慢性中耳炎時の側頭骨への薬物移行についてはほとんど研究されていない.
本実験では, Wistar系の正常ラットおよび自然に発生した慢性中耳炎罹患ラットを使用して側頭骨ならびに比較対照として後肢骨 (大腿骨, 脛骨) を選び, 各組織内へのテトラサイクリン (TC) の移行量を化学的方法により定量的に検するとともに, その骨内分布状態を螢光顕微鏡を用いて観察した.
そして次のような結果をえた.
1) 正常成熟ラットでTCの側頭骨, 後肢骨への分布量は投与量とともに増加した.
骨内TC濃度のピークは腹腔内注射2時間後であり, 10日後にも相当量が残存していた.
骨内TC分布量の順位は後肢骨骨端が最大であり次に側頭骨, 最低は後肢骨骨幹であつた.
2) TCの骨内移行量ならびに骨内からの減少率を正常幼若♂ラット, 正常成熟♂ラット, 慢性中耳炎罹患♂ラット (O.M.C. 群) について比較した.
部位別についてみると各群ともその濃度および減少率の順位は後肢骨骨端>側頭骨>後肢骨骨幹であった. 一方, 群別の比較では各部位とも正常幼若群>正常成熟群>O.M.C. 群であった.
なお, TC血漿中濃度は各群間に有意差はみられなかつた.
3) 螢光顕微鏡観察により骨内でのTCの黄金色螢光の著しい部位は側頭骨中耳胞壁では, その外壁および内壁の骨膜下骨質, ハバース管壁中であつた. 一方, 長管骨では, その骨端部骨梁中, 骨幹部の骨膜下および骨内膜下骨質, ハバース管壁中であつた.
これらの部位はいずれも骨内での骨形成部に相当する.
なお側頭骨中耳胞壁のみならず長管骨においてもO.M.C. 群ではその螢光は正常群よりもやや弱い傾向にあつた.
4) TC 2重ラベル法を応用して各群の中耳胞壁および脛骨における骨形成能を比較した.
その結果は各部位とも正常幼若群>正常成熟群>O.M.C. 群であつた.
この結果はTCの骨内分布が骨代謝の状態に関係することを示すものと考える.
5) 各群の骨内総カルシウム量を原子吸光分光々度計を用いて測定した.
部位別では各群とも骨幹≒側頭骨>骨端の順であつた.
一方, 群別の比較では各部位とも, O.M.C. 群≒正常成熟群>正常幼若群であつた.
しかしO.M.C. 群では中耳胞壁中のCa量は減少していることが判つた.
6) 実験各群, および実験各部位においてTCの骨内移行量および骨内からのTCの減少率に差異の生じた点について考察を加えた.
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