2020 年 4 巻 1 号 p. 81-101
AI・IoTなどの新たなICTによるデジタルデータの生成・収集・分析の進展と活用拡大により、新たなエコノミーが形成されつつある。一方、デジタル化の進展に伴い、サイバーセキュリティの重要性も高まる中で、我が国においてセキュリティ人材の人的規模などに関する各種報告がなされているが、これらの報告の中でセキュリティ人材の育成に関わる研修に必要な費用・期間をどの程度に推計すれば良いかが明らかにされていない。このことが、企業や地方公共団体がセキュリティ人材の確保に積極的に取り組むことを躊躇する一因になっている面もあると思われる。
本論文では、セキュリティ人材の育成に関わる研修費用・期間の算定を試みる。算定にあたっては、単に研修コースの費用・期間の積算だけでなく、研修に参加する要員が本来の職務に従事していないために発生する社内費用や研修のインターバル、継続的な維持費用も考慮するとともに、企業規模に応じた研修費用・期間の算定を試みる。
具体的には、「研修要領に応じた研修費用・期間算定モデル」により社内費用や研修のインターバルを考慮した研修費用・期間などを試算するとともに、「企業規模に応じた人材構成モデル」により企業規模に応じたモデルを設定して、企業規模ごとの人材育成に関わる研修費用・期間の試算を行った。また、試算結果と経済産業省「平成29年情報処理実態調査」の企業規模ごとのIT分野の人材育成に関する社外教育・研修費用との比較を行った。
本論文により、これまでの各種報告書では提示されていなかったセキュリティ人材の育成に関わる研修費用・期間の算出の考え方と手法の一案を提示できた。我が国の人口動態予測等から産業人口の減少が予測されている中、セキュリティ人材の育成に関わる研修費用・期間を推計することはデータエコノミーの時代の今後の施策を考える上で重要であり、セキュリティ分野の施策推進による企業や地方公共団体等におけるセキュリティ分野の人材確保・スキルアップに寄与できるであろう。