1988 年 91 巻 7 号 p. 1066-1071
内耳循環動態を解明する研究の一環として,レーザードップラー血流計を用いてモルモットの蝸牛血流を測定した.本法による血流測定はすでに皮膚血流の領域でその有用性の評価が確立されているが,蝸牛血流を対象とした場合にも,安定性のある優れた感度をもつ測定法であると考えられた.Asphyxia負荷,Angiotensin II投与に対する蝸牛血流の反応は収縮期血圧のそれと強い相関をもつ動態を示した.Angiotensin IIによる蝸牛血流の増加は,昇圧作用による二次的効果と考えられ,その血流増加にはある範囲で投与
量依存性が認められた.Angiotensin IIに対する皮膚血流の反応を耳珠皮膚で観察したところ,その反応には収縮期血圧の反応との相関はみられず,投与量を増量すると皮膚血流は低下する傾向もみられた.したがって蝸牛血流はAngiotensin IIに対する反応において,皮膚血流とは異なる血流動態の特性を有することが考えられた.蝸牛血流がAsphyxia負荷,Angiotensin II投与により収縮期血圧に追随する反応を示したことは蝸牛血管系が機能的には受動的である側面を有することを示唆するものである.今後,内耳循環動態を理解するには,諸種の実験条件によって内耳血管系にある特有の機能的側面を探っていく必要があると考える.