情報通信政策研究
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立案担当者解説
電波法の一部を改正する法律
堀口 裕記山内 匠坂本 光英増子 喬紀
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2020 年 4 巻 1 号 p. 159-173

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Abstract

第201回通常国会において成立した「電波法の一部を改正する法律」は、Society 5.0の基盤となる電波の有効利用を促進するため、周波数の能率的な利用や安心・安全な電波利用環境の構築に必要な所要の措置を講ずるものである。

具体的には、①電波有効利用促進センターの業務の追加、②特定基地局開設料に関する制度の対象となる特定基地局の追加、③技術基準に適合しない無線設備に関する勧告等に関する制度の整備、④衛星基幹放送の受信環境の整備に関する電波利用料の使途の特例に係る期限の延長の措置を講ずる。

①については、電波有効利用促進センターの業務として、他の無線局と周波数を共用する無線局を当該他の無線局に妨害を与えずに運用するために必要な事項について照会に応ずる業務を追加する。電波有効利用促進センターとは、電波の有効かつ適正な利用に寄与することを目的とする一般社団法人又は一般財団法人であって、総務大臣がその申請により指定するものであり、総務大臣から情報提供を受けて、無線局の開設等に際し必要となる事項に関する照会・相談に応ずる業務等を実施している。

②については、特定基地局開設料に関する制度の対象として、移動受信用地上基幹放送をする特定基地局を追加する。特定基地局開設料に関する制度とは、申請者が電波の経済的価値を踏まえて開設計画に記載した特定基地局開設料の額を考慮して開設計画の認定をする制度である。

③については、技術基準に適合しない無線設備(不適合設備)が他の無線局の運用を著しく阻害するような妨害を与えた場合に加え、不適合設備を使用する無線局が開設されたならば、他の無線局の運用を著しく阻害するような妨害を与えるおそれがあると認める場合は、無線設備の製造業者、輸入業者又は販売業者に対して必要な措置を勧告できるようにする。

④については、衛星基幹放送の受信環境の整備に関する電波利用料の使途の特例について、平成32年(令和2年)3月31日までとされている期限を令和4年3月31日まで延長する。

なお、①は令和3年4月1日から、③は公布の日から起算して9月を超えない範囲内において政令で定める日から、②及び④は公布の日から施行することとしている。

1.はじめに

令和2年4月24日に公布された電波法の一部を改正する法律(令和2年法律第23号。以下「本法律」という。)は、「Society 5.0」1の実現に向けて、その基盤となる電波の更なる有効利用を促進するため、周波数の能率的な利用や安心・安全な電波利用環境の構築に必要な所要の措置を講ずるものである。

本稿では、本法律の制定に至る検討の経緯及び論点を紹介した上で、本法律による電波法(昭和25年法律第131号。以下「法」という。)の各改正事項の概要について解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であることを予めお断りしておきたい。

2.経緯及び論点

2.1.電波有効利用成長戦略懇談会 令和元年度フォローアップ会合

「Society 5.0」の実現に向けて飛躍的に拡大する電波利用ニーズに対応するため、総務省では、平成29年11月から「電波有効利用成長戦略懇談会」2(座長:多賀谷一照・千葉大学名誉教授)を開催した。同懇談会においては、公共用周波数の有効利用方策に加えて、今後の人口減少や高齢化等の社会構造の変化に対応するための電波利用の将来像やそれらを実現するための方策を明らかにするとともに、長期的な展望も視野に入れた電波有効利用方策について検討を行い、平成30年8月に報告書が取りまとめられた。

同報告書の内容を踏まえ、平成31年2月12日、電波法の一部を改正する法律案を国会に提出し、国会審議を経て電波法の一部を改正する法律(令和元年法律第6号)が令和元年5月に公布されたほか、公共安全用無線システム「PS-LTE」の導入に向けた取組、周波数の共用の促進に向けた方策及びワイヤレス電力伝送など新たな電波利用のための制度整備も進めてきた。

しかし、電波を巡る環境は刻々と変化し、新たな課題も生まれていることを踏まえ、令和元年9月から「電波有効利用成長戦略懇談会 令和元年度フォローアップ会合」3(座長:多賀谷一照・千葉大学名誉教授)を開催し、同報告書において提言された内容をフォローアップするとともに、新たな課題等に対応するための具体的方策について検討を行った。

