情報通信政策研究
Online ISSN : 2432-9177
Print ISSN : 2433-6254
ISSN-L : 2432-9177
調査研究ノート(査読付)
COVID-19パンデミック前後における遠隔医療の普及と課題
-政策の観点から
木下 翔太郎
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 5 巻 1 号 p. 49-67

詳細
抄録

ICT技術の発展に伴い、テレビ電話などを用いて遠隔地の患者を診察するDoctor to Patientの遠隔医療が登場した。当初は僻地や離島などの限られた状況において使われ始めたが、ICT機器の普及に伴い、地域を問わず使用されるようになっていった。しかし、遠隔医療に関しては法規制の強弱などがその普及に影響を大きく及ぼす。我が国では規制や診療報酬上の評価が普及の障害となっており、情報通信政策や規制改革の文脈で推進の動きも見られていたが、大きな改善にはつながっていなかった。諸外国では我が国よりも積極的な活用もみられてはいたが、2019年末時点までは、世界的に見ても、遠隔医療が医療全体の中で占める役割は決して大きいとは言えない状況であった。

2020年から本格化したCOVID-19パンデミックは、世界中で猛威を振るい、社会の様相を大きく変えた。医療現場においても、COVID-19患者対応や感染対策による外来の縮小や停止、治験の中断などの様々な影響が現れた。そうした中で、医療の継続、感染対策の観点から遠隔医療に注目が集まり、世界中で利用が拡大した。それまで法規制が普及の障害となっていた国々においても、臨時的・特例的な規制緩和が行われ、遠隔医療活用の道がひらけた。比較的遠隔医療の規制が厳しく普及が進んでいなかった我が国でも、対象疾患の拡大、初診の実施可能、診療報酬の改善などの規制緩和が行われ、利用が増加した。

今後、遠隔医療の普及が持続していくかどうかはCOVID-19パンデミック期における規制緩和や促進策が一時的なもので終わらないかどうかという点が焦点となる。また、我が国のように規制緩和を経ても診療報酬などの点で制約が多い国においては、これらの改善がなされない限り今以上の普及は難しいと考えられる。遠隔医療特有のメリットを活かし、患者の様々なニーズに応えられるような新しい医療の形を目指すためにも、適切な普及のための政策が求められる。

本稿では、諸外国の動向も踏まえつつ、我が国における遠隔医療の普及やCOVID-19パンデミック前後の変化について診療報酬などの政策動向を中心に整理し、今後に向けた課題の整理を行う。

著者関連情報
© 2021 総務省情報通信政策研究所
前の記事 次の記事
feedback
Top