抄録
慢性副鼻腔炎は, 副鼻腔の粘膜素因と細菌の病原性の相対的関係, 更に継続的な感作によるアレルギー性反応により, 多彩な粘膜病変を示す.
著者は, 慢性副鼻腔炎の上顎洞粘膜表在菌および粘膜表面を殺菌後磨砕して, 粘膜内細菌を同定し, 同時に組織内細菌染色を行なうことによって, Staphylococcus aureus (以下S. aureus) が慢性副鼻腔炎の主要な起炎菌であることを認めた.
免疫学的な方法によって, 副鼻腔感染の病態を明らかにする目的で, 凝集反応を行ない, 患者血清ばかりでなく, 上顎洞粘膜浸出液にも抗体が証明されたが, S. aureusの凝集抗体価は, 副鼻腔炎罹患と相関しなかった.
ワクチンによる皮内反応も副鼻腔炎罹患と相関がなかった.
そこで, S. aureusの菌体を分画し, その特異抗原に注目して, 皮内反応を行なった.
慢性副鼻腔炎患者においては, cell wallの蛋白分画および多糖体分画に即時反応が強く現れ, 皮膚の感受性を考慮して, 年令別に検討すると, 対照群では10才代から20才代にかけて反応が最も強く, 30才代から減弱するのに反し, 副鼻腔炎群では, 40才代以後の高年令においても, 強い反応が持続する傾向があった.
この即時反応は, P.K反応の結果から, reaginic hypersensitivityによるものとは考えられなかった.
高度の慢性副鼻腔炎の1症例には, 多糖体に対する沈降抗体が認められ, これが, 病変と関連深い抗体であり, γG. fractionにあることを証明した.
今後慢性副鼻腔炎において, この多糖体分画に対する抗体を検索することにより, S. aureus感染の目安とし, その副鼻腔炎粘膜の組織学的検討を行なえば, アレルギー性病変を解く糸口が得られると考えた.