2019 年 3 巻 1 号 p. 161-173
第198回通常国会において成立した電気通信事業法の一部を改正する法律は、①モバイル市場の競争の促進に係る禁止行為の新設、②電気通信事業者及び販売代理店の勧誘の適正化に係る禁止行為の新設、③販売代理店への届出制度の導入を行うものである。
①については、現在のモバイル市場は大手3社が約9割のシェアを占める寡占的状況であり、市場競争が機能していないとの指摘がなされていることを踏まえ、モバイル市場の競争を促進するため、総務大臣が指定する「移動電気通信役務」を提供する総務大臣が指定する電気通信事業者及びその販売代理店に対して、
・端末の販売等に関する契約の締結に際し、利用者に対し、電気通信役務の料金を当該 契約の締結をしない場合より有利なものとすることその他電気通信事業者間の適正な競争関係を阻害するおそれのある利益の提供を約し、又は約させること
・電気通信役務の提供に関する契約の締結に際し、利用者に対し、契約の解除を行うことを不当に妨げることにより電気通信事業者間の適正な競争関係を阻害するおそれがあるものとして総務省令で定める料金その他の提供条件を約し、又は約させること
を禁止するものである。
②については、利用者の利益の保護に関する規律を大幅に強化した平成27年の電気通信事業法改正の後、電気通信役務に関して寄せられる苦情・相談の件数が高止まっている状況にあることを踏まえ、電気通信事業者及び販売代理店に対して、
・利用者の利益を保護するために特に必要性が高いもの等として総務大臣が指定する電気通信役務の提供に関する契約の締結の勧誘に先立って、その相手方に対し、自己の氏名若しくは名称又は当該契約の締結の勧誘である旨を告げずに勧誘する行為
・その他利用者の利益の保護のため支障を生ずるおそれがあるものとして総務省令で定める行為
を禁止するものである。
③については、販売代理店における適正な業務の確保の重要性の増大等を踏まえ、販売代理店について総務大臣への届出制度を導入するものである。
令和元年5月17日に公布された電気通信事業法の一部を改正する法律(令和元年法律第5号。以下「本法律」という。)は、モバイル市場の競争の促進及び利用者の利益の保護を図るため、電気通信事業法(昭和59年法律第86号。以下「法」という。)においてモバイル市場の競争の促進に係る禁止行為の新設、電気通信事業者及び販売代理店の勧誘の適正化に係る禁止行為の新設並びに販売代理店への届出制度の導入を行うものである。
本稿では、本法律の制定に至る検討の経緯及び論点を紹介した上で、法の各改正事項の概要について解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であることを予めお断りしておきたい。
平成30年8月、平成27年の改正法附則第9条に基づく「施行後3年後の見直し」を契機として、総務大臣から総務省の諮問機関である情報通信審議会に対し、「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証」についての諮問が行われた。これを受け、平成30年10月に「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証に関する特別委員会」1が立ち上げられ、また、これに関連する有識者会議として、同月、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(以下「モバイル研究会」という。)2及び「ICTサービス安心・安全研究会 消費者保護ルールの検証に関するWG」(以下「消費者保護WG」という。)3が立ち上げられた(図1参照)。
図1 「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証」に関連する会議体
これらの両有識者会議の集中的な議論の結果、同年11月に両有識者会議の合同会合において、モバイルサービス等の適正化に向けて早急に取り組むべき事項を整理した「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」(以下「緊急提言」という。)の案についての意見募集が行われ、平成31年1月には、合計79件の意見募集の結果を踏まえた緊急提言が取りまとめられた。
政府においては、当該緊急提言を受け、平成31年3月5日に本法律の案を閣議決定し、第198回国会に提出した。その後、国会審議を経て令和元年5月10日に本法律が成立し、同月17日に公布された。
