第201回通常国会において成立した聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律は、聴覚障害者等1による電話の利用の円滑化を図るため、①国等の責務及び総務大臣による基本方針の策定について定めるとともに、②聴覚障害者等の電話による意思疎通を手話等により仲介する電話リレーサービスの提供の業務を行う者の指定に関する制度及び当該指定を受けた者の当該業務に要する費用に充てるための交付金に関する制度を創設する等の措置を講ずるものである。
①については、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に当たっては、国等の関係主体が政策的意義を共有し、相互に連携した上で、電話リレ-サービスの提供を含む措置を総合的に講ずる必要があることから、国、地方公共団体、電話提供事業者及び国民について、それぞれの役割に応じた責務を課すとともに、電話リレーサービスの適正かつ確実な提供に加え、音声認識やAI等の技術開発の推進等も含め、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に資する施策全般についての方針を定める観点から、聴覚障害者等による電話の利用を円滑化するための施策に関する基本方針の策定について規定するものである。
②については、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るためには、電話リレーサービスの適正かつ確実な提供を実現することが重要であることから、電話リレーサービスの提供の業務を適正かつ確実に実施できる者を、その申請により、電話リレーサービス提供機関として指定することができることとし、業務規律及び監督規律に関する規定を整備するとともに、電話リレーサービスの提供の業務に要する費用に充てるための交付金を、電話リレーサービス提供機関に対し交付することとし、当該交付金に係る負担金について、電話提供事業者に納付を義務付ける等の措置を規定するものである。
令和2年6月12日に公布された聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律(令和2年法律第53号。以下「本法律」という。)は、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るため、国等の責務及び総務大臣による基本方針の策定について定めるとともに、聴覚障害者等の電話による意思疎通を手話等により仲介する電話リレーサービスの提供の業務を行う者の指定に関する制度及び当該指定を受けた者の当該業務に要する費用に充てるための交付金に関する制度を創設する等の措置を講ずるものである(図1参照)。
本稿では、本法律の制定に至る検討の経緯及び論点を紹介した上で、法の概要について解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であることをあらかじめお断りしておきたい。
(出典)総務省HP 第201回国会(常会)提出法案
https://www.soumu.go.jp/main_content/000671956.pdf
図1.聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律の概要
電話は、国民の日常生活及び社会生活において、遠隔地にいながらのリアルタイムな意思疎通を可能とする基幹的な手段であり、特に、緊急通報を利用することのできる手段として国民の生命・財産を直接的に保護する等、重要な役割を担っている。
一方、電話は専ら音声による通信サービスであることから、聴覚障害者等は、電話を利用するために発話等を代替する介助を要し、単独で利用することが困難である。その代替手段として、メール、チャット、SNSなどを利用することは可能であるが、予約等を電話でのみ受け付けているサービスや、予約はメールやホームページ経由で受け付けているが予約の変更やキャンセルは電話でのみで受け付けているサービスが存在すること、また、至急の連絡や確認が必要な場面も存在することから、聴覚障害者等はそうしたサービス利用などに際して、店舗等への実際の往訪や家族等に代わりに電話をかけてもらうなどの代替手段を強いられる状況にある。このように、聴覚障害者等は電話を利用した日常生活のコミュニケーションや行政手続、職場における業務上のやりとり等に困難を伴うといった課題が存在しており、自立した日常生活及び社会生活の確保に支障が生じている状況にある。
また同様に、聴覚障害者等は、緊急時に電話により必要な救助の要請等が出来ない可能性があり、聴覚障害者等による電話の利用の困難性は生命に関わる課題でもある。
こうした課題を踏まえ、聴覚障害者等の日常生活及び社会生活における障壁を除去する観点からも、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を実現することが急務である。
聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るためには、手話通訳者が通訳オペレータとなって手話又は文字と音声を通訳することにより、聴覚障害者等とその他の者の意思疎通を仲介する「電話リレーサービス」が有効である。電話リレーサービスは、聴覚障害者等と通訳オペレータの間の通信(例:手話のリアルタイムな映像伝送)及び通訳オペレータと相手方の通信(電話)の両方が成り立って初めて実現するサービスであり、手話の映像伝達等を行う上で、聴覚障害者等がブロードバンドサービスを低廉かつ安定的に利用できる環境が整備されていることが前提となるところ、近年の技術進展により、聴覚障害者等がスマートフォンやタブレット等の汎用的な端末を用いて、ブロードバンドサービスを通じて手話のリアルタイムな映像伝送等を低廉かつ安定的に行うことができるようになり、電話リレーサービスを利用する上での技術的制約が解消されたことから、電話リレーサービスを主たる手段として、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を実現することが可能な環境が整いつつある。
この環境変化を受け、我が国においては、現在、一部の企業や地方公共団体等が、利用用途を限って聴覚障害者等による電話の利用を支援するサービスを提供している例があるものの、広く聴覚障害者等を対象として電話リレーサービスに相当するサービスを提供する事業は、(公財)日本財団が平成25年度より実施するモデルプロジェクトのみである。当該モデルプロジェクトは、利用者数を拡大しつつあるものの、提供されるサービスの内容等に制約がある(例:常時(24時間/365日)のサービス提供や緊急通報受理機関への接続等を実現できていない)ほか、令和2年度中にサービスの終了が予定されており、このまま対策を講じなければ電話リレーサービスの提供主体が存在しなくなることが想定される。
こうした状況や、国会における議論を踏まえ、公共インフラとしての電話リレーサービスの適正かつ確実な提供を実現するため、総務省は平成31年1月、デジタル活用共生社会実現会議(厚生労働省と共催)のICTアクセシビリティ確保部会の下に、「電話リレーサービスに係るワーキンググループ」を設置し、専門的な検討を行った。
同ワーキンググループでの検討の結果、令和元年12月に公表された報告書において、「公共インフラとしての電話リレーサービスの実現に必要となる制度整備については、国は、電話リレーサービスの実現に向け、必要となる制度整備について、検討を進めるべきである。」と提言された。
本法律は同提言を踏まえ、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関して必要な措置を定めるものである。
図2.総則に関する規定
図3.指定法人に関する規定
本法律は、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を目的とするものであり、その主たる手段として「電話リレーサービス」に関する制度の創設等の各種措置を講じている。
このため、本法律における基本的概念として、本法律の対象である「聴覚障害者等」について定義するほか、「電話リレーサービス」、その提供等の業務を担う「電話リレーサービス提供機関」及び「電話リレーサービス支援機関」、これらの機関の業務である「電話リレーサービス提供業務」及び「電話リレーサービス支援業務」について定義している。
「聴覚障害者等」については、身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)を参考として、「聴覚、言語機能又は音声機能の障害のため、音声言語により意思疎通を図ることに支障がある者」と定義している。ここで「等」を入れているのは、聴覚障害者のみならず、言語機能又は音声機能の障害のため、音声言語により意思疎通を図ることに支障がある者も含める趣旨である。
「電話リレーサービス」については、上記のとおり、手話通訳者が通訳オペレータとなって手話又は文字と音声を通訳することにより、聴覚障害者等とその他の者(耳の聴こえる人、緊急通報受理機関等)の意思疎通を仲介する仕組みであり、その内容を定義している(図4参照)。
図4.電話リレーサービスの概要図
聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に当たっては、国等の関係主体が政策的意義を共有し、相互に連携した上で、電話リレ-サービスの提供を含む措置を総合的に講ずる必要があることから、関係主体の責務について規定している。
3.2.1.国の責務障害者基本法(昭和45年法律第84号)第22条において、国は、「電気通信及び放送の役務の利用に関する障害者の利便の増進(中略)が図られるよう必要な施策を講じなければならない。」とされている 。
当該規定及び障害者基本法制定以降の社会環境の変化や技術進展を踏まえ、今般、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を達成するための施策や電話リレーサービスに関する基本的な事項等を基本方針として国が定めることとしているが(「3.4.基本方針」参照)、基本方針やこれに基づく施策に必要な措置を講じることを国の責務として規定している。
なお、基本方針やこれに基づく施策の内容は、社会環境等の変化に対応して適切に検討が加えられることが必要であるため、この旨も規定している。
