日本耳鼻咽喉科学会会報
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気管食道瘻発声における新声門摩擦音の生成機構
長谷川 信吾木西 實毛利 光宏天津 睦郎
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2001 年 104 巻 5 号 p. 495-503

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抄録

喉頭発声における声門摩擦音「ハ, ヘ, ホ」 (以下, [h] ) は声門で構音される無声子音である. 喉頭摘出後の気管食道瘻を用いた発声 (以下, 気食瘻発声) においては新声門摩擦音 [h] は日本語で最も生成が困難であるが, 一部の例では実際に [h] が生成されることを経験する. 本研究の目的は気食瘻発声での新声門摩擦音の生成機構を解明することにある.
気食瘻発声者88名のうち [h] 生成が可能な8名を対象とし, [h] 生成が不可能な80名の中, 4名を選択し対照とした.
検査語/ha: ha: /, /sa: sa: /発話中の新声門動態を内視鏡を用いて観察し, 新声門開放時間を測定した. 次に検査語発話時の空気力学的検査として呼気流率, 新声門上・下圧, 音声波形を同時測定し, また, 母音/a: /生成時の新声門抵抗を算出した. 筋電図検査として新声門形成に重要な役割を果たす甲状咽頭筋の筋放電ならびにその積分曲線を新声門上・下圧, 音声波形とともに同時記録した.
[h] 生成時に新声門開放時間は語頭で平均0.26秒, 語中で平均0.19秒であり, [s] 生成時のそれと有意差はなかった. [h] 生成時に呼気流率と新声門上圧の一過性増加がみられ, 一方, 甲状咽頭筋筋放電と新声門下圧の一過性低下を認めた. [s] 生成時にも呼気流率と新声門上圧の一過性増加や甲状咽頭筋筋放電の一過性低下がみられたが, 新声門下圧の低下は認めなかった. また, [h] 生成時の筋放電の一過性低下は [s] 生成時のそれより著明であった. 母音/a: /生成時の新声門抵抗は [h] 生成可能群では不能群と比較して有意に低値であった.
気食瘻発声では新声門摩擦音 [h] 生成が (1) 他の無声音に比較してさらに甲状咽頭筋を弛緩させる新声門調節と (2) 新声門下圧の一過性低下すなわち呼気調節との協調により遂行されていることが判明した.

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