日本耳鼻咽喉科学会会報
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72 巻, 5 号
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  • 古賀 郁彦
    1969 年 72 巻 5 号 p. 949-970
    発行日: 1969/05/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    扁桃の生理機能の中で, 現在とくに注目されている防禦機能を解明するために, 雛を無菌的に飼育し, その耳管入口部リンパ小節を光学顕微鏡的ならびに電子顕微鏡的に観察した.
    無菌雛は, 滅菌卵を孵化させることにより獲得され無菌環境下のビニール・アイソレターの中で飼育される.
    検索した雛は, 自然雛 (対照) 10羽, 短桿菌感染雛8羽, 白色ブドウ球菌感染雛8羽, 雑菌感染雛6羽, 無菌雛10羽で, 以上総ての雛の耳管入口部リンパ小節を観察した.
    その結果無菌雛では, 殆んど飼育日数に関係なくリンパ小節は小さく, 中には認められないものもあり, 小節内の細胞も疎である. 一方感染雛では, リンパ小節は大きさおよび数を増し, 細胞も密となっている. またその細胞構成は, 感染雛では無菌雛に比して, リンパ球が密であが, ことに形質細胞および細網細胞の相対的増加が窺われた. さらに各細胞の微細構造では, 形質細胞の粗面小胞体の発育がよく, 非常に活動的な像を呈し, 一方細網細胞には異物貪喰像と思われる所見が認められた. 以上のことは, リンパ小節の外界微生物侵襲に対する生体防禦反応を意味するものと考えられ, ひいては扁桃の免疫防禦機能を示唆するものと思われる.
  • 宮下 久夫
    1969 年 72 巻 5 号 p. 971-984
    発行日: 1969/05/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
    慢性副鼻腔炎は, 副鼻腔の粘膜素因と細菌の病原性の相対的関係, 更に継続的な感作によるアレルギー性反応により, 多彩な粘膜病変を示す.
    著者は, 慢性副鼻腔炎の上顎洞粘膜表在菌および粘膜表面を殺菌後磨砕して, 粘膜内細菌を同定し, 同時に組織内細菌染色を行なうことによって, Staphylococcus aureus (以下S. aureus) が慢性副鼻腔炎の主要な起炎菌であることを認めた.
    免疫学的な方法によって, 副鼻腔感染の病態を明らかにする目的で, 凝集反応を行ない, 患者血清ばかりでなく, 上顎洞粘膜浸出液にも抗体が証明されたが, S. aureusの凝集抗体価は, 副鼻腔炎罹患と相関しなかった.
    ワクチンによる皮内反応も副鼻腔炎罹患と相関がなかった.
    そこで, S. aureusの菌体を分画し, その特異抗原に注目して, 皮内反応を行なった.
    慢性副鼻腔炎患者においては, cell wallの蛋白分画および多糖体分画に即時反応が強く現れ, 皮膚の感受性を考慮して, 年令別に検討すると, 対照群では10才代から20才代にかけて反応が最も強く, 30才代から減弱するのに反し, 副鼻腔炎群では, 40才代以後の高年令においても, 強い反応が持続する傾向があった.
    この即時反応は, P.K反応の結果から, reaginic hypersensitivityによるものとは考えられなかった.
    高度の慢性副鼻腔炎の1症例には, 多糖体に対する沈降抗体が認められ, これが, 病変と関連深い抗体であり, γG. fractionにあることを証明した.
    今後慢性副鼻腔炎において, この多糖体分画に対する抗体を検索することにより, S. aureus感染の目安とし, その副鼻腔炎粘膜の組織学的検討を行なえば, アレルギー性病変を解く糸口が得られると考えた.
  • ultrasonoglottographyによる研究
    三浦 徹蔵
    1969 年 72 巻 5 号 p. 985-1002
    発行日: 1969/05/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    振動中の声帯を動的に観察するために, stroboscopy, synchronstroboscopy, 高速度映画, photoelectroglottography, electroglottographyおよびultrasonoglottographyなどが開発されているが, ultrasonoglottographyを除く諸法では, 声帯振動の振幅の絶対値, 発声時呼気流率および声門下圧の同時測定は不可能である. そこで, ultrasonoglottography施行時に, 発声時呼気流率を同時測定することにより, 声帯の振動様式を分析した.