法は、携帯電話について、料金その他の提供条件に関する事前規制を撤廃し、公正な競争環境下での自由な競争の促進を通じて料金の低廉化と通信サービスの高度化・多様化を実現する枠組みを構築してきた。しかしながら、現在のモバイル市場は大手3社(NTTドコモ、KDDI及びソフトバンク)が約9割のシェアを占める寡占的状況であり、市場競争が機能していないと指摘されている。
そのため、総務省では従来からモバイル市場の公正競争の促進に取り組んできた。これまでの主な取組は以下のとおりである。
スマートフォンのいわゆる「実質0円」販売に代表される、高額な端末代金の割引等は、通信料金の高止まりの原因となるとの指摘があるとともに、利用者間の公平性の観点や競争事業者の新規参入・成長を阻害する点からも問題があることから、行き過ぎた端末購入補助の是正を図るため、平成28年3月に「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を策定した。その後、ガイドラインの改定を行いながら、ガイドラインの趣旨に沿わない端末購入補助を行っていた事業者に対して指導等を行い、端末購入補助の適正化に取り組んできた。
いわゆる「2年縛り」に代表される期間拘束契約について、総務省の有識者会合においても重ねて議論を行い、会合における直接の指摘や会合の取りまとめを踏まえた総務省による指導を経て、無料で解約できる期間の延長等の改善を進めてきた。
利用者が端末を買い換えずに通信事業者を乗り換えることができるよう、平成26年12月に携帯電話事業者に対してSIMロック解除に応じることを義務づける「SIMロック解除に関するガイドライン」を策定した。その後、SIMロック解除に応じるまでの期間の短縮化や中古端末のSIMロック解除の義務づけ等のためのガイドラインの改定を行い、SIMロック解除の円滑化に取り組んできた。
MNOから無線ネットワークを借りて通信サービスを提供するMVNOの公正競争環境を確保すべく、MVNOがMNOに支払う接続料の算定方法について随時見直しを行い、接続料の適正化に取り組んできた。
これらの取組を踏まえつつ、モバイル研究会では、モバイル市場における事業者間の公正競争を更に促進し、多様なサービスが低廉な料金で利用できる環境を整備するための方策について検討した。
モバイル研究会では、モバイル市場において、通信料金と端末代金の分離が徹底されておらず、わかりづらい料金プランとなっていることや、期間拘束とその自動更新により利用者のスイッチングコストが高くなっているといった課題が指摘され、緊急提言においては、通信料金と端末代金の完全分離や行き過ぎた期間拘束の禁止について、「総務省において、最低限の基本的なルールとして料金その他の提供条件に関する禁止行為を定め、それに違反した場合には業務改善命令を行いうることとすること等について、電気通信事業法の改正を含め、必要な措置を検討し、速やかに実施に移すことが適当」とされた。
本法律は、緊急提言を踏まえ、電気通信事業者に一定の禁止行為を課すものである。
2. 2. 法改正の概要改正後の法第27条の3は、総務大臣が指定する「移動電気通信役務」を提供する総務大臣が指定する電気通信事業者に対して、端末の購入等を条件とする通信料金の割引等を約すること等及び契約の解除を不当に妨げる提供条件を約すること等を禁止することとしている。なお、これらの禁止規定は法第73条の2において販売代理店について準用している。
2. 2. 1. 指定役務及び指定事業者について改正後の法第27条の3第1項は、同条第2項に規定する禁止行為(以下「本禁止行為」という。)が適用される電気通信役務及び電気通信事業者を規定している。具体的には、まず「移動電気通信役務」を指定し、これを提供する電気通信事業者のうち本禁止行為の対象となるものを指定することとしている。
移動電気通信役務については、「第二十六条第一項第一号に掲げる電気通信役務又は同項第三号に掲げる電気通信役務(その一端が移動端末設備と接続される伝送路設備を用いて提供されるものに限る。)であつて、電気通信役務の提供の状況その他の事情を勘案して電気通信事業者間の適正な競争関係を確保する必要があるもの」とされ、まず法第26条第1項第1号又は第3号に掲げる電気通信役務(移動系のものに限る。)が外延とされている4。これは、規制の対象を必要最小限とする観点から、本禁止行為の対象となる電気通信役務を、①一般性のあるものであって、②公正競争を促進する必要があるものに限定することとしているところ、①に関しては、その内容や料金その他の提供条件、利用者の範囲といった事情を勘案して既に第26条第1項第1号及び第3号において一般性のある役務を指定していることから、同号を引用することとしたものである。
