プラットフォーマーから刑事訴追機関への情報提供は、令状による場合でなくとも、プラットフォームごとの判断において実行される場合がある。この状況は日本に限られるものではない。しかし2019年の報道によって明らかになったように、日本においては、どのような場合にそのような情報提供が行われるのか、法律上明確な線引きがないことが問題となっている。
そこで本稿は、プラットフォーマーから刑事訴追機関への情報提供に、いかなる性質の法的根拠が必要となるのかという問題について、日独比較の観点から検討する。検討にあたっては、ドイツの情報自己決定権に関する判例の蓄積やドイツ連邦カルテル庁によるFacebookへのデータ収集制限命令などのプラットフォームを取り巻く法的状況を前提に、主たる題材として2017年に制定され2021年に改正されたドイツのSNS対策法(NetzDG)を扱う。特に重視する点は、NetzDG 5条2項に定められた刑事訴追機関の情報提供要請に対応する「窓口」としての受信担当者設置義務に関する法的課題についてである。この課題に対する立法過程等における議論の分析を通じて、本拠地が米国に集中するプラットフォーマーへの訴訟手続の実行性確保の困難さを念頭におきながら、利用者及び第三者の情報自己決定権・表現の自由、人格権等の保障に関わる問題を解決する手段の発見を試みる。注目されるのは、プラットフォーマーの「自由意志による協力」の理解である。特に立法過程においてプラットフォーマーの自由意志を尊重するとしつつも、最終的には受信担当者の設置が義務付けられ、違反に対しては高額の過料を科すとする基準が設けられていることについて、法運用の実態も踏まえて詳細に検討する。
これらの検討を踏まえて、実際に提供される情報の元々の保有者たる利用者個人の「同意」との直接的接合をはかることが困難なプラットフォーマーによる刑事訴追機関への情報提供によって生ずる法的課題を解決する一助を、本稿は提示する。具体的には、情報の提供要請を行う刑事訴追機関及び実際に保有している情報を提供する事業者の両者の行為に法的な根拠を要求する考え方から、プラットフォーマーの「協力」を正当化する法的枠組みのありかたについて検討する。
In Japan, there aren’t legal standards for the voluntary provision of user’s information from companies managing online Platforms to law enforcement authorities.
The article examines what legal requirements must have when they put the provision of information into action by comparing the legal situation in Japan with this in Germany.
In Germany, Network Enforcement Act (NetzDG) has put into operation in 2017. The Act has required to enable the receipt of requests by law enforcement authorities in Germany (Art 5(2)). The article has researched and analyzed the discussion during legislation for Art.5, and shows two issues about the voluntary provision of the information from companies to law enforcement authorities.
First, the research reveals that there is a noteworthy issue how should be understood what “companies’ cooperating with the authorities based on their own free will”. Because, though the discussion during legislation for NetzDG had emphasized “companies’ free will”, while the actual Act has had the provision to impose an expensive penalty when someone violates the duty on Art.5.
Second, in the phase of law enforcement or criminal procedure, it’s often difficult to acquire the consent of the person. Could the companies managing online Platforms provide their information to law enforcement authorities without the consent of users? This is an important issue, because users have fundamental rights, for example, freedom of speech, the right to self-determination about information, and the right to personality.
The article shows how it deals with those legal issues. An author insists on a specific solution which to justify companies’ cooperation with law enforcement authorities. The legal framework based on this solution would require regulations for the behavior of both companies and authorities.