同会合においては、事業者等からのヒアリングや追加提言(案)に対する意見募集(令和元年10月31日から11月29日まで)を実施し、12月16日に追加提言が取りまとめられた。

図1.検討の経緯

本追加提言においては、「ダイナミック周波数共用システムの実運用」、「技術基準不適合機器の流通の抑止」、「ワイヤレスIoT人材の育成」及び「新たな電波システムの海外展開への対応」を中心に、更なる電波の有効利用に向けて速やかに取り組むべき具体的方策が示された。

例えば、「ダイナミック周波数共用システムの実運用」については、電波の一層の有効利用を促進する観点から、ダイナミックな周波数共用の取組を進めていくことが非常に重要であるとした上で、ダイナミック周波数共用システムの運用主体は、電波法に基づき公的機関として国の監督を受ける者とするなど、公平中立的な業務運営や秘密保持を確実に実施できる機関とすることが適当であるとされた。

また、「技術基準不適合機器の流通の抑止」については、我が国の技術基準に適合しない無線機器の流通を抑制するための取組を一層強化する必要があるとの観点から、総務省が技術基準不適合機器の流通を把握した場合は、実際に混信等が発生しなくとも、必要に応じて勧告等によりこれらの機器の流通を抑止できるようにすることが適当であるとされた。

2.2.放送用周波数の活用方策に関する検討分科会

地上テレビジョン放送のデジタル化に伴って生じた空き周波数帯のうち、V-High帯域(207.5~222MHz)については、全国で利用することが可能であるものの、現在は具体的な事業には使用されていない。

総務省では、V-High帯域等の具体的な有効利用の方策について検討を行うため、平成30年9月に、「放送を巡る諸課題に関する検討会」4(座長:多賀谷一照・千葉大学名誉教授)の下に、「放送用周波数の活用方策に関する検討分科会」(分科会長:伊東晋・東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 嘱託教授)を設置した。同分科会では、関係者からのヒアリングを行うなど、V-High帯域等の具体的な有効利用の方策について検討を行い、平成31年4月には、同帯域の活用方策として、実用化動向を勘案しつつ、①放送サービスの高度化、②IoT、③通信サービスの高度化、のうちいずれかもしくは複数のシステムに割り当て、通信・放送融合型システムにも対応可能とすることを基本方針として取組を進めることとする取りまとめを行った(「V-High帯域の活用方策に関する取りまとめ」)。

総務省では、分科会の取りまとめを踏まえ、令和元年7月に、実用化に向けた実証等の取組を加速化させるため柔軟かつ容易に実証検証が行えるよう、V-High帯域を特定実験試験局として使用可能な周波数とした。

これらの取組により、V-High 帯域で通信、放送及び自営の各サービス導入に関する実験が実施されるなど、実用化に向けた動きが顕在化しつつあることを踏まえ、分科会では、「V-High帯域の活用方策に関する取りまとめ」を踏まえた周波数の割当方針や関連制度の整備に関し、基本的な考え方及び方向性の整理を行った。

令和2年1月には、V-High帯域について、最終的な周波数の割当方針や関連制度の整備は、令和3年3月末までの特定実験試験局の実験結果を踏まえて行われるべきであるが、同帯域は通信・放送分野のいずれかもしくは複数のシステムの割当てが可能であることを踏まえ、通信・放送を区別することなく、一の事業者が、その知見やノウハウを活用して広範囲に電波を使用するシステムを導入する場合に、周波数の経済的価値を踏まえた割当制度を適用することが可能となるよう、予め関連制度の整備を進めておくことが適当である等とする取りまとめを行った(「放送用周波数の活用方策等に関する基本方針」)。

2.3.法律案の国会提出及び成立・公布

衛星基幹放送の受信環境の整備に関する電波利用料の使途の特例に係る期限の延長について、令和2年度予算案における国民生活に密接に関係する施策であり早期に実施できるようにする必要があるため、また、「電波有効利用成長戦略懇談会 令和元年度フォローアップ会合」の追加提言や「放送用周波数の活用方策等に関する基本方針」について速やかに措置する必要があることから、政府は、電波法の一部を改正する法律案を令和2年2月7日に閣議決定し、第201回通常国会に提出した。その後、国会審議を経て令和2年4月17日に本法律が成立し、4月24日に公布された。

