日本耳鼻咽喉科学会会報
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全身振動の音声言語に対する影響についての実験的研究
誤聴語音についてのソナグラフ観察
横山 俊彦星野 健一
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1972 年 75 巻 2 号 p. 224-240

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抄録

研究目的: 振動, 騒音環境下におけるspeech communicationが騒音以外に振動によっても影響を受けるかどうか, 受けるとすれば如何なる影響を蒙るかを, 発声者の立場に立って, 振動曝露下における発声者の語音, 所謂vibrated speechについて種々の方面より多角的に観察, 分析することを企図した.
本研究はその一環として振動の音声言語に対する影響について聴覚的観点より検索した結果をSona-Graphによる客観的方法によって, 裏づけられるかどうかを検討したものである.
研究方法: 発語明瞭な発声者の発する語音 (無意味―音節語100語) の中から聴力正常の受聴者10名中8名以上の者が各実験条件下において共通してある語音に聞き違えた語音を主として抽出し, これらのspeech samplesについてsonagramを用いてpattern, contour displayおよびamplitude displayの観察方式によって分析すると共に, これらの語音の調音運動についての言語学的解説を加えて検討した.
研究結果:
1) 10cps振動によるvibrated speechの「RI」および「BU」は子音部の音声波が消失し, 後続母音のホルマント構造しか認められず. 「RI」が「I」, 「BU」が「U」に誤聴されることが分った.
2) 5cps vibrated speechの「DE」, 20cps vibrated speechの「KU」, 「GYA」, 「PA」, 「SYO」がそれぞれの誤聴語音に対応した調音構造に置換または類似した構造に変化していることが分った. 従ってこれらの発語語音は騒音同時聴取によって形態的に近似構造をもつこれらの誤聴語音に聞き違える可能性が充分あることが理解された.
3) 振動加速度強度と語音の音響学的構造との関連性を「TSU」語音について調べたところ, 加速度強度の減弱に対応して「TSU」語音の音響学的構造は次第に非振動下発声語音, non-vibrated speechの構造に近似することが認められた.
4) vibrated speechおよびその特異的な誤聴傾向は外部振動の胸腹部励振による呼気圧, 呼気流の不随意的変化に基づき, 音声器官に種々の物理的影響, 例えば調音点のずれ, 調音運動の強制的抑制などの生じた結果が主因をなすものと推論した.

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