

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抄録

 頭頸部癌に対する薬物療法は, 主に殺細胞薬, 分子標的薬が用いられてきたが, 昨年からは従来の薬剤とは大きく異なる作用機序を有する免疫チェックポイント (CP) 阻害薬が使用可能となり, 新たな選択肢が加わった.

 がん細胞は, 腫瘍微小環境における免疫監視機構から逃れるために, 免疫 CP であるプログラム細胞死リガンド1 (Programmed cell death ligand 1: PD-L1) を過剰発現しており, T 細胞表面にある受容体であるプログラム細胞死1 (Programmed cell death 1: PD-1) に特異的に結合することで免疫システムを抑制する (免疫逃避機構). 免疫 CP 阻害薬は, この免疫逃避機構を阻害することにより, 自己免疫による攻撃を活性化する薬剤である.

 薬物療法適応患者の選択は背景論文, ガイドライン・ガイダンスなど, レジメンの選択は全身状態, 臓器機能などを参考に行うが, 実臨床における患者背景はさまざまであり悩むことがある. 適切な選択を行わなければ, 十分な治療効果を得ることができないだけでなく, 予期せぬ有害事象の発生やほかの治療への影響が出ることもあるため, 安易な選択に基づいた薬物療法は控えなければならない.

 免疫 CP 阻害薬の重篤な有害事象の頻度は低いものの, 従来の薬剤とは全く異なる事象が起こり得るため, その管理には細心の注意が必要である. 代表的なものには, 消化器障害 (下痢, 大腸炎, 消化管穿孔), 内分泌障害 (下垂体炎, 甲状腺機能低下症, 副腎機能不全, 糖尿病など), 皮膚障害 (皮疹, 掻痒など) などが挙げられるが, いずれの事象も早期発見・早期治療が行われなければ極めて重篤となり得るため, チーム医療が必須の薬剤である.

 免疫療法の治療開発は今まさに全盛期であり, 再発転移例だけでなく局所進行例も含め, 抗 PD-1 抗体薬, 抗 PD-L1 抗体薬を用いた治療開発が数多く進んでいる. さらに, がんゲノム医療, 新規化学療法, 光免疫療法の開発も進行しており, 今後の展開が期待される.

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© 2019 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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