3.電波有効利用促進センターの業務の追加

3.1.制度の概要

国は、従来、電波の利用を促進し、また、免許審査事務の円滑化を図るため、無線局の開設等に関する照会・相談に応じてきたところであるが、昭和50年代後半から急速に電波利用が進む中、無線局の開設に必要な混信調査等に関し郵政大臣が指導・助言等を求められるケースが増加した。さらに、当時、電気通信分野への競争原理の導入が進められていたことから、これを契機として多数の無線局が開設されることが見込まれ、それに伴い郵政大臣の指導・助言等に関する要望も一層増大し、郵政大臣だけではその要望全てに迅速な対応を行うことが難しくなると考えられた。

このため、限られた予算及び定員の下でも電波の有効利用の一層の促進を図ることができるよう、郵政大臣が実施してきた無線局の開設等に伴う混信計算等に関する照会及び相談への対応等を、民間の第三者機関に行わせることとした。ただし、そのためには、郵政大臣が保有する無線局に関する情報を第三者機関に提供することができるようにする仕組みが不可欠であり、また、その適正な運用を確保するために秘密保持義務など公務員と同等の厳格な規律を課す必要があることから、法を改正し(昭和62年法律第55号)、電波有効利用促進センター(以下「センター」という。)の指定制度を創設した5

センターの業務としては、法第102条の17第2項において、

  • ①混信に関する調査その他の無線局の開設、周波数の指定の変更等に際して必要とされる事項についての照会及び相談に応ずること
  • ②電波に関する条約を適切に実施するために行う無線局の周波数の指定の変更に関する事項、電波の能率的な利用に著しく資する設備に関する事項その他の電波の有効かつ適正な利用に寄与する事項についての情報の収集及び提供
  • ③電波の利用に関する調査及び研究
  • ④電波の有効かつ適正な利用についての啓発活動
  • ⑤附帯業務

が規定されている。

法第102条の17第2項に規定する業務のうち、照会相談業務(第1号)については、その実施のためには、総務大臣が保有する無線局に関する情報(一般には非公開の情報)の使用が不可欠であることから、同条第4項において、総務大臣はセンターに対し、無線局に関する情報の提供を行うことができる旨を規定している。他方、当該提供された情報は一般には非公開の機微な情報を含むため、

  • ㋐センターの役職員(元役職員を含む。)に対し、照会相談業務(第1号)に関して知り得た秘密の保持義務を課し(法第102条の17第5項において準用する法第47条の3第1項)、
  • ㋑秘密保持義務に違反した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科すこととしている(法第109条の3)ほか、
  • ㋒センターの役職員については、刑法その他の罰則(収賄罪等)の適用に関し公務員とみなす(法第102条の17第5項において準用する法第47条の3第2項)こととしている。

また、照会相談業務と情報の収集提供業務(第2号)は、国の許認可等に係る事務を補完するものであることから、両業務について、

  • ㋐その業務運営の根本規範である業務規程を国の認可に係らしめ、認可を受けた業務規程が不適当なものとなったときは、国がその変更を命じることができることとする(法第102条の17第5項において準用する法第39条の5)とともに、
  • ㋑センターが認可を受けた業務規程によらずに業務を行った場合には、国がセンターとしての指定を取り消し、又は、業務の停止を命ずることができる(法第102条の17第5項において準用する法第39条の11第2項第4号)こととしている。

このほか、次の監督規律等が規定されている。 

  • ・指定を行うことができない者(欠格事由)の規定(法第102条の17第5項において準用する法第39条の2第5項)
  • ・指定された者の公示等に関する規定(法第102条の17第5項において準用する法第39条の3)
  • ・毎事業年度の事業計画等の作成、提出義務(法第102条の17第5項において準用する法第39条の6)
  • ・監督命令(法第102条の17第5項において準用する法第39条の8)
  • ・報告徴収及び立入検査(法第102条の17第5項において準用する法第39条の9)
  • ・指定の取消し及び業務停止命令等(法第102条の17第5項において準用する法第39条の11)
  • ・業務停止命令に違反をした役職員への罰則(法第110条の3)
  • ・報告徴収時に虚偽報告等をした役職員への罰則(法第113条の2第2号)