これに加えて、②を勘案するため、本項において、「電気通信事業者間の適正な競争関係を確保する必要があるもの」を要件としているものである。
本禁止行為は、こうして指定された移動電気通信役務を提供する電気通信事業者のうち、その提供する移動電気通信役務の利用者数のシェアが「電気通信事業者間の適正な競争関係に及ぼす影響が少ないものとして総務省令で定める割合を超えない」事業者以外の事業者に適用される。これは、本条が公正競争の促進のために導入される規定であり、規制の対象を必要最小限とする観点から、市場シェアが小さく、適正な競争関係に及ぼす影響が少ない事業者を対象から除外することとしたものである。具体的なシェアの閾値は総務省令で規定されることとなる5が、少なくとも、自ら周波数の割当を受けて移動電気通信役務を提供している事業者(MNO)については、その行為が適正な競争関係に及ぼす影響が少ないとは言いがたいことから、対象事業者から除外されることは想定されない。対象事業者となる電気通信事業者は、改正後の法第27条の3第1項の規定に基づき総務大臣による指定を受けることとなる。
2. 2. 2. 通信料金と端末代金の完全分離について指定電気通信事業者(改正後の法第27条の3第1項の規定に基づく総務大臣の指摘を受けた電気通信事業者をいう。以下同じ。)は、端末の購入等を条件とする通信料金の割引等を約すること等及び契約の解除を不当に妨げる提供条件を約すること等が禁止される。禁止行為の1点目は、通信料金と端末代金の完全分離を求めるものである。改正後の法第27条の3第2項第1号において、指定電気通信事業者は、スマートフォン等の移動電気通信役務の利用に必要な端末の販売等(販売、賃貸その他これらに類する行為をいう。)に際し、利用者(電気通信役務の提供を受けようとする者を含む。)に対し、移動電気通信役務の料金を端末の販売等をしない場合におけるものより有利なものとすることその他電気通信事業者間の適正な競争関係を阻害するおそれがある利益の提供として総務省令で定めるものを約し、又は第三者に約させることが禁止される。
(1)禁止する理由移動電気通信役務の利用には端末が必要不可欠であることから、モバイル市場では、通信サービスと端末のセット販売が一般的に行われている。大手携帯電話事業者は、端末の購入・買替え時を新規利用者の獲得又は既存利用者の維持の重要な商機と捉え、端末の購入・買換えを行う利用者に対して大幅な割引やキャッシュバック等を行っており、これにより、利用者間に不公平が生じているほか、購入する端末により通信料金が異なるなど、料金プランがわかりづらく、利用者が正確に理解して事業者・サービスを比較することが困難となっている。これにより、行き過ぎた期間拘束と相まって、競争が働く前提である利用者による適切かつ自由なサービス選択が阻害されていることから、これを是正し、端末の購入・買換えを行わない利用者を含めた全ての利用者を巡る通信サービスの競争を促進するため、一定の利益の提供を禁止するものである。
(2)規定の内容まず、改正後の法第27条の3第2項第1号の規定において、端末を購入した場合に通信料金を有利にすること(例:通信料金の割引)が禁止されている。これまで、大手携帯電話事業者は、端末を購入した利用者に対して、端末代金ではなく毎月の通信料金からの一定額の割引を提供していたが、本法律施行後はそのような割引は禁止されることとなる。
また、通信料金の割引等を禁止したとして、利用者を誘引するために同様の経済的利益を利用者に提供する手法は他にも考えられ、また、実際にもいわゆるキャッシュバック等が店頭で行われていることから、「その他電気通信事業者間の適正な競争関係を阻害するおそれがある利益の提供として総務省令で定めるもの」についても禁止することとしている。具体的な内容は総務省令で規定されることとなるが、通信料金の割引と同等の経済的利益を利用者に提供する手法として、端末代金の割引や現金・商品券の交付、ポイントの付与、他の商品・サービスの割引等が想定される。