インターネットプラットフォームを利用する利用者個人には、それぞれ自らの個人情報に関するプライバシーが存在する。範囲の広狭や性質に議論はあるものの、プライバシーが憲法上保障された権利であるとする理解は、判例2・学説3ともに共有されている。
インターネットプラットフォームを利用する場合、利用開始時点で利用者個人からプラットフォーマーに対して、一定の個人情報の開示を行うことが求められる。もちろんこの時点での開示は、利用者個人の同意に基づいている。しかし、その情報がプラットフォーマーから外部に対してもたらされる場合、利用者である私たちはそのことについて同意しているのだろうか。個別の同意は必要条件ではなく、同意に代わる何らかの法的措置がとられていればよいのだろうか。特に、情報提供先が刑事訴追官庁である場合には、いかなる法的枠組みを採用することが適当なのだろうか。
本稿はそのような問題意識のもとで、プラットフォーマーから刑事訴追官庁への利用者に関する情報の提供について、その法的課題を検討することを目的としている。検討の手法として、主にドイツのSNS対策法(Gesetz zur Verbesserung der Rechtsdurchsetzung in sozialen Netzwerken (Netzwerkdurchsetzungsgesetz – 以下、NetzDGとする4))に関する議論に注目する。なお本稿では、プラットフォーマーの定義について「情報通信技術やデータを活用して、第三者に「場」としてのデジタルプラットフォームを提供する主体」とする実務的な広義の理解を前提とする5。
日本においてプラットフォーマーが保有する非公開情報が刑事訴追機関によって取得される場合、従来市民が保有する物を捜索・押収する場合と同様の手続きによって行われてきた。そのために、「プラットフォームから刑事訴追機関が情報を取得する」ことについて、特別の定義や性質の特定を行う必要性は高くないと認識されてきたといえる。
その認識が適当なものでなかったことが明らかになった契機は、2019年の捜査関係事項照会に関する一連の報道である6。これによりビッグデータを用いた情報管理を行う複数の企業が、令状なき検察・警察からの捜査関係事項照会に対応して利用者の個人情報提供を実施していることが明らかとなった。これに対して、日本の個人間SNSとしては最も高いシェアを誇っているLINE株式会社7が、会話情報や個人情報を捜査関係事項照会に基づき提供する可能性があることを発表8して非難を浴び、一転して捜査関係事項照会に応じる範囲を限定するという事態が発生したのである9。
この問題に関して本稿の視点から重要な点が、二つある。①「刑事訴追機関による」捜査関係事項照会が可能となる範囲が法律上明らかでないこと、②捜査関係事項照会に「利用者の」情報を「事業者が」提供することができる法的根拠が明らかでないことである。①について、捜査関係事項照会の法的根拠は刑事訴訟法197条2項であるとされているが、各社で対応範囲が異なることからも看取できるとおり、その応答すべき範囲は不明瞭である。②については、捜査関係事項照会の場合、プロバイダ責任法に基づく発信者情報開示の場合のように対象が限定されていないことから、特にその根拠が問題となる。
本稿では、①②の視点から見た日本法への示唆をもたらすものとして、ドイツにおける具体的な立法(NetzDG)の例を取り上げる。
議論の前提として、ドイツの連邦憲法裁判所決定におけるプラットフォーマーの位置づけを確認する。検索事業者の位置づけについて言及した事例としてここで取り上げるのは、2019年11月16日の忘れられる権利Ⅱ決定(以下Ⅱ決定)である10。なお同日には、忘れられる権利Ⅰ決定(以下Ⅰ決定)11が下されているが、まずグーグルの検索結果について争ったⅡ決定を中心に取り上げる12。
本決定は事案の性質上、プラットフォーマーの機能のうち、検索サービスに限定した評価を行うものである。検索結果は、原則としてインターネット上に公開されている情報を対象とする点で、本稿の研究対象たるプラットフォーマーが保有する非公開の情報(SNS上の非公開のやりとりや、公開情報の投稿者についての非公開の個人情報など)を対象とする場合とは区別される。しかしここではドイツのプラットフォーマーを取り巻く基本的な法律関係や状況を把握し、プラットフォーマーから刑事訴追機関への情報提供という特殊な場合に限定されるNetzDG立法の趣旨を理解する一助とする目的で、本決定に触れることとしたい。
Ⅱ決定が前提としているのは、欧州基本権憲章16条を根拠とした「検索事業者の営業の自由(unternehmerische Freiheit der Suchmaschinenbetreiber)」である(国内法ではなくEU法が根拠とされているのは、Ⅱ決定が、事案の性質上EU一般データ保護規則によって規律されているためであるが(Ⅰ決定とⅡ決定はこの点で決定的差異がある)、この点については先行研究で既に詳しく検討されているため13、ここでは詳述しない)。ここでは、あくまでも検索事業者の性質に限定して取り上げる。