3.2.背景及び課題

新たな移動通信システム等の導入に当たっては、従来、法第26条の周波数割当計画において周波数の使用の期限を定める等の周波数再編等を行い、導入に必要な周波数を確保してきたが、電波利用の進展等に伴い、周波数再編等による専用の周波数の確保が困難な状況となってきていることから、近年は複数の無線局に同一の周波数の電波を共同利用(共用)させる例が増加している。その際、一部の周波数帯域においては、同一の地域で同一の周波数の電波を発射することを希望する複数の無線局免許(包括免許、登録及び包括登録の場合も含む。以下同じ。)の申請に対し、免許付与後に運用する日及び時間帯並びに区域について調整することを前提として、周波数割当可能性があると判断して免許を付与している。

今般、更なる周波数共用を推進するため、より柔軟かつ動的(ダイナミック)な周波数共用を可能とするシステム(以下「ダイナミック周波数共用システム」という。)の研究開発が進められており、令和2年度中に運用が可能となる見込みである。

このダイナミック周波数共用システムを用いて、既存の無線システムが割り当てられている周波数帯へ第5世代移動通信システム(5G)を導入し、地理的に密な周波数共用や時間的に柔軟な周波数共用を行うことを想定している。

(出典)総務省資料

図2.ダイナミックな周波数共用のイメージ

ダイナミック周波数共用システムにおいて想定される運用フローのイメージは以下のとおりである。

  • (1)他の無線局と同一の周波数を共用する無線局の免許人が、一定期間において、当該他の無線局に妨害を与えずに運用するために必要な事項(日時、場所等)についてセンターへ照会。
  • (2)当該他の無線局の免許人は、期限までに運用計画をセンターへ提出。
  • (3)センターが、総務省無線局情報システムから、運用計画を有する各免許人の最新の無線局情報を入手。
  • (4)センターが、ダイナミック周波数共用システムを用いて、各免許人から入手した運用計画について、総務省無線局情報システムから入手した無線局情報を用いて無線局間の干渉計算を行いつつ、総務省が策定した共用ルール(アルゴリズム)に従って調整し、照会を行った免許人が使用できる日時、場所、条件を算出。
  • (5)センターが、照会を行った免許人に対し、希望する日時、場所等についての運用の可否並びに運用する際の条件に関する情報を回答。

このようにダイナミック周波数共用システムを用いて免許人からの周波数共用に関する照会に応ずる業務は、公権力の行使を伴う国の事務ではないものの、その目的は電波の有効利用の促進であり、また、共用可否の判定に用いる無線局の干渉計算には総務大臣が保有する無線局に関する情報の利用が必要であることから、本来は国がその主体となるべきである。しかし、そのための組織・定員を新たに要求することが困難であることに鑑みると、無線局開設時等における照会相談業務と同様に、一定の規律を課した上で、民間の第三者機関に行わせることが適当である。

(出典)総務省資料

図3.ダイナミック周波数共用システムを用いた新たな運用調整の仕組み

周波数共用に関する照会に応ずる業務は、本来は総務大臣が保有する情報を利用した免許等事務とも密接に関連する極めて公共性の高い業務であるという点で、現在センターにおいて行われている照会相談業務(第1号)と類似する性格を有する。また、共用を最適化するためには、周波数共用に関する照会に応ずる業務を行う第三者機関と総務省が連携しつつ随時共用可否の判定ルールを改善していく必要があるが、その際、照会相談業務の知見を活用することで効果的な改善を行うことが可能となる。さらに、その採算性・効率性に鑑みても、専門の機関を新たに設置するのではなく、センターの照会相談業務に係る能力・体制を活用することが適切である。これらの理由から、周波数共用に関する照会に応ずる業務については、センターに行わせることが適当である。

なお、センターに当該業務を行わせるに当たり、センターが既存の照会相談業務又は情報の収集提供業務の一部として新たに行うこととすることも考えられるが、①照会相談業務は、無線局の開設、周波数の指定の変更等に際して必要とされる事項について、必要な指導・助言を行うことを想定したものであるため、無線局の開設後の運用時に必要となる事項であって、かつ許認可の取得又は変更に直接関わらない事項についての照会に応ずる業務とは、その対象が異なる。また、②情報の収集提供業務は、国際間で周波数分配が変更された場合における周波数の指定の変更に関して想定される技術的条件、無線システム等の情報の収集及び提供、電波有効利用に資する設備の積極的な導入を図るための情報の収集及び提供等を想定したものであり、これらの情報は、周波数共用に関する照会に応ずる業務において扱われる情報とは、用いられる目的が異なる。