このような利益の提供を「約し、又は第三者に約させること」が禁止される。電気通信事業者自身が利益の提供を行わず、届出媒介等業務受託者(4. の届出を行った者をいう。以下同じ。)や媒介等業務を行わない子会社等に利益の提供を行わせる場合があり得ることから、「第三者に約させること」も禁止することとしている。
なお、本号の規定は、端末の販売等を行う主体を電気通信事業者に限定していない。そのため、届出媒介等業務受託者や媒介等業務を行わない子会社、端末メーカ等から端末を購入等することを条件として利益の提供を約し又は約させる行為も禁止の対象となっている。
2. 2. 3. 行き過ぎた利用者の囲い込みの是正について本禁止行為の2点目は、行き過ぎた利用者の囲い込みの是正を求めるものである。改正後の法第27条の3第2項第2号において、指定電気通信事業者は、移動電気通信役務の利用者に対し、契約の解除を行うことを不当に妨げることにより電気通信事業者間の適正な競争関係を阻害するおそれがあるものとして総務省令で定める料金その他の提供条件を約し、又は届出媒介等業務受託者に約させることが禁止される。
(1)禁止する理由その解除を不当に妨げる提供条件を含む契約は、利用者が携帯電話事業者を乗り換える際のスイッチングコストを高くすることで、乗換えを躊躇させる効果を有する。これにより、通信料金と端末代金の分離の不徹底と相まって、競争が働く前提である利用者による適切かつ自由なサービス選択が阻害され、既存事業者間の通信サービス面での競争が縮退し、また、新規事業者による利用者獲得の機会が奪われていると考えられることから、事業者間の通信サービス面での競争を促進するため、契約の解除を行うことを不当に妨げる提供条件を禁止するものである。
(2)規定の内容具体的にどのような提供条件が「契約の解除を行うことを不当に妨げる」ものかは総務省令で規定されることとなるが、拘束期間の長さが一定の基準を超えるものや、途中解約に係る違約金の額が一定の基準を上回るもの、期間拘束の有無による料金差が一定の基準を上回るもの及び自動更新に係る手続が利用者の真正な意思を反映するものとなっていないもの等が想定される。
このような提供条件についても、指定電気通信事業者自らが約するほか、「届出媒介等業務受託者に約させること」も禁止される。この点、第1号と異なり、「料金その他の提供条件」を約する主体としては指定電気通信事業者及び届出媒介等業務受託者しか想定されないことから、本号では「第三者」ではなく「届出媒介等業務受託者」としている。
法は、その目的の一つとして「電気通信役務の…利用者の利益を保護」することを掲げており(第1条)、平成15年の改正時に提供条件の説明義務等の利用者の利益の保護に関する規律を初めて導入して以降、平成27年の改正時には初期契約解除制度や不実告知等の禁止等の規律を導入し、また、平成30年の改正時には電気通信業務の休廃止に関する事前届出制を導入するとともにその周知義務を強化するなど、数次にわたって利用者の利益の保護に関する規律を導入・強化してきた(図2参照)。
とりわけ、平成27年の法改正は、総務省及びPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に電気通信役務に関する苦情・相談が多数寄せられていたことを受け、利用者の利益の保護に関する規律を大幅に強化したものであるが、改正後、NTT東西がFTTHアクセスサービスの卸売を開始する等の市場環境の変化6もあり、苦情・相談の件数は一定程度減少したものの、依然として高止まっている状況にある(図3参照)。
こうした状況を捉え、消費者保護WGにおいては、消費者が安心して電気通信サービスを利用できる環境を確保するため、電気通信サービスの消費者保護のあり方についての検討が行われ、緊急提言においては、「勧誘行為において社名や勧誘目的であることを明示しない等、利用者に誤解を与えるような電気通信事業者及び販売代理店の不適切な勧誘行為を禁止し、違反した場合には業務改善命令を行いうることとする」「加えて、電気通信サービス契約の媒介と一体として行われる販売代理店の業務において、電気通信サービスに関して利用者の利益を阻害するような不適切な実態があれば、業務改善命令を行いうることとする」との提言がなされたところである。
本法律においては、緊急提言を踏まえ、電気通信事業者及び販売代理店に一定の禁止行為を課すこととされたものである。
図2 法における利用者利益の保護に関する制度整備の経緯