連邦憲法裁判所は「被告である検索事業者のサイト上では、欧州基本権憲章16条に基づく営業の自由の検索事業者の権利を停止しうる(a)。それに対して事業者は、検索結果(Suchnachweise)の流布について欧州基本権憲章11条に拠り所を求めることはできない(b)。しかし、このような法的争訟によって直接影響を受ける可能性のある第三者の基本権は、この場合、内容提供者(Inhalteanbieter)の表現の自由を停止しうる(c)。更には利用者の情報の利益も考慮されなければならない(d)。」として検索事業者の性質と利用者・第三者の基本権との関係に言及する14。このうち特に(a)(b)について、以下のとおり述べる。
まず(a)について、「営業の自由は、製品とサービスの提供を通じた経済的利益の追求を保障する。欧州基本権憲章16条を通じて与えられる保護は、経済的な、あるいはビジネス上の活動を営む自由、契約の自由、自由競争を包摂する。これには、検索サービスの提供も含む」とする15(ここでは欧州司法裁判所のグーグル・スペインに対する先決決定(2014年5月13日)の欄外番号81及び97が引用されている16)。また欧州基本権憲章16条が、自然人のみならず法人も当該権利の享有主体として想定していること、その保護がEU域外に所在する法人を被告とする場合にも矛盾するものではないことを明らかにする17。
一方(b)では、欧州基本権憲章11条について、すなわち検索事業者の表現の自由の保障について、以下のとおり否定的な立場をとる。「被告たる検索事業者は、その活動について、欧州基本権憲章11条の表現の自由を拠り所とすることはできない。確かに、検索事業者から提供される検索サービスとこのための検索結果の選別に使用される手段は、内容中立的ではなく、利用者の意見構築に対して相当な影響を及ぼし得る。しかしながら、検索サービスは特定の意見の流布を目的としておらず、検索事業者もこれを参照していない。検索事業者の申立てによると、検索サービスは、特定の意見から独立した利用者の潜在的な利益を可能な限り広範に満たし、それにより企業の経済的利益の上で自社のサービスをできる限り魅力的に形成することを単に目的としている。したがって欧州司法裁判所も、検索事業者の巨大メディア特権の使命を否定している」18。この末尾でも、引用されているのは上述のグーグル・スペイン事件の先決決定(欄外番号85)である。
2.2.ドイツの情報自己決定権における「同意」以上、Ⅱ決定における検索事業者の性質についてのみ述べたが、原告の被侵害利益を「忘れられる権利」という独立の基本権でも情報自己決定権でもなく、一般的人格権であるとしたⅠ決定の判示19もまた、重要であると付言しておかねばならない。これは、インターネット上の情報に対する情報自己決定権の問題が一般的人格権の問題に収斂するというような判例変更がなされたということでは勿論ない。Ⅰ決定の場合は公益性あるニュースの実名報道が問題となっていたが、そのような場合と利用者が自らの情報を提供するかどうかを判断する場面は、当然ながら区別される20。後者では、利用者個人による「同意」の性質や射程が問題となり、情報自己決定権の制約が争われることとなると示したことが、Ⅰ決定の重要な意義の一つである。
ここからは個人情報の取扱いに関する「同意」についてのドイツの議論を確認していく。
ドイツでは1983年12月15日の国勢調査判決21以降、基本法1条1項と結びついた2条1項により保障される情報自己決定権(Grundrecht auf informationelle Selbstbestimmung)が、情報に関する主体的な権利の軸となる人格権から導かれる憲法上の権利の一環として把握されてきた。情報自己決定権からは、目的拘束性の原則、比例原則といった現在のドイツの個人情報についての考え方の基礎が導出されている22。そしてこの考え方は、国勢調査判決を受けた連邦データ保護法等の情報法制の改正案提出を受けた231990年12月20日の連邦データ保護法改正により一旦結実し24、その後更なる発展を遂げて、EUのデータ保護法制にも影響を与えた(ただしGDPRは情報自己決定権について直接言及するものではない)。
情報自己決定権の中核にある自己決定は、情報取扱いのプロセスにおいては「同意」として顕現するところ、これは一般データ保護規則においてEU全体の共通規範となった25。GDPR(Regulation (EU) 2016/679)においては、まず6条1項a号に定めが置かれている。「少なくとも以下の各号に該当する限り、処理は適法であるとされる。(a)データ主体が、1つ又は複数の目的のために自らの個人データの処理について同意を与えた場合」。更に7条においてその条件が定められているが、本稿との関係で特に注目すべき条件は4項の規定である。「同意が自由に与えられたものであるか否かを評価する場合、特にサービス規約を含む契約の履行にとって不要な個人データの処理への同意を条件としているか否かが最大限考慮されなければならない」。この点、宮下によれば、「同意と契約は曖昧な状況にされてはならない。利用規約の受入と同意をまとめること、または契約やサービスの条項に同意を盛り込むことは極めて望ましくな」く、「このような状況における同意は、自由になされた同意とはみなされないものと推定される」ことを意味しているという。