これらに加え、周波数共用に関する照会に応ずる業務の提供の必要性に鑑み、センターがこれを実施することを確保するとともに、業務範囲を明確にするためにも、新たな業務として規定することが適当であることから、新たに号を規定して周波数共用に関する照会に応ずる業務を追加する必要がある。

3.3.改正の概要

本法律においては、センターが行う照会相談業務の範囲について明確化する(本法律による改正後の法(以下「新法」という。)第102条の17第2項第1号)とともに、他の無線局と同一の周波数の電波を使用する無線局を当該他の無線局に混信その他の妨害を与えないように運用するに際して必要とされる事項について、照会に応ずることをセンターの業務に追加する(新法第102条の17第2項第2号)。

また、総務大臣が、センターに対し、周波数共用に関する照会に応ずる業務の実施に必要な無線局に関する情報の提供又は指導及び助言を行うことができるようにする(新法第102条の17第4項)。

4.特定基地局開設料に関する制度の対象となる特定基地局の追加

4.1.制度の概要

携帯電話等の基地局や移動受信用地上基幹放送をする基地局については、これらの無線通信や放送の受信を確保するため、同一の者により相当数開設されることが必要となる。このため、法では、このような基地局(「特定基地局」)について、総務大臣が開設指針を定め(法第27条の12 第1項)、特定基地局を開設しようとする者が開設計画を作成し総務大臣の認定(法第27 条の13 第1項)を受けた場合は、一定期間(原則5年間以内)、特定基地局の免許を排他的に申請できることとしている(法第27 条の17)。

開設計画の認定を受けた者は、このような排他的な申請をできるようになるため、特定基地局に係る周波数の電波については、より能率的な利用を確保することが必要となることから、総務大臣は、開設計画の認定に際し、開設計画が開設指針に照らし適切なものであり、かつ、確実に実施される見込みがあること等を審査し、最も適切であるものを認定すること(法第27条の13第4項から第6項)により、電波の能率的な利用を確保することとしている。

さらに、令和元年の電波法の一部を改正する法律(令和元年法律第6号)により、特定基地局開設料(周波数の経済的価値に応じて納付する金銭として申請者が申し出る額)に関する制度が導入された。同制度では、特定基地局開設料を開設指針で定める事項の一つとするとともに、開設計画の認定に際してその多寡を審査することとしている。

この特定基地局開設料に関する制度の対象は、携帯電話等の電気通信業務を行うことを目的とする特定基地局に限られ、移動受信用地上基幹放送をする特定基地局は対象外とされていた。

これは、特定基地局開設料に関する制度の創設当時6、Society 5.0の基盤となる次世代の無線通信インフラ(5G)として、その迅速かつ円滑な整備を予定していた電気通信業務を行うことを目的とする特定基地局と異なり、移動受信用地上基幹放送をする特定基地局については、具体的なニーズが明らかでなかったことから、当該制度の対象外としたものである。

4.2.背景及び課題

Society 5.0の実現のためには、多様かつ大量の情報(ビッグデータや高品質な映像データ等)の活用(AI等の先端技術を用いた分析・加工等)により創出された高い付加価値を活用して社会の諸課題を解決することが重要であり、その流通の基盤となる電波を使用する高度情報通信ネットワークの整備が必要不可欠となる。

移動受信用地上基幹放送は、①情報伝達手段としての有効性(視聴者単位での受信。災害時の避難先を含め、あらゆる場所で受信可能といった受信機会の増加等)、②通信(携帯電話)サービスとの連携による高度で多様なサービスの実現、③不特定多数の利用者への一斉同報性、④災害に対する抗堪性(輻輳を生じない等)といった、固定受信による放送や通信とは異なる優れた社会的機能を有するものであり、携帯電話等の無線通信と同様に、事業者がその知見やノウハウを活用して広範囲に電波を使用するシステムを導入して当該放送を行うものである。

移動受信用地上基幹放送をする特定基地局に係る開設計画の認定を受けた者は、特定基地局の開設に当たり排他的な申請ができるようになるため、当該特定基地局に係る周波数の電波については、より能率的な利用を確保することが必要となり、また、移動受信用地上基幹放送については上記の特徴を生かした多様な利用方策が考えられ、収益をあげる観点から、事業者はその知見やノウハウを活用してネットワーク構築を行うため、電波の有効利用を図ることが期待される。