図3 苦情・相談件数の推移
※ PIO-NET受付分については、各年度とも翌年度4月30日までに登録された件数。(受付と登録には時間差があるため、件数は今後増減する可能性あり)
本法律において、新法第27条の2に第2号及び第4号を追加し、電気通信事業者について、「電気通信役務の提供に関する契約の締結の勧誘に先立って、その相手方に対し、自己の氏名若しくは名称又は当該契約の締結の勧誘である旨を告げずに勧誘する行為」を禁止するとともに、「利用者の利益の保護のため支障を生ずるおそれがあるものとして総務省令で定める行為」を禁止することとした。これらの禁止規定は法第73条の3において販売代理店について準用している。
3. 2. 1. 電気通信役務の提供に関する契約の締結の勧誘に先立って、その相手方に対し、自己の氏名若しくは名称又は当該契約の締結の勧誘である旨を告げずに勧誘する行為の禁止について (1)禁止する理由前述の通り、平成27年の法の改正後、総務省及びPIO-NETに寄せられる苦情・相談の件数は減少傾向にあるものの、高止まっている状況にある。このうち一定数は、「勧誘の相手方に対して、勧誘主体等について誤解を与える勧誘が行われていること」及び「勧誘の相手方に対して、勧誘目的を明示しない勧誘が行われていること、」に起因することから、対処が必要な状況にある。
これは、例えば、電話勧誘において、勧誘者が電話口で自社名や自社サービスの勧誘であることを告げず、大手通信事業者の名称やサービス名に言及することにより、勧誘の相手方に現在契約中の大手通信事業者からの契約内容に関する連絡であると誤解させるような場合7が該当する。このような誤解の元、実は他社との新規契約であることを利用者が認識しないまま契約締結に至り、「大手通信事業者からの電話だと思い契約したが、別の事業者だったので費用負担なく解約したい。」「契約先のプラン変更だと思ったら、別会社との契約になっていた。」「(変更する必要がないにもかかわらず)光回線の変更が必要であるかのような勧誘により契約してしまった。」といった苦情・相談に繋がっているケースがみられる。こうした課題については、既存の利用者利益の保護の規律で対応できないため、このような勧誘方法を是正するための措置を講ずる必要がある8。
(2)規定の内容電気通信事業者は、法第26条第1項各号に掲げる電気通信役務の提供に関する契約の締結の勧誘に先立って、その相手方に対し、自己の氏名若しくは名称又は当該契約の締結の勧誘である旨を告げずに勧誘する行為が禁止される。
「法第26条第1項各号に掲げる電気通信役務」とは、利用者の利益を保護するために特に必要性が高いもの等として総務大臣が指定するものであり、これまでも法第26条第1項(提供条件の説明義務)、第27条の2(電気通信事業者等の禁止行為)などの利用者の利益の保護に関する規律を適用する電気通信役務の範囲を画してきたものである。具体的には、これらの役務としては、「電気通信事業法第26条第1項各号の電気通信役務を指定する件」(平成28年総務省告示第106号。以下「指定告示」という。)において、MNO9・MVNO10の携帯電話端末サービスや、FTTHアクセスサービス、CATVアクセスサービスなどが指定されている。
本法律の施行後は、電気通信事業者は、法第26条第1項各号に掲げる電気通信役務の提供に関する契約の締結の勧誘を行う際には、その勧誘の冒頭の時点で、相手方に対して、「自己の氏名又は名称」及び「契約の締結の勧誘である旨」の両方を告げる必要がある。仮に勧誘の冒頭より後の段階でこれらの事項を告げたとしても、冒頭に告げていなければ本件禁止行為に違反することとなる。
3. 2. 2. 利用者の利益の保護のため支障を生ずるおそれがあるものとして総務省令で定める行為の禁止について (1)禁止する理由3. 2. 1. に記述したとおり、平成27年の法の改正後に生じた環境変化によって、本法律において、新たな禁止行為を整備することとなった。このように、電気通信事業分野は、電気通信役務の内容、料金等の提供条件等が多様化・複雑化し、その変化も激しいことから、将来において利用者保護の観点から新たな課題として認識される要因が生じ得る。このため、このような新たに課題について、迅速・柔軟に対応できるように制度を準備する必要がある。
(2)規定の内容電気通信事業者は、利用者の利益の保護のため支障を生ずるおそれがあるものとして総務省令で定める行為が禁止される。具体的な禁止の内容については、今後、総務省令において規定されることとなる。