2.3.「同意」の射程と刑事訴追上述の通り、「同意」は情報自己決定の過程において本質的な一要素である。そこでここでは「同意」の射程について、2019年2月6日ドイツ連邦カルテル庁のFacebookへのデータ収集制限命令26に関する事例を契機として考えていきたい。本命令は競争法領域におけるものであるが、ここでは本稿の趣旨に沿って利用者側の「同意」に関する部分のみを扱う。
本命令は、Facebookが異なるアプリケーションやウェブサイトの情報をFacebookアカウントに紐づけることについて、利用者の自由意志による同意(freiwillige Einwilligung)を要求している。ここでいう自由意志による同意とは、「Facebookのサービス利用開始に当たって、ユーザーに対して、Facebookのデータの収集や処理の同意を条件としてはならないこと」であり、「Facebookの優越的な市場力を考慮すると、Facebookの利用条件に同意するというチェックマークを設ける」といった形式では、ここにいう同意を充足したことにはならないとする27。ここで問題となるのは、情報自己決定権の侵害である28。
特徴的であるのは、本命令においては前述したGDPR6条1項a号における「同意」の形式が、優越的市場力を持つこと、すなわち事業者間のパワーバランスに基づく利用者の選択可能性の縮減によって、明確に限定されていることである。これは「同意」の実質的な空虚化を許さない、ということを意味する。つまり、プラットフォームが提供するサービスは、人と人とのつながりをネットワーク上で提供している以上、優越的市場力を有する特定のプラットフォームを使用できないことにより、現実の人間関係や仕事に多大な支障を被る恐れが生じる。そのために、利用者はあるプラットフォームを使用しないという事実上の選択肢を失うことで、必然的にデータの収集や処理に同意することを強要されることになるのであり、その強要が情報自己決定権を侵害すると明示した点において、この命令は意義深く思われる。
本稿のここまでの記述は、情報自己決定権の価値を前提においた「同意」の重要な位置づけを明確にしてきた。しかし、実は刑事訴追に関わるデータは、GDPRの射程に含まれていない。真の「同意」を取得することが困難である刑事訴追領域において、「同意」に関する議論がいかなる意味を持つのかを明確にしておく必要がある。
GDPRとともに定められたEU刑事司法指令(Directive(EU) 2016/680)においては、「同意」に関する個別規定はない。更にデータ主体の権利としてのアクセス権も保障されてはいるが一部制限を受ける。一方で特筆すべきは、あらゆる手段により「個人データの区別と個人データの質の保障」を求めることが明記されていることである(同7条)。これに伴い、手厚い手続的保障が企図されている。同様の趣旨を持つドイツ基本法の規定として、基本法10条2項(通信傍受の際及び措置終了後の本人への非通知に関わる事後手続の規定や組織を定める)や同13条3項以下(住居内監視の際の裁判官による審査の手続を定める)があるが、いずれも「同意を得るという手段がない場合にどのように権利保障を担保するか」という点が重視されている。
これらが意味することは、刑事訴追において「同意」の概念が不要なものであるということではなく、個人データについての大前提として「同意」を得るというステップが存在し、これがデータ主体としての個人に帰属する憲法上の権利に由来するからこそ、構造上このステップを踏むことができない場合の手厚い手続保障が要求されるということである。
ドイツ連邦カルテル庁の命令やその前提となる情報自己決定権の考え方を見る限り、ドイツではインターネット上の個人データの取扱いに極めて慎重であると推測されるかもしれない。しかし上述のとおり前提の異なるプラットフォーマーから刑事訴追機関への情報提供については、そのような状況にはない。近年のドイツの動向を示す重要な一例として挙げられる法律が、3.で主として扱う2017年9月1日公布(2017年10月1日施行)のNetzDGである。本法は、従来プラットフォーマーに任されてきたヘイトスピーチの削除実施割合が事業者により異なることを問題視し29、このような表現に適切に対処しないプラットフォーマーに対して高額の過料を科す規定を有する法律である。Facebookをはじめとした各SNSプラットフォームに大きな影響力を持っていることに注目が集まっており、法案可決直後から日本においても複数の論者による紹介がなされている法律でもある30。