このように、移動受信用地上基幹放送は、特定基地局開設料に関する制度の対象とすることで電波の更なる有効利用を図ることができることから、今般、V-High帯域の電波を移動受信用地上基幹放送に割り当てる可能性が認められたことを踏まえ、これについても、電波の更なる有効利用を図る観点から、電気通信業務を行うことを目的とする特定基地局と同様に、特定基地局開設料に関する制度の対象とし、従来の審査項目とともに、特定基地局開設料の多寡を審査した上で開設計画を認定する仕組みを導入することとした。

4.3.改正の概要

  • (1)移動受信用地上基幹放送をする特定基地局に係る開設指針の記載事項への特定基地局開設料に関する事項の追加【新法第27条の12第2項】

移動受信用地上基幹放送をする特定基地局に係る開設計画の認定に際し、特定基地局開設料の多寡を審査するため、「特定基地局開設料に関する事項」を、移動受信用地上基幹放送をする特定基地局に係る開設指針の記載事項に追加する。

  • (2)移動受信用地上基幹放送をする特定基地局に係る開設計画の記載事項への特定基地局開設料の額の追加【新法第27条の13第2項】

(1)に対応し、移動受信用地上基幹放送をする特定基地局に係る開設計画の記載事項に「特定基地局開設料の額」を追加する。

(出典)総務省資料

図4.特定基地局開設料に関する制度の対象となる特定基地局の追加のイメージ

5.技術基準に適合しない無線設備に関する勧告等に関する制度の整備

5.1.改正前の制度の概要

法は、無線局の開設・運用に関する規律を一義的には無線局の開設者に対して課しているが、無線通信の秩序の維持に資するため、無線設備の製造業者、輸入業者又は販売業者(以下「製造業者等」という。)に対しても、法第三章に定める技術基準に適合しない無線設備を製造し、輸入し、又は販売することのないように努力する義務を課している(法第102条の11第1項)。

また、法第三章に定める技術基準に適合しない設計に基づき製造され、又は改造された無線設備の使用により他の無線局に妨害が生じ、かつ、当該設計と同一の設計又は当該設計と類似の設計であって当該技術基準に適合しないものに基づき製造又は改造された無線設備(改正前の法第102条の11第2項の「基準不適合設備」)が広く販売されることにより、他の無線局の運用に重大な悪影響を与えるおそれがあると認めるときは、総務大臣は、当該基準不適合設備の製造業者等に対して、その事態を除去するために必要な措置を講ずべきことを勧告することができ(同項)、これらの者が当該勧告に従わないときはその旨を公表することができる(同条第3項)こととされている。

さらに、公表されてもなお、これらの者が正当な理由なく勧告に従わない場合であって、かつ、妨害を受けた無線局が「重要無線通信」7を行う無線局であるときは、総務大臣は、これらの者に対し、当該勧告に係る措置を講ずべきことを命令することができる(改正前の法第102条の11第4項)こととされている。

5.2.背景及び課題

近年、我が国においてインターネットショッピングが浸透する中、法第102条の11第1項の努力義務に違反して、我が国の技術基準に適合しないと見られる無線設備をインターネットショッピングサイトに掲載する販売業者が多数見られ8、これらのサイトなどで購入された技術基準不適合機器が使用されることにより、他の無線局に対して妨害を与えるおそれが高まっている。

このような状況を踏まえ、技術基準に適合しない無線機器の更なる流通抑止のため、技術基準に適合しない無線設備に関する勧告等に関する制度について、次の改正を行うことが必要である。

(1)勧告の発動要件

総務省では、近年、試買テスト9や利用者からの情報提供等により得られた情報の分析を通じて違法に使用され得る無線設備の流通状況を把握する取組を進めており、その結果、当該無線設備による混信等の妨害が発生する前に、対応が可能な状況となってきている。

しかし、改正前の法では、総務大臣が電波監視等によって妨害を把握することを前提として、当該妨害の発生を勧告発動の一要件としている。このため、総務大臣が法第三章に規定する技術基準に適合しない無線設備の存在を把握し、当該基準不適合設備による重大な混信等が発生する可能性を認識した場合であっても、実際に「第三章に定める技術基準に適合しない設計に基づき製造され、又は改造された無線設備」(法第102条の11第2項)を使用する無線局が他の無線局の運用を著しく阻害するような混信その他の妨害を与えない限り、総務大臣は製造業者等に対し勧告することができないという状況となっている。

