日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
耳鼻咽喉科としての認知症への対応 : 前庭機能低下と認知障害の関連について
堀井 新
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キーワード: 加齢, 前庭系, 認知機能
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2020 年 123 巻 1 号 p. 12-15

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抄録

 感覚機能と認知に関して, 感覚機能障害が認知障害を引き起こすのか, 認知障害の一症状として感覚機能低下を呈するのかは議論のあるところではあるが, 難聴や嗅覚低下が認知障害と併存することは良く知られている. 平衡覚に関しては前庭動眼反射や前庭脊髄反射など高次脳機能を介さない脳幹・小脳レベルでの役割が主体と考えられてきたため, 認知機能との関連に関する知見は少なかった. 2000年代初頭, 前庭破壊動物において記憶の中枢である海馬に存在し場所の認知に働く place cell の機能が低下し, 空間記憶が障害されているとの報告が相次いだ. その後, 両側前庭機能低下患者 (神経線維腫症Ⅱ型) で海馬体積の減少と空間記憶学習の低下が報告され, 動物モデル, 患者において前庭機能低下と空間認知機能低下の関係が明らかとなった. 2010年代になると, 米国の大規模国民調査で前庭機能やめまいの自覚症状と認知機能に相関があること, 高齢者の平衡機能障害は dementia のリスクファクターであることなどが報告されるようになり, 前庭機能障害は空間認知のみならず認知機能一般の低下にも関与する報告が増えるようになった. 高齢者あるいは一般国民を対象に前庭機能へ介入することが, 難聴者への聴覚介入のように認知機能の回復や認知機能低下の予防に貢献するかどうかは喫緊の研究課題である.

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© 2020 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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