併せて、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化の実効性を高めるため、施策の意義や内容について、国民が十分に理解するよう普及啓発を行うことが必要であることから、これについても国の責務として規定している。
3.2.2.地方公共団体の責務地方公共団体は、障害者基本法第22条において、国と同様に「電気通信及び放送の役務の利用に関する障害者の利便の増進(中略)が図られるよう必要な施策を講じなければならない。」とされている。
このため、国の施策に準じて、地方公共団体も聴覚障害者等による電話の利用の円滑化のために、必要な措置を講ずる責務を負うことを規定している。
3.2.3.電話提供事業者の責務障害者基本法第22条第3項においては、国や地方公共団体と並び、電気通信事業者に対しても、障害者の利用の便宜を図るよう努めなければならない旨を規定している。これを受けて、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化について本法律を定めるに当たり、電話の役務の直接の担い手である電話提供事業者においても積極的な取組を行うことが期待されるところであり、例えば、携帯電話事業者である株式会社NTTドコモは、翻訳ソフトを用いて音声と文字を自動的に変換するサービス「みえる電話」を提供する等の取組を講じてきたところである。
しかしながら、従来の取組は一部の事業者による自主的取組にとどまっているほか、文字による意思疎通支援を基本としており、
等の理由により、手話による意思疎通を希望する聴覚障害者等のニーズに十分応えるものとはなっていない。
このため、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化の観点から、技術の進展等に対応し、その活用による取組が期待される電話提供事業者に対して、必要な措置を講ずることを努力義務として課している。
3.2.4.国民の責務本法律において、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化の具体的手段として、電話リレーサービスを制度化することとしているが、その適正かつ確実な提供を確保するためには、聴覚障害者等だけでなく、電話の利用者である国民が、制度の趣旨や必要性について理解し、協力することが不可欠である。
特に、(公財)日本財団が実施するモデルプロジェクトにおいても電話リレーサービスに対する理解不足等により、通訳オペレータの取次ぎに対する受信拒否等の事例が多く発生している等、認知の向上が課題となっているところであり、こうした課題を解決していくことも求められている。
こうした状況を踏まえ、国民の責務として、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化の重要性について理解を深めること及び必要な協力をすることに努める旨を規定している。
3.3.基本方針聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るためには、多様な関係主体が相互に連携・協力することが不可欠である。そのため、関係主体の責務を規定した上で、それらの関係主体が、電話の利用の円滑化の意義や本法律で定める制度の趣旨を共有し、連携する必要があることから、総務大臣が策定する基本方針により、これを明確化することとした。
具体的には、まず、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化の意義を明確化し、次に、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を達成するための施策に関する基本的な事項を定める。その上で、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化の主たる手段である電話リレーサービスについて、提供業務の実施方法及び電話リレーサービスの利用に係る料金に関する事項その他電話リレーサービス提供業務に関する基本的な事項を定め、最後にその他重要事項を定めることとしている。
また、総務大臣は、基本方針を定めようとするときは、あらかじめ、聴覚障害者等その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、厚生労働大臣に協議しなければならないこととしている。
3.4.指定法人聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るためには、電話リレーサービスの適正かつ確実な提供を実現することが重要となる。
特に、聴覚障害者等が耳の聴こえる人と同等の料金水準で電話を利用できるようにするためには、通訳オペレータの人件費をはじめとするコストを賄う観点から、電話リレーサービスを提供する者における安定的な財政的基盤の確保が課題となることから、電話リレーサービスを適正かつ確実に行うことができる者に対し、電話リレーサービス提供業務に要する費用に充てるための交付金を交付する制度を創設する等の措置を講ずることが必要である。