総務大臣が基準不適合設備を特定した場合、その販売業者に当該基準不適合設備の販売を中止するよう要請することはできるが、それに応じない販売業者が存在することを踏まえると、一定の強制力をもってこの状態を是正することが必要である。

(2)命令の発動要件

平成31年1月に、日本ではWi-Fi用として使用できない5.8GHz帯の電波を発射するWi-Fi機器が広く販売されていたことが発覚した。我が国においてETCシステムは5.8GHz帯域を使用していることから、このような無線設備がETCに係る無線通信に妨害を与えた場合、遮断機の動作不良等による追突事故を誘発し、人命又は財産への危害といった社会的に重大な悪影響が生じるおそれがある。このため、当該悪影響の発生を防ぐ措置が確実に講じられるようにすることが必要である。

しかし、改正前の法においては、命令の発動要件は、重要無線通信を行う無線局が現実に妨害を受けたことである。ETCシステム等を介した無線通信は、定義上「重要無線通信」に該当しないことから、法第三章に規定する技術基準に適合しない当該システムが広く販売され、人命又は財産への危害といった社会的に重大な悪影響が生じるおそれがあると認める場合であっても、勧告に係る措置を確実に実施させるための命令を行うことができない状況となっていた。

技術の進歩に伴い、今後、重要無線通信でなくとも、妨害を与えられることにより社会的に重大な悪影響が生じるため当該悪影響の発生を確実に防ぐ必要のある無線通信が多数実用化されることが見込まれることから、こうした無線通信を行う無線局への妨害についても勧告に係る措置を講ずべきことを命じられるよう、命令の発動要件を緩和することが必要である。

5.3.改正の概要

他の無線局の運用を著しく阻害するような混信その他の妨害が実際に発生していなくとも、無線設備が法第三章に定める技術基準に適合しない設計に基づき製造又は改造されたものであると認められる場合において、当該無線設備を使用する無線局が開設されたならば、当該妨害を与えるおそれがあるときは、総務大臣が、その製造業者等に対して勧告できるようにする。

また、法第102条の11第2項の勧告を受けた者が、勧告に従わなかった旨を公表されてもなお正当な理由なく当該勧告に従わなかった場合には、重要無線通信を行う無線局に対して妨害があったときだけでなく、運用に重大な悪影響を与えられるおそれがある無線局がその適正な運用の確保が必要な無線局として総務省令で定めるものであるときにも、総務大臣が、当該勧告を受けた者に対し、当該勧告に係る措置を講ずるよう命令できるようにする。

(出典)総務省資料

図5.技術基準に適合しない無線設備に関する勧告等に関する制度の整備のイメージ

6.衛星基幹放送の受信環境の整備に関する電波利用料の使途の特例に係る期限の延長

6.1.制度の概要

平成30年12月より衛星基幹放送による超高精細度テレビジョン放送(以下「新4K8K衛星放送」という。)が開始され、対応テレビや対応アンテナ等が市販されている。新4K8K 衛星放送を視聴するには、当該放送に対応したテレビを設置するとともに、これまでBSアンテナで受信していた視聴者は4K・8K対応アンテナに交換する必要がある。

放送衛星では12GHz帯という高い周波数を利用して放送を行っているが、テレビの配線に使用している同軸ケーブルは高い周波数を通しにくい性質があるため、アンテナ部分において低い周波数(中間周波数)に変換して宅内を伝送している。この際、衛星放送用受信設備が法第三章に定める技術基準に適合していない場合、この中間周波数の電波が漏洩して他の無線局へ混信を引き起こすことがある。従来のアンテナで使用する中間周波数は1.0~2.2GHzであったが、4K・8K対応アンテナでは使用する中間周波数が1.0~3.2GHz に拡大されるため、拡大した帯域において新たに漏洩を起こす可能性がある。

このため、既存の衛星放送用受信設備のうち宅内の配線等の設備について、法第三章に定める技術基準への不適合状態による他の無線局への混信を未然に防止し、無線局の正常な運用環境の確保を図ることが無線局全体の共通の利益になるものであることから、電波利用料により、それらの技術基準に適合していない既存の設備(以下「既存不適合設備」という。)の技術基準への適合を図るための改修に係る負担を軽減するための補助を行うことを目的として、電波法及び電気通信事業法の一部を改正する法律(平成29年法律第27号)により衛星放送受信環境整備支援事業が平成32年3月31日までの時限的措置として創設された。

