2001 年 104 巻 5 号 p. 510-513
聴神経由来の高度感音難聴の外科的治療法として, 脳幹の蝸牛神経核を直接に電気刺激して聴覚を取り戻す聴性脳幹インプラント (Auditory Brainstem Implant, 以下ABI) が開発され, すでに海外では試験治療が行われている.
われわれは25歳男性の神経線維腫症第2型の患者に対して腫瘍切除後に, 本邦で第1例目の8チャンネルABI埋め込み手術を行う機会をえた. 5チャンネルで音の知覚が可能であり, 読話を併用した場合, 簡単な日常会話は筆談を用いなくとも了解可能となっている. 術後1年3ヵ月間を経過したが, 現在のところ特に電極の感染や露出, 異物反応などの副作用は認められておらず, 安定した状態にある. 以上の経験から, ABIは両側の聴神経障害を有する患者の聴覚改善のための人工臓器の一つとして, 今後, 試みられてよい方法であると結論した.