このため、総務大臣は、電話リレーサービス提供業務を適正かつ確実に実施することができる一般社団法人又は一般財団法人を、その申請により、「電話リレーサービス提供機関」として全国を通じて一個に限り指定することができることとするとともに、所要の業務規律(電話リレーサービス提供業務規程の認可等)・監督規律(監督命令等)を設けることとした。
また、電話リレーサービス提供業務に要する費用に充てるための交付金を電話リレーサービス提供機関に交付することとし、当該交付金に係る負担金については、電話リレーサービスの実現により電話の利便性が高まることで電話提供事業者が受益することに鑑み、事業の規模が総務省令で定める基準を超える電話提供事業者(特定電話提供事業者)に納付を義務付けることとした。その際、総務大臣は、特定電話提供事業者から負担金を徴収し電話リレーサービス提供機関に交付金を交付する業務を適正かつ確実に実施できる一般社団法人又は一般財団法人を、その申請により、「電話リレーサービス支援機関」として全国を通じて一個に限り指定することができることとするとともに、所要の業務規律(電話リレ-サービス支援業務規程の認可等)・監督規律(監督命令等)を設けることとした。
以上の流れをまとめると、指定法人(電話リレーサービス提供機関(以下「提供機関」という。)、電話リレーサービス支援機関(以下「支援機関」という。))の関係は以下のとおりである。
図5.電話リレーサービスにおける指定法人等の関係
指定法人の総務大臣による指定について、指定要件及び理由は以下のとおりである。
特定電話提供事業者から拠出された負担金を原資とした交付金の交付を受けて電話リレーサービス提供業務を行う提供機関や、提供機関に対して交付金を交付し、特定電話提供事業者から負担金を徴収する支援機関は、その公益的性格に照らし、営利を目的としない者であることが適切であるため。
提供機関は電話リレーサービス提供業務を交付金の交付を受けて行う等の公益的役割を担っており、支援機関は交付金の交付及び負担金の徴収等の業務を滞りなく遂行する公益的役割を担っていることから、いずれも、財政的基盤や実施体制、経験等を総合的に勘案し、業務を適正かつ確実に行える者であることが必要であるため。
公益法人制度改革の趣旨や他の制度例を踏まえ、指定要件として、民間法人が任意の申請を行うことが望ましいため。
電話リレーサービス提供業務及び電話リレーサービス支援業務を効率的に実施する観点から、それぞれ全国で一者に限定して指定することが適切であるため。
提供機関が特定電話提供事業者による負担金を原資とした交付金の交付を受けて電話リレーサービス提供業務を行うに当たり、また、支援機関が特定電話提供事業者からの負担金の徴収等の業務を行うに当たり、当該業務が適正かつ公平なものでなければ、負担金を納付する特定電話提供事業者の理解及び協力が得られず、制度自体の円滑な運用が妨げられることとなる。加えて、支援機関による交付金の交付の業務を行うに当たり、業務運営が不適正であることにより、交付に遅延や誤りがある場合、提供機関の安定的な業務運営に支障が生じることとなる。
このため、電話リレーサービス提供業務や電話リレーサービス支援業務の適正性や公平性を担保するため、提供機関と支援機関に対し、業務規程の策定を義務付けるとともに、総務大臣の認可及び公表に係らしめることとした。
3.4.3.事業計画等提供機関が提供する電話リレーサービスのサービス水準については、基本方針において定めた上で、電話リレーサービス提供業務規程が基本方針に適合していること等を認可要件とすることにより、その適正性を担保することとしているところであるが、これに加えて、毎事業年度、事業計画書等の認可及び公表を通じて経年的にサービスの進展状況を含めた適正性を確認することとした。
加えて、提供機関は電話リレーサービスの提供の附帯業務として電話リレーサービスの技術や品質の向上に資する調査、研究等を行うことを想定しているが、その適正な内容、規模を一律に示すことは困難であるため、これについても事業計画書及び収支予算書の認可及び公表を通じて、適正性を確認することとした。
一方の支援機関についても、交付金の交付や負担金の徴収の業務については、交付金・負担金の額や交付・徴収方法が認可事項となっており、その適正性を確保することが可能であるが、周知広報等の附帯業務を含めた支援機関の事業全般については、電話リレーサービスの利用動向等を踏まえつつ、その具体的な実施内容等について、その適正性を確認する必要があるため、提供機関と同様、支援機関における毎事業年度の事業計画書及び収支予算書についても、総務大臣の認可や公表に係らしめることとした。
なお、業務全般について個別具体的に適正と考えられる内容を法令に記載することは、制度の運用を硬直化させ、時代に応じた柔軟な電話リレーサービスの実現を困難とするおそれがあるため、総務大臣による事業計画等の認可により、業務の適正性を柔軟かつ適切に担保するものである。
併せて、業務内容の適正性を事後的にも検証可能とし、必要に応じて後年度の計画の改善に供する観点から、毎事業年度終了後に事業報告書及び収支決算書を総務大臣に提出させるとともに公表させることとした。