6.2.背景及び課題

本施策による受信環境整備支援は、4K(対応)テレビの導入に伴い実施されることから、4K(対応)テレビの普及と相関があると言える。

本施策の対象となる受信設備は、平成29年5月11日時点で設置されている受信設備のうち基準値を超え電波の漏洩のおそれが高い機器を有するものであり、当初の予測どおり、4K(対応)テレビが普及していれば、平成31年度末までに約12万世帯に措置することが見込まれていたが、実際の措置件数は当初予定の半分程度に留まっている。

しかし、新4K8K衛星放送の視聴に伴う既存不適合設備による他の無線局への混信を未然に防止するためには、本施策による措置を当初想定していた規模で実施する必要があることから、補助期間を従来の想定期間の2倍とする(すなわち2年間延長する)必要がある。

6.3.改正の概要

電波利用料を衛星放送受信環境整備支援事業のための財源に充てることは、平成32年3月31日までの時限的措置とされているが、その期限を令和4年3月31日まで2年間延長する。

(出典)総務省資料

図6.衛星放送受信環境整備支援事業のイメージ

7.おわりに

本法律は、公布の日(令和2年4月24日)から起算して9月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしているが、電波有効利用促進センターの業務の追加に関する改正規定は令和3年4月1日から、特定基地局開設料に関する制度の対象となる特定基地局の追加及び衛星基幹放送の受信環境の整備に関する電波利用料の使途の特例に係る期限の延長に関する改正規定は公布の日から施行することとしている。

なお、本法律の施行後3年以内に、本法律による改正後の規定の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとされている。

本法律により、「Society 5.0」の実現に向けて、あらゆる社会経済活動の基盤である電波の一層の有効利用が実現することを期待する。

Footnotes

1 Society 5.0とは、「①サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させることにより、②地域、年齢、性別、言語等による格差なく、多様なニーズ、潜在的なニーズにきめ細かに対応したモノやサービスを提供することで経済的発展と社会的課題の解決を両立し、③人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる、人間中心の社会」と定義されており、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く新たな経済社会と位置付けられている(平成28年5月閣議決定「科学技術イノベーション総合戦略2016」)。

2 電波有効利用成長戦略懇談会

<https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/dempayukoriyo/index.html>

3 電波有効利用成長戦略懇談会 令和元年度フォローアップ会合

<https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/dempayukoriyo_follow_up/index.html>

4 放送を巡る諸課題に関する検討会

<https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/housou_kadai/index.html>

5 財団法人電波システム開発センター(現一般社団法人電波産業会)がセンターとして指定された。

6 電波法の一部を改正する法律(令和元年法律第6号)は、令和元年5月10日に成立。

7 「重要無線通信」とは、890MHz以上の周波数の電波による特定の固定地点間の無線通信で、次の各号の一に該当するものをいう(法第102条の2第1項)。

一 電気通信業務の用に供する無線局の無線設備による無線通信

二 放送の業務の用に供する無線局の無線設備による無線通信

三 人命若しくは財産の保護又は治安の維持の用に供する無線設備による無線通信

四 気象業務の用に供する無線設備による無線通信

五 電気事業に係る電気の供給の業務の用に供する無線設備による無線通信

六 鉄道事業に係る列車の運行の業務の用に供する無線設備による無線通信

8 例えば、大手インターネットショッピングサイト等において、5.8GHz帯の電波を発射する海外製のWi-Fi機器が販売されている。我が国においては、ETCシステムが5.8GHz帯を使用していることから、当該Wi-Fi機器の使用により、ETCシステムに妨害が与えられた場合は遮断機が適切に作動せず、追突事故が発生するおそれがある。

9 総務省は、一般消費者が基準不適合設備を購入・使用して法違反(無線局の不法開設)となってしまうことや、他の無線局に妨害を与えてしまうことを未然に防止する目的で、無線設備を購入して発射する電波の測定を行う試買テストを実施し、基準不適合設備等を含む「著しく微弱」(法第4条第1号)の基準を超える無線設備を公表している。

 
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