    1) 方法
    超音波パルスの繰り返し周波数を5000c/sにした装置を用いた. 使用周波数は5Mc.
    両側声帯の運動を分析するために, 甲状軟骨の両側に, 2本の探触子 (1側探触子には脱気水をみたしたアダプターを装着) を圧抵し, 左右2つの声帯運動曲線と, その間に, closed phaseを点線として記録する方法をとつた.
    正常人10名を対象としてultrasonoglottographyを施行し, うち4名で発声時呼気流率を同時測定した.
    2) 結果
    得られた結果は下の通りである.
    1. 音声のintensity, あるいは発声時呼気流率が一定で, 声帯振動の振幅が不変の際には, pitchが上昇するとO.Q. (open quotient) は増加する.
    2. 音声のpitchが一定で, 声帯振動の振幅が不変の際には, 音声のintensityがますと, O.Q.は増加する.
    3. 音声のintensityが一定で, O.Q. が不変の際には, pitchが上昇すると, 声帯振動の振幅は増大する.
    4. 音声のpitchが一定で, O.Q. が不変の際には, 音声のintensity, あるいは呼気流率がますと, 声帯振動の振幅は増大する.
    5. 音声のpitch, intensityが一定の時には. O.Q. は声帯振動の振幅と逆比例する.
  • 飯田 義信
    1969 年 72 巻 5 号 p. 1003-1016
    発行日: 1969/05/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
    この研究は病巣感染性扁桃の免疫学的特徴を見出そうと試み, 扁桃性病巣感染症の免疫学的診断法の可能性を検討したものである.
    慢性扁桃炎患者155例を治療後診断法および扁桃マッサージ法により, 病巣感染性扁桃群 (病感扁) と非病巣感染性扁桃群 (非病感扁) とに分けた.
    方法:
    患者血清および扁桃組織蛋白の分析にSeparax電気泳動, 寒天免疫電気泳動 (=IEP), 寒天免疫拡散法およびHylandのImmunoplateを使用した. また, タンニン酸処理赤血球凝集反応および螢光抗体法を用いて, 血清中自己乃至同種抗扁桃抗体について検討した.
    結果:
    1) 扁桃組織蛋白はSeparax電気泳動によると5つに, IEPおよび免疫拡散法では13に分画された.
    2) 病感扁患者血清γ-glおよび組織γ-glは非病感扁のそれより高値を示した.
    3) 病感扁患者血清のγG, γA, γMはともに非病感扁のそれらより高値を示した.
    4) 病感扁組織γGおよびγAは非病感扁のそれらより高値を示した.
    5) 扁桃組織内のγGおよびγAはともに上皮下浸潤形質細胞の細胞質に, γMは上皮下浸潤リンパ球様細胞およびRussell小体, 胚中心周囲のリンパ球様細胞と細網細胞に局在した.
    6) 病感扁を抗原とした病感扁患者血清の赤血球凝集反応は非病感扁患者血清より陽性率および凝集価が高いことを認めた.
    7) 赤血球凝集反応陽性の血清γ-gl分画に対する扁桃組織内抗原の螢光抗体法による検索では核物質および細菌を含んでいると思われる崩壊上皮に, また胚中心およびその周囲の細網細胞に特異螢光を認めた.
    以上, 赤血球凝集反応および螢光抗体法により血清中に自己乃至同種の扁桃組織に対する抗体の存在する可能性を認め, 患者血清を検体とした抗扁桃抗体の証明が扁桃性病巣感染症の診断に役立つことになると考える.
  • 土田 陽一
    1969 年 72 巻 5 号 p. 1017-1028
    発行日: 1969/05/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    第1編では, でんぷんゲル電気泳動法 (pH8.6) によりヒト扁桃の可溶性蛋白質を分析した. そのために扁桃抽出液中に混入せる血清成分の泳動図に及ぼす影響を, 稀釈血清, Hemoglobinおよび扁桃抽出液の同一ゲルでの泳動ならびに免疫電気泳動法により検討した. その結果は下記の如くである.