3.4.4.その他の業務規律提供機関、支援機関の業務の適正性を担保するため、業務規程、事業計画等の認可以外に以下の業務規律を課している。
電話リレーサービスの提供は、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に大きな役割を果たすため、仮に提供機関や支援機関が業務を休止等し、電話リレーサービスの提供が滞った場合、聴覚障害者等の電話の利用に重大な支障が生じることが想定される。このため、提供機関、支援機関の業務の休廃止について、総務大臣の許可を要件としている。
提供機関や支援機関が、電話リレーサービス提供業務、支援業務以外の業務を行う場合には、その業務の費用が負担金として特定電話提供事業者から徴収されてしまう等のおそれがあるため、その業務に係る経理と電話リレーサービス提供業務、支援業務に係る経理とを区分して整理すべき旨を規定している。
提供機関、支援機関の公正性を確保し、業務の適正性を確保する観点から、電話リレーサービス提供業務、支援業務に従事する役員の選任は慎重を期す必要があるため、その選任に総務大臣の認可を要件としている。
また、一度選任された役員が電話リレーサービス提供業務の利害関係者からの圧力等により不当に解任されることがないようにするため、その解任についても総務大臣の認可に係らしめている。
さらに、これらの者が役員として不適当になった場合を想定して、総務大臣による解任命令について規定している。
提供機関、支援機関は電話リレーサービスの利用者の個人情報や電話提供事業者の収益に関する情報等を扱うことが想定される。これらの情報はプライバシー保護や経営等の観点から秘密とすべき情報であり、当該秘密を漏らした場合、提供機関、支援機関の信頼が大きく損なわれ、本制度の安定的な運用に支障を来すおそれがある。このため、提供機関、支援機関の役員及び職員等に対して秘密保持義務を課している。
電話リレーサービス提供業務、支援業務の実施状況を的確に記録することによって、業務の適正性を事後的にも検証可能とし、業務の適正な実施を確保するため、提供機関、支援機関に対し、帳簿の備付け等を義務付けるものである。
提供機関、支援機関の業務の適正性を担保するため、以下の監督規律を課している。
電話リレーサービスに係る制度の適正な運営を確保する観点から、総務大臣は、提供機関、支援機関の行う業務の内容の適正性等を的確に把握する必要があるため、提供機関、支援機関に対する報告徴収及び立入検査について規定している。
提供機関、支援機関による非違行為が行われた場合において、直ちに指定の取消し等の行政処分を行うのではなく、改善命令又は適合命令を発することにより、可能な限り提供機関、支援機関の存立及び業務の継続を図ることが適当な場合があるため、提供機関、支援機関に対して包括的な監督命令権が付与している。
提供機関、支援機関が指定要件や監督規律等に対する重大な違反を生じた場合、指定を存続し、又は業務を継続させることは、電話リレーサービスに係る制度の適正な運営に支障を生じさせる可能性があるため、そのような場合における総務大臣による指定の取消し又は業務の停止命令について規定している。
提供機関が電話リレーサービス提供業務を行うに当たり、電話リレーサービスの利用料金は、耳の聴こえる人の電話料金と同等の水準とすることを想定しているため、提供機関は、通訳オペレータの人件費をはじめとするコストを十分に回収できず、その収支は赤字となることが想定される。
このような前提に立ち、電話リレーサービスの適切かつ確実な提供を確保するため、提供機関の財政的基盤を安定的なものとする観点から、支援機関は提供機関の業務に要する費用に充てるため、交付金の額や交付方法について認可を受けた上で、交付金の交付を行うこととした。
なお、交付金の額については、提供機関の電話リレーサービス提供業務に要する費用の予想額及び電話リレーサービス提供業務により生ずる収益の予想額等に基づいて算定を行った上で、電話リレーサービス支援業務諮問委員会の議を経て、総務大臣に交付金の額及び交付方法を申請し、認可を受けることとした。
3.6.負担金 3.6.1.負担金の負担対象事業者提供機関が、本法律に基づく交付金の交付を受けて電話リレーサービスを提供することは、聴覚障害者等による電話の円滑な利用を可能とし、これまで以上に聴覚障害者等と耳の聴こえる人との間の通話を容易なものとすることにより、電話の役務の利便性を高めることとなるため、電話提供事業者は、新規の電話利用者の獲得や既存の電話利用者の通話量の増加等による利益を受けることになる。このため、受益者負担の考え方に立って、電話リレーサービスの提供業務に要する費用に充てられる交付金の原資となる負担金については、電話提供事業者に負担させることとするものである。なお、受益者負担の考え方に立って、受益者である事業者に負担金の納付を義務付けている例として、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)やタクシー業務適正化特別措置法(昭和45年法律第75号)等がある。