電気通信市場においては、電気通信事業者の提供する電気通信役務について、電気通信事業者が直接的に利用者との契約締結を行う場合以外に、販売代理店がその契約の締結の媒介等を行う場合が多い。こうしたことを捉え、法では、従来から利用者保護規律の整備の際には、電気通信事業者に加え、販売代理店も一部の規律の対象としてきた。
特に、同法の平成27年の改正時においては、販売代理店について、「媒介等業務受託者」の呼称とともに「電気通信事業者から電気通信役務の提供に関する契約の締結の媒介11、取次ぎ12又は代理13(以下「媒介等」という。)の業務の委託を受けた者(その者から委託(2以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者を含む。)」と定義(法第26条第1項)し、電気通信事業者に対し、販売代理店の業務の適正かつ確実な遂行を確保するため、指導等の措置を講ずることを義務づけた。
このように、法においては、販売代理店を利用者利益の保護についての規律の対象とする一方で、販売代理店の業務の適正性の確保について、原則として委託元たる電気通信事業者による指導等の措置(法第27条の3)によることとされている。
しかしながら、競争の進展、技術の進歩等により電気通信役務の内容、提供条件等が多様化・複雑化する中で販売代理店の適正な業務の確保の重要性が増していることや、電気通信事業者から媒介等の業務について委託を受けた販売代理店が当該業務を更に他の販売代理店に再委託するなどし、契約関係の複雑化が進んでいることを踏まえ、緊急提言においては、「販売代理店の存在を事業者経由で間接的に把握するのではなく、行政が直接把握するための必要最小限の制度として、届出制を導入する」こと等について提言がなされたものである。
4. 2. 法改正の概要本法律により法に追加する第72条の2では、電気通信事業者又は媒介等業務受託者(他の販売代理店)から委託を受けて法第26条第1項各号に掲げる電気通信役務の提供に関する契約の締結の媒介等の業務を行おうとする者は総務大臣に届出を行う必要があることを定めている。
前述のとおり、「法第26条第1項各号に掲げる電気通信役務」とは、利用者の利益を保護するために特に必要性が高いもの等として総務大臣が指定するものであり、これまでも提供条件の説明義務などの利用者の利益の保護に関する規律を適用する電気通信役務の範囲を画してきたものである。
届出の対象となる販売代理店の範囲を画するのに「法第26条第1項各号に掲げる電気通信役務」を用いるのは、今般導入する届出制度の主たる目的が、販売代理店の業務の適正化による利用者の利益の確保であることから、利用者の利益の保護に関する規律と同様の範囲とすることとしたためである。
なお、届出を行わずに媒介等の業務を行った場合には、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金を科されることとされている。
4. 2. 1. 届出制度の導入に伴う節の新設本法律により販売代理店の届出制度を導入することに伴い、法に新たな節(第2章第5節(届出媒介等業務受託者))を設け、同節において、販売代理店に関する規律を集約することとしている。具体的には、同節内の第73条の2に届出制度を規定するとともに、第2章第3節(電気通信事業者の業務)にある規律の対象を「電気通信事業者」に限った上で、第73条の3においてこれらの規律のうち販売代理店について準用すべきものを届出媒介等業務受託者(届出を行った販売代理店)について準用することとしている。前述のとおり、2及び3の規律についても、同条において準用することとしている。
加えて、これらの規律に違反した場合の命令については第73条の4に規定している。
本法律は公布の日(令和元年5月17日)から起算して6月以内に政令で定める日から施行されることとされている。
本法律の施行により、その目的とするモバイル市場における競争や利用者の利益の更なる保護が進むことを期待する。
1 電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証に関する特別委員会<http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/denki_hokatsu/index.html>