    1. albuminの前方には3-5本の蛋白分画がある.
    2. albuminと原点との間には4-5本の蛋白分画がある.
    3. γ-globulin領域には2-4本の蛋白分画がある.
    4. ヒト扁桃の泳動図は, 年令より2つの型に分けられる.
    更にこれ等の結果をTiselius法, 〓紙法による成績と比較し論じた.
    第2編では, 扁桃γ-globulin位成分について, その扁桃組織での局在, 糸球体腎炎の発症機序との関係を螢光抗体法により研究した.
    即ち泳動後γ-globulin位成分をゲルより抽出し, これに対する家兎抗血清を作くり, F.I.T.C.をlabelし扁桃および腎を染めた.
    その結果, 扁桃では胚中心等が, 腎では腎炎患者糸球体に螢光が認められた.
    この事実は扁桃のγ-globulin位成分が糸球体腎炎の発症に重要な役割を演ずることを示すと解される.
  • テトラサイクリンの移行について
    広石 隆
    1969 年 72 巻 5 号 p. 1029-1051
    発行日: 1969/05/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
    慢性中耳炎時の側頭骨への薬物移行についてはほとんど研究されていない.
    本実験では, Wistar系の正常ラットおよび自然に発生した慢性中耳炎罹患ラットを使用して側頭骨ならびに比較対照として後肢骨 (大腿骨, 脛骨) を選び, 各組織内へのテトラサイクリン (TC) の移行量を化学的方法により定量的に検するとともに, その骨内分布状態を螢光顕微鏡を用いて観察した.
    そして次のような結果をえた.
    1) 正常成熟ラットでTCの側頭骨, 後肢骨への分布量は投与量とともに増加した.
    骨内TC濃度のピークは腹腔内注射2時間後であり, 10日後にも相当量が残存していた.
    骨内TC分布量の順位は後肢骨骨端が最大であり次に側頭骨, 最低は後肢骨骨幹であつた.
    2) TCの骨内移行量ならびに骨内からの減少率を正常幼若♂ラット, 正常成熟♂ラット, 慢性中耳炎罹患♂ラット (O.M.C. 群) について比較した.
    部位別についてみると各群ともその濃度および減少率の順位は後肢骨骨端>側頭骨>後肢骨骨幹であった. 一方, 群別の比較では各部位とも正常幼若群>正常成熟群>O.M.C. 群であった.
    なお, TC血漿中濃度は各群間に有意差はみられなかつた.
    3) 螢光顕微鏡観察により骨内でのTCの黄金色螢光の著しい部位は側頭骨中耳胞壁では, その外壁および内壁の骨膜下骨質, ハバース管壁中であつた. 一方, 長管骨では, その骨端部骨梁中, 骨幹部の骨膜下および骨内膜下骨質, ハバース管壁中であつた.
    これらの部位はいずれも骨内での骨形成部に相当する.
    なお側頭骨中耳胞壁のみならず長管骨においてもO.M.C. 群ではその螢光は正常群よりもやや弱い傾向にあつた.
    4) TC 2重ラベル法を応用して各群の中耳胞壁および脛骨における骨形成能を比較した.
    その結果は各部位とも正常幼若群>正常成熟群>O.M.C. 群であつた.
    この結果はTCの骨内分布が骨代謝の状態に関係することを示すものと考える.
    5) 各群の骨内総カルシウム量を原子吸光分光々度計を用いて測定した.
    部位別では各群とも骨幹≒側頭骨>骨端の順であつた.
    一方, 群別の比較では各部位とも, O.M.C. 群≒正常成熟群>正常幼若群であつた.
    しかしO.M.C. 群では中耳胞壁中のCa量は減少していることが判つた.
    6) 実験各群, および実験各部位においてTCの骨内移行量および骨内からのTCの減少率に差異の生じた点について考察を加えた.
  • 自発放電と冷水刺激による放電頻度の変化
    船坂 宗太郎
    1969 年 72 巻 5 号 p. 1052-1060
    発行日: 1969/05/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    前庭内側核ニューロンの活動を, encephale isoleを施行したネコで研究した. 自発放電は大多数が1個のインパルスの継続した放電といつたものであつたが, 少数において3~4個のインパルスが群をなして放電を繰返すというpuls-train型が認められた. 自発放電の頻度は, 1秒間2放電から75放電にわたっていたが, 約80%のニューロンが1秒間25放電以下という低頻度放電を示した.
