日本耳鼻咽喉科学会会報
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122 巻, 1 号
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総説
  • 頭頸部がんの定位照射
    山崎 秀哉
    2019 年 122 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2019/01/20
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     定位照射は正常組織のダメージを極力抑え病巣へ大線量を投与する手法である. 頭頸部がんの放射線治療ではリンパ節転移の予防領域を照射することが多く, 初回から定位照射が用いられることは少ない. 定位照射は標準治療困難な高齢者や再発・二次がんへの再照射, あるいは残存病巣への追加照射として, 高い奏効率を示す有効なオプションである. 通常照射 (1回線量1.8~2Gy) の治療期間6~7週間に比して定位照射は1日~2週間と早期に終了することが多く, 早期有害事象が少ないことも利点である. 上咽頭癌では古くから再照射の有用性が知られており, 定位照射でも良好な成績が報告されている. 一方重篤な有害事象として (特に再照射時) 穿孔, 壊死, 感染, 動脈出血など致死的なものも考慮する必要がある. 再照射の予後因子として原発巣 (上咽頭癌等), 腫瘍体積, 全身状態, 手術の有無, 前回照射との照射間隔などがある. 最近再照射は強度変調放射線治療 (Intensity modulated radiotherapy: IMRT) や粒子線治療なども行われており, 利点, 欠点を考慮して治療選択を行うことが求められる.

  • ~小児から成人まで, 効果的に安全に行うためのポイント~
    湯田 厚司
    2019 年 122 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2019/01/20
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     ダニとスギ花粉の舌下免疫療法は2018年に小児適用を有し, 全年齢に治療が可能となった. 著者がこれまでに経験した1,000例以上の経験からの治療ポイントを概説した.

     ダニとスギ花粉の治療を年齢に関係なく行えるが, われわれの経験では, 4歳以下で治療可能な児は少ないと考えている. その基準は, 低年齢児が上手く舌下保持をできるかと, 投与後の激しい運動禁止を理解できるかである. 免疫療法に必要な投与アレルゲン量は小児でも成人と同じであり, 同じプロトコールで治療する. 小児の副反応は成人より口腔感覚症状が多くなるが, そのほかの副反応や重症度も変わらない.

     安全に治療するために注意すべき副反応があり, リスクを冒しての治療を避けたい. 舌下免疫が直接原因でなくても気管支喘息急性発作と急性蕁麻疹では治療を中断すべきである. また, 長引く咳と好酸球性食道炎は継続可能だが, 中止も考慮すべき継続しにくい副反応である. われわれはダニ舌下免疫療法時の強い副反応の防止に3つの試みを行っている. 導入期の約1カ月に抗ヒスタミン薬を前投与する. 舌下錠を置く位置で正中を避ける. アレルギー素因の強い例に3,300JAU と10,000JAU の間に3,300JAU×2錠を1週間挟むスケジュールとする. これにより副反応頻度は大きく減らなかったが, 困ったトラブルが少なくなった.

     2018年に4年目を迎えたスギ花粉舌下免疫療法の効果は, スギ花粉大量飛散にもかかわらず, 特に治療4年目例で効果が高く, 舌下免疫療法の効果の高さと経年治療の重要性を示した. また, スギ花粉とダニの併用舌下免疫療法を53例で検討し, 副反応がダニ単独と併用期で変わらないことから併用も安全に行えた.

     新薬のシダキュア® が発売されたが, シダトレン® の剤型変更薬ではないので, シダトレン® からのスイッチであっても用法用量通りに初回投与としての規定を守る必要がある.

