日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報
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総説
小児人工内耳植込術施行前後の療育ガイドライン2021年版
伊藤 真人
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2022 年 125 巻 9 号 p. 1353-1357

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抄録

 新生児聴覚スクリーニング (新スク) は全国で87.6%の新生児に実施されているが, 新スクでの難聴疑い (Refer) 後の確定診断時期や, 確定診断後の言語獲得, 特に音声言語獲得のための最適な療育体制の整備は立ち遅れていると言わざるを得ない. これは, 本法では医療, 療育, 政策など全般にわたる難聴児への介入の体制整備が不十分であることが原因である. 難聴幼少児の療育の問題点は次第に行政にも知られるところとなり, 国会議員有志や難聴診療・療育関係者, 文部省・厚生労働省を交えた検討が2017年から行われ, その提言を経て, 2018年度に長崎県主導で厚生労働省平成30年度障害者総合福祉推進事業「人工内耳 (CI) 装用難聴児に対する多職種による介入方法の実態調査」が行われた1). さらに2019年4月10日に設立された国会議員による難聴対策推進議員連盟における検討により, Japan Hearing Vision が策定され, 難聴児対策の提言がなされた. これを受けて, 厚生労働省は難聴児の療育に関する科学研究費補助金研究を公募し, GC-16 公募研究課題「聴覚障害児に対する人工内耳植込術施行前後の効果的な療育手法の開発等に資する研究」の一環として, CI 後の適切な療育手法にかかるガイドラインの作成が行われた.

 ガイドラインの対象者は, 耳鼻咽喉科医, 小児科医, 言語聴覚士, 聴覚特別支援学校教員, および児童発達支援センターや児童発達支援事業などの指導員を含めた, 全ての難聴児および青年の診療・療育に携わる従事者である. ガイドラインでは, Ⅰ. 新生児聴覚スクリーニング, Ⅱ. 先天性サイトメガロウイルス感染症, Ⅲ. 難聴診断後の療育, Ⅳ. 人工内耳植込後の療育, Ⅴ. 先天性高度難聴青年の療育について, エビデンスに基づく推奨を記載した.

 聴覚障害児の療育がガイドライン等により最適な方法で行われれば, CI 装用後の言語獲得効果もさらに向上することが期待される. その結果, 厚生労働行政における「障碍者の社会参加の機会の確保」にとって大きな利益をもたらすものと考えられる.

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