    これらのニューロンは, 0℃の冷水10mlの鼓室注入という刺激に対して, それぞれ放電頻度の増加, 減少, あるいは不変をもって反応した. すなわち, 記録側の耳の刺激では, 放電頻度の減少したものが, 全体で102個のニューロンのうち55個, 増加したもの28個, そして不変のもの19個という結果が得られた. 反対側の耳の刺激では, 放電頻度の減少したもの15個, 増加したもの60個, そして不変のもの27個となった.
    冷水刺激に対する反応形式により, これらのニューロンは5つの型に分類された. クプラの運動を反映するType IとType IIに属するニューロンの自発放電頻度は, 1秒間25放電以下という低頻度放電にあるものが多かった. 一方Type III, IV, Vに属するニューロンの自発放電は一秒間3放電から60放電まで一様の分布をしていることが認められた.
    冷水刺激によって変化した放電頻度は, 30秒から350秒ののち, ほぼ刺激前の頻度に復した. しかして記録側の耳の刺激の際は大凡80%のニューロンが, 反対側の耳の刺激の際は大凡85%のニューロンが, 150秒以内に刺激前の放電頻度に復することがわかった.
  • 萩原 啓二
    1969 年 72 巻 5 号 p. 1061-1096
    発行日: 1969/05/20
    公開日: 2010/10/22
    ジャーナル フリー
    例えば, absolute threshold, masked threshold, differential threshold, loudnessの如き音感覚は, 信号音の強さや周波数のみでなくその持続時間によっても変化する. こうした事実は, 聴覚系が時間軸に対しても音powerを積分する能力のあることを示している. すでに多くの研究者たちがこの現象に興味を持ち, そのうち何人かは数学的モデルや電気的等価回路によるシミュレーションを試みた. 併し, 聴覚系の時間的積分機構に関しては未だ充分解明されたとは言えない.
    そこで, 著者はこの機構を解明するため, 短音 (1秒以下の) を信号音に用いて, 正常耳を対象に, 短音の閾値およびloudnessにおけるintensity-duration functionを系統的に検索した.
    得られた実験結果を要約すると下記の如くである.
    1) Absolute thresholdの場合―信号音の持続時間を10倍にすると閾値は10dBの率で変化することから, 持続時間200msec. 以下では原則的には音powerは時間軸に対して直線的に積分される. 併し, この閾値の変化率は, 非常に低い周波数や高い周波数の純音や広帯域雑音を信号音とした場合には, 時間の1 log unit当り10dB以下となる. これは耳の感受性が周波数によってそれぞれ異なるためと考えられる.
    2) Critical duration (すなわち, 閾値が定常状態に達する最短時間) は, ほぼ一定で約250msecである.
    3) Masked threshold (すなわち, 同時に定常状態の雑音が存在する場合の短音の閾値の場合) ―もし, そのthreshold intensityをS/N比で表現すれば, そのintensity-daration functionは, absolute thresholdの場合と本質的には差がない.
    4) 閾値上の場合-ある短音 (500msec以下) が定常状態の音 (500msec) と等しいloudnessになるためには, その強さを増してやらなければならない. 併し, 信号音の持続時間の差によるこのintensity levelの差は, intensity levelが上昇するに従って次第に減少する. 例えば, 500msec音と5msec音に対するloudness levelの差は閾値附近では約18dBであるが, この差はintensity levelが10dB上昇する毎に2dBずつ減少し, 閾値上60dBにおいては約6dBとなる. 更にそのcritical durationもintensity levelが上昇するに従って次第に短縮する.
    5) 上述の実験結果ならびに聴覚系の神経生理学的諸知見に基づいて, 聴覚系の時間的積分機構についての新しいmodelを提唱した.
  • 1969 年 72 巻 5 号 p. 1097-1112
    発行日: 1969/05/20
    公開日: 2010/12/22
    ジャーナル フリー
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