プラットフォーマーから刑事訴追機関への情報提供について論ずる本稿の視点から見て、最も興味深い規定はNetzDG5条2項である。この規定は、プラットフォーマーの「義務(Pflicht)」として刑事訴追官庁への情報提供を定めているが、情報提供要請の手続的規定や、事後的なチェック規定を含んでいるわけではない。刑事司法における個人データの取り扱いに関するEU及びドイツ国内の既存法律と本法5条2項は、どのような関係にあるのだろうか。
この問題意識は、前述する日本の捜査関係事項照会の問題を比較法的に考えるにあたっても重要である、と筆者は考えている31。しかし現時点で、本法5条の立法過程での議論や実践について、特に焦点を当てて論じた邦語の先行研究は見られない。
そこで3.では、プラットフォーマーから刑事訴追機関への任意の情報提供の法的根拠について、どのような形式・手続を含むものとして制定する可能性があるのかという点について詳細に論じ、立法上の法的課題を明らかにすることで、1.の末尾で示した①②という日本法上の問題意識に対する示唆を得ることを目指す。この目的のため、本法5条の法案の制定過程での議論や、法律施行後の運用について分析し、併せてヘイトクライムや極右の刑事訴追に関わる各法の改正と抱き合わせのパッケージで行われた2021年3月30日改正及び2021年6月3日追加改正についても概観する。
NetzDG2017年制定法(以下「2017年制定法」とする)の5条2項は、「国内の刑事訴追官庁の情報提供要請に対して、国内の受信担当者を指定しなければならない。当該受信担当者は、第一文に規定する情報提供要請に対し、その到達から48時間以内に回答する義務を負い、この義務に反すると本法4条1項8号に従い過料を科されることとなる。情報提供要請に対して当該要請に漏れなく応えた情報をもって回答しない場合、当該回答にはその理由を付さなければならない。」と定める。
しかしCDU/CSU及びSPDの会派が2017年5月16日に連邦議会に提出した本法律の草案(以下「草案」とする)では、5条は1項のみで構成されていた32。草案の定めは、以下のとおりである。「ソーシャルネットワークのプロバイダは、行政官庁、検察庁、管轄裁判所に対する本法律に従った過料手続ならびに管轄裁判所に対する民事手続における送達のために、国内の送達受取人を即時に指名しなければならない(以上、5条1文)。国内の刑事訴追官庁の情報提供要請に対しては、国内の受信担当者を指名しなければならない(以上、5条2文)33」。このうち、2017年制定法5条2項のもととなったのは草案5条2文であるが、草案で情報提供要請に対するプロバイダの義務とされた内容は受信担当者の指名のみであった。しかし先ほど2017年制定法の条文を確認したとおり、NetzDG5条2項では、受信担当者は回答義務及び回答しない場合には理由の説明義務(以下、回答義務等とする)が課されており、4条8項においてこれに違反した場合の過料が規定されている。
受信担当者の指名を義務付ける草案5条2文自体は、本法の制定経緯からすると、それほど奇異なものではない。後述するとおり、技術的にはボーダーレスであるというインターネットの性質上、ドイツにプラットフォーマーの所在がないことも多く、受信担当者を設けて当局が問合せをすることができる環境を構築するという趣旨は理解できる。しかし、これがなぜ過料を伴う回答義務等を付加した規定となったのだろうか。本法を包括的に紹介する先行研究でも審議の過程で回答義務が付されることとなった旨は簡単に触れられているが34、本稿はプラットフォーマーから刑事訴追機関へ利用者の情報を提供する法的課題について検討し、日本法への示唆を得ることを目的とするため、まずは比較的詳細に立法過程における議論の経過を確認していきたい。
はじめに草案5条の根拠について、CDU/CSU、SPD会派による草案資料の説明を確認する。「司法権、過料を科す行政庁及び関係者にとって、ソーシャルネットワークにおける法執行の中心的な問題は、ソーシャルネットワーク事業者の責任ある担当者の不在であり、ドイツにおいて送達可能なプラットフォーム事業者の住所がないことである。(中略)本規定は、所在地の国内外を問わず、すべてのソーシャルネットワークに効力を有する。国内の送達受取人に送達することについて、外国におけるソーシャルネットワークを限定することには問題がある。なぜならここには(中略)EU外の企業も含まれるからだ。(中略)そのため同条1文の義務は、国内外すべてのソーシャルネットワークに向けられる」。「同条2文は、ソーシャルネットワークの利用者に対して紐づけられる(geführen)刑事手続きのために国内の連絡担当者(Ansprechpartner)を指名するよう、ソーシャルネットワークの義務を拡大する。刑法に関わる内容の投稿者(Verfasser)の固定データ・利用データ(Bestands- und Nutzungsdaten)に関するテレメディア法14条及び15条の情報提供要請に対して、ソーシャルネットワークは国内の受信担当者を指名すべきである。規定の目標は、ソーシャルネットワークがいわゆる国内での『郵便受け』を準備するよう保障することだ。連絡担当者の指名を通じて、追加の回答義務を根拠づけられることはない。しかし、連絡担当者の指名は、刑事訴追官庁とプロバイダの間の自由意志による直接的な協力の可能性を改善する。ソーシャルネットワークの更なる責務又は法的帰結は、受信担当者の指名に結び付かない。特に、刑事訴訟法132条2項の意味における送達受取人35ではない36」として、ここでいう「受信担当者」が刑事訴訟法上の(刑事訴訟手続を円滑に進めるための)送達受取人とは異なることが強調される。