  • 松永 達雄
    2019 年 122 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 2019/01/20
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     ゲノムとは遺伝情報の全体であり, ゲノム医療は疾患にかかわる広範囲の遺伝情報に基づいた精度の高い医療である. 難聴の遺伝的原因は極めて多様であり, 従来は一部の遺伝子の情報のみが診療に活用可能であった. しかし, ヒトゲノムの広範な領域を, 迅速かつ安価に解析できる次世代シークエンサーの開発により, 活用できる遺伝情報が著しく広がった. 難聴のゲノム医療は, 遺伝学的検査前の診察と遺伝カウンセリング, 遺伝学的検査, 検査結果の解釈と原因診断, 遺伝情報の説明と遺伝カウンセリング, そして治療への橋渡しで構成される. 遺伝学的検査前の診察と遺伝カウンセリングでは, 十分な情報収集に基づいた検査適応の判断と最適な遺伝学的検査の選択, そして予測される結果の説明が重要である. 遺伝情報の説明と遺伝カウンセリングでは, 複雑な内容を正確に, 分かりやすく伝えることが大切である. 治療への橋渡しでは, 生命の危機や重篤な合併症の可能性, 予防が特に重要である. これには, 他科との連携が必須となる. 遺伝性疾患のゲノム検査では, 原因の候補となる遺伝子の変化 (バリアント) が多数検出される. このため, 米国の臨床遺伝の学術団体 ACMG からバリアント判定のガイドラインが提唱され, さらに NIH の遺伝性難聴専門家委員会により, 遺伝性難聴のガイドライン基準の作成が進められている. これらの国際基準に則した原因診断が推奨される. 国内では, ゲノム医療実用化に向けた「臨床ゲノム情報統合データベース整備事業」が開始され, 東京医療センターは遺伝性疾患 (希少疾患・難病) 領域の遺伝性難聴の拠点を担当している. 当施設では, 患者の診療を最優先する研究が最も診療に役立つ研究成果につながるという方針で, 研究に取り組んでいる. 多くの耳鼻咽喉科医師の協力と先端技術に支えられた研究と医療で, 難聴者の健康で豊かな人生の実現に役立つことを目指している.

  • 岡野 晋
    2019 年 122 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 2019/01/20
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     頭頸部癌に対する薬物療法は, 主に殺細胞薬, 分子標的薬が用いられてきたが, 昨年からは従来の薬剤とは大きく異なる作用機序を有する免疫チェックポイント (CP) 阻害薬が使用可能となり, 新たな選択肢が加わった.

     がん細胞は, 腫瘍微小環境における免疫監視機構から逃れるために, 免疫 CP であるプログラム細胞死リガンド1 (Programmed cell death ligand 1: PD-L1) を過剰発現しており, T 細胞表面にある受容体であるプログラム細胞死1 (Programmed cell death 1: PD-1) に特異的に結合することで免疫システムを抑制する (免疫逃避機構). 免疫 CP 阻害薬は, この免疫逃避機構を阻害することにより, 自己免疫による攻撃を活性化する薬剤である.

     薬物療法適応患者の選択は背景論文, ガイドライン・ガイダンスなど, レジメンの選択は全身状態, 臓器機能などを参考に行うが, 実臨床における患者背景はさまざまであり悩むことがある. 適切な選択を行わなければ, 十分な治療効果を得ることができないだけでなく, 予期せぬ有害事象の発生やほかの治療への影響が出ることもあるため, 安易な選択に基づいた薬物療法は控えなければならない.

     免疫 CP 阻害薬の重篤な有害事象の頻度は低いものの, 従来の薬剤とは全く異なる事象が起こり得るため, その管理には細心の注意が必要である. 代表的なものには, 消化器障害 (下痢, 大腸炎, 消化管穿孔), 内分泌障害 (下垂体炎, 甲状腺機能低下症, 副腎機能不全, 糖尿病など), 皮膚障害 (皮疹, 掻痒など) などが挙げられるが, いずれの事象も早期発見・早期治療が行われなければ極めて重篤となり得るため, チーム医療が必須の薬剤である.

     免疫療法の治療開発は今まさに全盛期であり, 再発転移例だけでなく局所進行例も含め, 抗 PD-1 抗体薬, 抗 PD-L1 抗体薬を用いた治療開発が数多く進んでいる. さらに, がんゲノム医療, 新規化学療法, 光免疫療法の開発も進行しており, 今後の展開が期待される.

  • ―頸部リンパ節腫脹: 頸部リンパ節結核, 悪性リンパ腫, 遠隔転移癌について―
    井口 広義
    2019 年 122 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2019/01/20
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     頸部リンパ節結核は, 頸部腫瘤のみを症状とするものが多く, 大部分は片側性である. 診断の第一歩は, 詳細な医療面接で, 疑った場合は免疫学的検査, 頸部リンパ節からの結核菌の証明 (塗抹検査, 培養検査, 核酸増幅検査), 画像検査, 病理組織学的検査結果から総合的に診断を行う. 治療は肺結核の治療に準じて感染症内科や呼吸器内科の協力の下で行う.

     悪性リンパ腫の罹患率増加が世界的に指摘されており, 悪性リンパ腫の全頭頸部悪性腫瘍に占める割合は, 2009年の報告では12.4%である. 頭頸部悪性リンパ腫は, 頭頸部癌の臨床所見と類似する. 頭頸部悪性リンパ腫の臨床的特徴は, 60歳代以上の男性に多く, 中咽頭や頸部リンパ節に多く, 病理組織では B 細胞性が80%程度で, 病型ではびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が60%程度で最多であることである. 悪性リンパ腫による頸部リンパ節腫脹は, 弾性硬・無痛性で, 画像診断では, 両側性・多発性, 辺縁平滑な類円形腫脹で, 内部は比較的均一な軟部濃度を呈し, 壊死を伴わず, 辺縁は軽度造影効果を示す. 詳細な病理診断確定には, 生検による十分量の組織採取が必要である. 治療は基本的に血液内科が主となって行う.