2 モバイル市場の競争環境に関する研究会<http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/mobile_market_competition/index.html>モバイル研究会の主要論点は、次の5点:「事業者間の競争条件に関する事項」「利用者の理解促進に関する事項」「利用者による事業者選択に関する事項」「利用者料金に関する事項」「その他の検討課題」
3 ICTサービス安心・安全研究会 消費者保護ルールの検証に関するWG <http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ict_anshin/index_04.html>消費者保護WGの検討課題は、次の6点:「消費者保護ルールの検証」「携帯電話の契約時の説明の在り方について」「利用中・契約解除時の説明等の在り方について」「不適切な営業を行う販売代理店等への対策」「広告表示の在り方について」「その他の論点」
4 法第26条第1項各号に掲げる電気通信役務については、3. 2. 1(2)を参照。これにより、衛星移動通信サービス等は対象から除外される。
5 本法を施行するための省令案及び告示案については、令和元年6月21日、情報通信行政・郵政行政審議会(電気通信事業部会)へ諮問されており、意見募集(同月22日~同年7月22日)の結果を踏まえ、同審議会での審議及び答申をいただいた後、制定される。
6 平成27年2月にFTTH市場で最もシェアの高いNTT東西が新たな販売形態としてFTTHアクセスサービスの卸売を開始した結果、当該卸売を受けて同サービスを提供する電気通信事業者及びその媒介等業務受託者が多く市場に参入し、同サービスに関する苦情・相談が増加した。特に、上記要因のうち、「勧誘主体等について誤解を与える勧誘」「勧誘目的を明示しない勧誘」については、同サービスの開始以降多くの苦情・相談が発生する要因となっている。
7 このような場合としては、例えば、電話口で「お使いの○○サービス(大手通信事業者のサービス名)の料金が安くなるご案内です。」といったことを告げることが考えられる。
8 なお、法の既存の利用者保護規律においても、(1)「提供条件の説明」(第26条第1項)及び(2)「事実不告知の禁止」(第27条の2第3号)が規定されており、これによっても勧誘主体等について利用者に伝える必要があることとされているが、その上で今回の禁止行為を追加する理由は次のとおりである。
(1)提供条件の説明は、電気通信事業者等に対して、電気通信役務の提供に関する契約の締結等をしようとするときに、提供条件の概要について説明を求めるものである。この規定は、契約の締結の直前に行うことを求めるものであり、勧誘に先立って行うことを求めるものではないことから、勧誘に先立って勧誘主体等を告げることはこの規定によって確保できるものではないため。
(2)事実不告知の禁止は、電気通信事業者等が契約締結前や契約締結後の時点を問わず契約締結の過程において、電気通信役務に関する事項であって利用者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて、故意に事実を告げないことを禁止するものである。勧誘に先立って氏名等を告げていなくても、契約締結の過程のいずれかの時点において氏名等を告げていれば事実不告知には当たらず、また、故意によらずに氏名等を告げなかった場合にも事実不告知の禁止の規定に違反しない。そのため、勧誘に先立って自己の氏名・名称又は勧誘である旨を告げずに勧誘する行為に対し、事実不告知の禁止により対処することはできないため。
9 自ら電波の割当を受けて携帯電話端末サービス等を提供する事業者
10 自らは電波の割当を受けず、電波を割り当てられた事業者からネットワークを借りて、いわゆる格安スマホやモバイルWi-Fiルーター等向けに独自のサービスを提供する事業者
11 他人(電気通信事業者と利用者)の間に立って、他人を当事者とする法律行為(電気通信役務契約)の成立に尽力する事実行為をいう。
12 自己の名をもって、他人(電気通信事業者)の計算において、法律行為(電気通信役務の提供に関する契約)を引き受ける行為をいう。
13 本人(電気通信事業者)のためにすることを示してする意思表示(電気通信役務の提供に関する契約の申込又は承諾)をいう。代理権の範囲内で直接本人に法律効果を生ずる。