3.1.2.連邦参議院の声明この草案に対して、連邦首相官房は2017年6月14日に文書を公開した。注目すべきは、同文書の別添資料4である2017年6月2日付の連邦参議院声明である。
同声明は、草案5条2文の受信担当者の指名について、以下のとおり述べる。「連邦政府の草案は、国内において国内の刑事訴追官庁の情報提供要請に対して受信権限のある者を指名するため、あらゆるソーシャルネットワーク事業者の義務を予定する。(中略)連絡担当者の指名は、『刑事訴追官庁とプロバイダの間の自由意志による(freiwillig)且つ直接的な協力の可能性』を向上させるものである37」。ここでも強調されているのは、「自由意志による」ことである。
興味深いのは、続いての送達受取人について言及する箇所である。本稿は刑事訴追機関に対する情報提供を義務付けられた受信担当者を議論の主たる対象とするが、以下の言及はプラットフォーマーに対する議会の認識が表れているという点で、この後に続く受信担当者への義務付け条項の設置にも間接的に影響を与えている箇所であると推察されるため、ここで取り上げることとしたい。「連邦参議院は、(中略)単に行政官庁、検察庁、具体的な個別事例において過料及び民事手続において権限を有する裁判所に対する送達受取人を指名するという義務を予定すべきというだけではない、という見解である。むしろプロバイダは、全ての人にとって効果があり個別の事件とは切り離したものとして、ホームページ上で容易に見つけられる国内の送達受取人を指名する義務を負わねばならない38」。
このように述べる理由について、連邦参議院は以下のとおり説明する。「草案5条の規定は単に、いかなる場合でも行政官庁、検察庁、管轄裁判所に対する本法律に従った過料手続ならびに管轄裁判所に対する民事手続における送達のために国内の送達受取人を即時に指名する義務を、予定している。この予定された規定は、—少なくとも民事手続きに関する限り—既に民事訴訟法184条39に含まれた送達受取人の指名についての規定を、特筆するほど超えているわけではない。例えば関係者が仮処分を求めようとするとき、例えばソーシャルネットワークのプロバイダが削除請求に応じないという理由で、国内における送達受取人に当事者送達(Parteizustellung)を行う機会がないことがある(民事訴訟法936条に関連する922条2項、181条40)。というのも、民事訴訟法の現行の形式に従うと、プロバイダにこのような送達受取人を指名するという義務が存在しないからである。この場合の関係者は、外国送達あるいは外国送達の申込みに限る(民事訴訟法183条41)。しかし外国送達は、特にヨーロッパ以外では、しばしばかなり重大な遅延の問題と結びつく。(中略)それ以上に国内では、義務付けられた連絡担当者の指名が、『ヘイトスピーチ』の被害者のため、裁判外の紛争の枠組みでソーシャルネットワークの経営者に望まれることとなる。(中略)このことは手続的・経済的観点においても効果を表す。企業は現在の本草案に従っても、このような受取人をあてがわなければならない。しかし企業は、個別の事例における官庁や裁判所の具体的な照会に対しては常に新たな送達受取人を指名するとともに、(官庁等は:筆者補記)個々の場合にこれを照会しなければならない。それゆえホームページ上での一回限りで永続的な指名は、関係する官庁、裁判所、そして企業自身にとっても明確な簡素化を意味しており、個別の事例において運営経費(Verwaltungsaufwand)が節減される42」。
この声明内容は、企業が憲法上の営業の自由の享有主体である以上、「ホームページ上での一回限りで永続的な送達受取人の指名」を選択するかどうかは、基本的には企業の自由に委ねられるべき事項であると考えられるにも関わらず、議会が企業にとっても「この方法が簡素」であり、ひいては適切であろうというような示唆を与えているという点で、興味深く思われる43。公益上、あるいは行政経費節減の観点で、当該送達受取人を指名すべき規定を置くという筋書きは理解できるが、独占禁止や公正取引といった市場の健全性の維持という観点以外で企業の自由な判断領域に踏み込んだ声明を連邦参議院が出すという状況は、少なくとも日本の憲法学の視点から見れば、プラットフォーマーを国家機関と同視しているか、そうでなければある種のリベラリズムの後退が生じていると感じさせる。いずれにしても、一企業であるプラットフォーマーを訴訟手続の一環としての送達の局面でどのように捉えるかは、重大な問題であると思われるのである。