また、負担金の納付を義務付ける電話提供事業者は、電話提供事業者のうち総務省令で定める一定の事業規模を上回っている者(特定電話提供事業者)としている。これは、新規参入直後の電話提供事業者等、事業規模の小さい電話提供事業者から負担金を徴収することは、当該事業者の収益を悪化させ、電話提供事業からの撤退を招くおそれがあるため競争促進の観点から好ましくないことに加え、徴収コストに比較して負担金の額も小さいため事務の効率が悪いと考えられるためである。
3.6.2.負担金の額の算定負担金の額の算定に当たっては、電話リレーサービス支援業務に要する費用を適切に賄う金額を全体として確保しつつ、特定電話提供事業者ごとの負担割合について、各事業者の受益の程度に応じた公平性と透明性が確保できるよう、明確な基準を定めておく必要があることから、総務省令において、特定電話提供事業者の事業実態等を踏まえて規定することとした。
この点について、電気通信事業法の適格電気通信事業者に係る交付金制度においては、負担金の額の算定方法について、総務省令により電話番号当たりの負担金単価とすることを定めた上で、当該単価に当該電気通信事業者ごとの電気通信番号の数をそれぞれ乗じて得た額を合計することを基本としている。本法律においても、支援機関が特定電話提供事業者から負担金を徴収することについて、総務省令において負担金の額を算定する方法を規定するに当たり、負担の公平性・透明性や円滑な実務運営の確保等の観点から、同様の整理を行うことを想定している。
3.6.3.その他の負担金に関連する規定その他、負担金の確実な徴収を制度的に担保するため、督促、延滞金に関して規定するとともに、最終的な担保手段として、負担金を納付しない特定電話提供事業者の公表について規定している。
また、支援機関が負担金の額を算定するに当たり、負担事業者である特定電話提供事業者の範囲を決定するためには、各電話提供事業者の事業規模を的確に把握する必要がある。このため、支援機関が電話提供事業者の収益に関する資料等の提出を電話提供事業者に求めることができることを定めるとともに、電話提供事業者が当該資料を提出する義務を負うことを規定している。
さらに、支援機関は、特定電話提供事業者から、当該特定電話提供事業者が有する電話番号の数に応じて負担金の徴収を行うことを想定している(「3.6.2.負担金の額の算定」参照)が、各特定電話提供事業者の有する電話番号は総務大臣が指定しており、その数についても総務省が一元的に把握していることから、総務大臣は、支援機関の求めに応じて、電話提供事業者ごとの電話番号の数等の情報について、支援機関に対して資料の交付等を行うことができる旨を規定している。
3.6.4.電話リレーサービス支援業務諮問委員会電話リレーサービス提供業務に要する費用については、特定電話提供事業者等の負担を軽減する観点から、可能な限り効率化が図られるべきである一方、支援機関が電話リレーサービス支援業務を適正かつ確実に実施する上で十分な費用が適切に交付されることが重要である。
このため、交付金の額及び交付方法、負担金の額及び徴収方法等について総務大臣による認可に係らしめているところであるが、当該認可の申請に先立って、これらの内容を、専門的知識を有する者が客観的・中立的な立場から事前に審議することで、より適正性を担保できると考えられる。
このため、支援機関に電話リレーサービス支援業務諮問委員会を置き、同委員会は、支援機関の代表者の諮問に応じ、交付金の額を調査審議し、意見を支援機関の代表者に述べることができることとした。また、同委員会の構成員については、電話提供事業者及び聴覚障害者等の福祉に関して高い識見を有する者その他の学識経験者であって総務大臣の認可を受けて支援機関の代表者が任命した者とすることとした。
3.7.雑則本法律は、関係主体の責務や基本方針に関する事項、提供機関及び支援機関に対する各種の業務規律・監督規律を規定しており、これらの制度運用を円滑に図るための全般的な措置については、個別の規律に関する章に重複して規定するのではなく、雑則としてまとめて規定することが通例であるため、本法律においても雑則として以下を規定している。
聴覚障害者等による電話の利用の円滑化のための施策のうち、聴覚障害者等の福祉の増進に関する事項についての総務大臣及び厚生労働大臣の連絡及び協力に係る義務を規定している。
この法律の規定による書類の記載事項又は提出の手続等を総務省令で規定することを規定している。
本法律は、提供機関及び支援機関に対して各種の業務規律・監督規律等を規定している。これらの実効性を担保するため、罰則に係らしめることによってその法令上の義務違反を抑止するとともに、その義務違反が現実に行われた場合及び監督命令に違反した場合には、予定された刑罰等を科すこととしている。
罰則の対象、量刑の水準については、他の法律に倣って規定している。
本法律は公布の日(令和2年6月12日)から起算して9月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしている。
本法律が、聴覚障害者等の自立した日常生活及び社会生活の確保に寄与し、もって公共の福祉の増進に資することを期待する。
図6.公共インフラとしての電話リレーサービスの実現に向けたスケジュール
1 「等」としているのは聴覚の障害だけでなく、言語機能又は音声機能の障害により、音声言語により意思疎通を図ることに支障がある者も含める趣旨である。