     頭頸部以外の臓器から頸部リンパ節への遠隔転移癌に遭遇する頻度は決して高いものではないが, 胸腹部などの臓器からの遠隔転移癌の存在も忘れてはならない. 原発巣として胃, 肺, 食道, 乳腺, 肝, 胆, 膵, 腎, 精巣, 子宮, 卵巣, 前立腺などが報告されている. 高年齢層に多いが, AYA (Adolescent and Young Adult: 思春期・若年成人) 世代にも注意が必要で, 原発巣としては乳腺, 子宮, 卵巣, 精巣などの報告がある. 下内深頸領域から鎖骨上窩にかけて複数の腫大リンパ節を触知する場合は, 頸部から胸腹部の画像診断ならびに組織検査も念頭に置いた検討を速やかに行い, 原発巣に応じた当該診療科に治療を依頼する.

原著
  • 1シーズン目, 2シーズン目および3シーズン目の比較
    太田 伸男, 湯田 厚司, 小川 由起子, 東海林 史, 粟田口 敏一, 鈴木 直弘, 千葉 敏彦, 陳 志傑, 草刈 千賀志, 武田 広誠 ...
    2019 年 122 巻 1 号 p. 35-44
    発行日: 2019/01/20
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     スギ花粉症に対する舌下免疫療法が臨床応用され3シーズンが経過した. しかし, 治療の実態には不明な点が多い. 今回, 舌下免疫療法開始1シーズン終了群109例, 2シーズン終了群121例, 3シーズン終了群126例の計356例に質問票を用いて服薬状況, 自覚的治療効果, 副反応, 治療満足度, 治療に伴う負担などについて検討を行った. その結果, 服薬状況は両群で70%以上の患者がほぼ毎日服薬しており, 有効性を自覚していることが示唆された. また, 副反応は1シーズン終了群では26.5%に認められたが, 2シーズン終了群では0%, 3シーズン終了群では2.9%と減少する傾向が認められた. 副反応のすべてが特に処置を必要としない軽微な反応で, その多くが口腔内病変であった. 90%以上で治療の継続を希望しており, 舌下免疫療法はスギ花粉症の治療法の有効な方法の一つであるが, 副反応への対応を念頭に置くことが肝要であると考えられた.

  • 鈴木 貴博, 野口 直哉, 東海林 史, 角田 梨紗子, 太田 伸男, 小倉 正樹, 香取 幸夫
    2019 年 122 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2019/01/20
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     過去7年間に経験した耳下腺唾石症例10例の内訳は, 外科的摘出例が4例, 自然排出例が3例, 経過観察例が3例である. 外科的摘出方法としては唾液腺管内視鏡単独で摘出した例が2例, 唾液腺管内視鏡補助下外切開法が1例, 外切開法が1例であった. 唾液腺管内視鏡手術例のうち1例に対して唾石の位置確認と摘出後の遺残確認のために術中エコーを用いた. 唾石介在部位まで内視鏡が到達できなかった1例に対しては外切開法に切り替え, ステノン管移行部に加えた小切開孔を経由して内視鏡を挿入した. 病変部位まで内視鏡到達が困難な場合があるため, 内視鏡手術においても外切開法への切り替えを想定し治療計画を立てておく必要があると思われた.

  • 大田 重人, 赤澤 和之, 阪上 雅史
    2019 年 122 巻 1 号 p. 52-58
    発行日: 2019/01/20
    公開日: 2019/02/01
    ジャーナル フリー

     耳管開放症の診断においては, 上半規管裂隙症候群の鑑別が必要である. 今回, 両側耳管開放症の発症後にめまい症状を生じ, 左上半規管裂隙症候群が発見された症例を経験した. 症例は50歳女性. 1年前から両耳に臥位で改善する自声強聴を自覚していた. 1カ月前から左自声強聴に伴った浮動感が出現した. 体位変換耳管機能検査にて両側開放型であり, 両側耳管開放症と診断した. VEMP 検査で左耳の振幅増大と反応閾値の低下を認め, 側頭骨 CT で左上半規管上部に骨欠損が確認された. VEMP および CT 所見から上半規管裂隙症候群と診断した. 耳管開放症に対する保存的治療を先行したところめまい症状は軽快した.

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