ただしこの点についての批判的な評価が、ドイツ国内で共有されているとはいえない。むしろ、国際的潮流やプラットフォーム事業者がグローバル企業であることを念頭に置き、連邦参議院の評価が自然なかたちで受容されているように思われる。
例えばプラットフォーマーに対抗する法的保護について独英の比較研究を行ったHolznagel/Woodsは、デザインやシステムによる法益の保護というアーキテクチャ論が2020年12月の欧州委員会のデジタル・サーヴィス・アクトの提案44を基礎づけていることを指摘するとともに、イギリスではこれに先立って2019年のオンライン危害白書におけるプラットフォーマーに課される法的注意義務(statutory duty of care)が明記されていることを「パラダイム転換」であると評価する45。その上で、「ドイツの論文においてはオンライン危害についてのイギリスの議論は従来ほとんど積極的に継受されていないにも関わらず、『システム規制』または『バイ・デザイン』による法益保護というテーマは重要な位置づけを獲得」しており、この考え方がルーマンのシステム理論との接合を踏まえてNetzDGの2021年改正に結び付いているとするのである46。
この視点は、NetzDG5条の送達受取人や受信担当者の存在を、プラットフォーム事業者の本拠地が海外にある場合に行政機関からの問い合わせに「応答がない」という不都合を除去するためのデザインとして許容することを推し進める。不都合なデザインにより発生したケンブリッジ・アナリティカ事件や若者の自殺といった社会問題を念頭に置き、それらを解決するための時代に即したアップデート・デザインの一部品に組み込まれることになる。実際Holznagel/Woodsは、5条については(受信担当者の48時間以内の応答義務も含めて)中立的に言及するのみである47。このような姿勢の基礎をなすのは、テレコミュニケーション事業者と比べてネットワークプロバイダに対する刑事訴追官庁への協力義務が少ないという認識であると思われるが、更にその背後には、訴訟に関連した諸手続の実効性という極めて実践的な要請とインターネットを取り巻く法制度の現状の間に齟齬が生じている、という問題意識がある。
3.1.3.第六委員会決議とその背景2017年制定法につながる5条2項が追加されたのは、権利・消費者保護委員会(通称第六委員会)が2017年6月28日に連邦議会に提出した決議勧告・報告書においてである48。5条修正の理由として同決議勧告・報告書は、以下のとおり述べる。(2017年制定法5条1項の)「送達受取人についての規定は、-記載義務(Impressumspflicht)に似た-ソーシャルネットワークのプラットフォームに対する指示(Angabe)が、簡単に認識可能で、且つ直接送達できるものでなければならないという趣旨から補充される。更に送達受取人は、具体的な手続きにおいてのみ存在するわけではなく、恒久的に存在するものである。すなわち、草案1条3項の意味における違法なコンテンツの流布に関連する手続きの準備を目的とする場合でも、利用可能に保たれるべき存在である。加えて、国内の刑事訴追官庁の情報提供要請に対する反応について48時間以内(に遂行しなければならない:筆者注)とする義務を追加した。草案5条の規定は、過料の対象となる(bußgeldbewehrt)。既に現在予定されている草案4条1項7号にならんで同項8号を追加し、受信担当者が刑事訴追官庁の照会に頑強に応えようとしない場合には、同号に従って秩序違反(Ordnungswidrigkeit)とする49」。これは回答内容そのものについての追加の義務付けではないが、「回答しない」という選択肢を高額の過料によって制約するということは、それ自体新たな義務付けにあたるといえよう。
第六委員会の決議勧告・報告書からだけでは、応答義務が追加された背景を読み解くことは難しい。そこで第六委員会前後の議会での議論状況を確認してみたい。
5条修正法案が提出される前の2017年6月2日議会において、連邦参議院議員(緑の党)で弁護士のTill Steffenは、「特に批判されるのは、国内における送達受取人の指名についての一般的義務の欠如です。誰しもに効果を持つ送達受取人は、外国への送達を不必要とします。これは、ヘイトクライム行為の犠牲者を一般的に第一に、自ら、迅速に法的決定をもたらすことを可能にし、SNSは削除要求に応じるように求められてはいません。疑わしい場合に迅速な法的解決を開始し、適切な国家的所管官庁の活動をもたらす可能性を無駄にし、未使用のままにする必要はありません。(中略)解決の必要性は、他の立法手続きにおいて、NetzDGとテレメディア法の関係についての関係においても存在しています。ここでは少なくとも明確な規定が望ましいでしょう。」と述べる50。
また同年6月30日議会において、連邦議会議員(CDU/CSU)のNadine Schönは、48時間以内の応答義務の追加について、「ドイツの人々は国際的な大企業についても、国内の送達受取人を維持し、訴えを可能にし、権利を当然与えられるための手段を拓きます。企業は、48時間以内に応答しなければなりません。この点は、この法案の決定的な改善点(maßgebliche Verbesserung)です。」と指摘し、回答義務の追加がヘイトクライムの被害者保護の観点で必要であるとする51。
これらの議会発言を見る限り、草案の状態でNetzDGを施行しても、結局回答を得られず、権利保障に結び付かないということが懸念されたことが応答義務を課した理由であると思われる。
3.1.4.応答義務の実効性に関する検証但し応答義務が課されたことが奏功しているかどうかについては、検証が必要である。NetzDG施行前後のTwitter、Facebook、Googleの応答状況は、表1のとおりである。
回答率(%) | 回答要求総数(件) | 回答率(%) | 回答要求総数(件) | 回答率(%) | 回答要求総数(件) | ||
2015年 | 1月~6月 | 36 | 28 | 35.7 | 2344 | 58 | 3903 |
7月~12月 | 55 | 69 | 42.3 | 3140 | 57 | 7491 | |
2016年 | 1月~6月 | 58 | 111 | 47.5 | 3695 | 59 | 8788 |
7月~12月 | 54 | 275 | 54 | 4422 | 45 | 9925 | |
2017年 | 1月~6月 | 38 | 255 | 59 | 5211 | 56 | 7781 |
7月~12月 | 29 | 237 | 60 | 5067 | 58 | 6960 | |
2018年 | 1月~6月 | 26 | 320 | 59 | 6661 | 60 | 7416 |
7月~12月 | 27 | 394 | 57 | 6802 | 59 | 8560 | |
2019年 | 1月~6月 | 18 | 458 | 58 | 7302 | 68 | 10009 |
(出典)Martin Eifert/Michael von Landenberg-Roberg/Sebastian Theß/Nora Wienfort, NetzDG in der Bewährung, 2020, S. 152 f.の 三つの表を素材として筆者作成。
表1を見る限り、Twitter社については回答要求総数の増加に対して回答率が落ち込んでおり、実質的な回答数の劇的な変化は見られない。一方でFacebook社・Google社については、回答要求総数の増加に対して回答率はほぼ横ばいないし向上の状況であり、実質的な回答数は向上している。ただし、2017年10月のNetzDG施行前後において劇的な変化があったものとは認められないことは、三社に共通している。
このような実態の背景には、どのような事情があるのだろうか。NetzDG4条を通じて、5条2項の応答義務違反についての過料が課される際、重要な役割を果たす機関は連邦司法庁(Bundesamt für Justiz)である。連邦司法庁は、いまだ削除されていない投稿内容について、裁判所に違法性判断のための申し立てを行うことができる権限を有しており、またこの決定について事業者側が訴訟で争うことはできないとされている(4条4項)52。4条違反の場合、重大な手続違反には最大5000万ユーロの過料が課せられることから、この権限は重大なものである。
ただし、以下のとおり5条1項及び2項1文違反の場合の過料の上限は500万ユーロとされており、送達受取人及び受信担当者についての違反を直接の根拠として5000万ユーロの過料を科されることはない。連邦司法庁のNetzDG過料要綱53によれば、送達受取人及び受信担当者の指名に違反した場合の過料金額については、企業規模及び行為の重大性に応じて表2・表3のとおり段階化されている(なお5条2項2文の受信担当者の応答義務違反の場合の過料についても、同様に重大性に応じて段階化されており、基礎額は表2・表3と同様である)。
NetzDG5条1項及び2項1文における国内の送達受取人と国内の受信担当者の指名 過料上限:500万ユーロ NetzDG4条2項と結びついた同4条1項7号 (単位:万ユーロ) |
|||||
過料対象となるSNS (国内登録ユーザー数) |
2000万人超 | 400万人~2000万人 | 200万人~400万人 | 200万人未満 | |
行為状況と行為結果 | 並外れて重大 | 350 | 300 | 200 | 100 |
非常に重大 | 300 | 250 | 150 | 50 | |
重大 | 200 | 175 | 100 | 25 | |
中程度 | 100 | 50 | 25 | 12.5 | |
軽微 | 50 | 25 | 5 | 1 |
NetzDG5条1項及び2項1文における国内の送達受取人と国内の受信担当者の指名 過料上限:50万ユーロ NetzDG4条2項と結びついた同4条1項7号 (単位:万ユーロ) |
|||||
過料対象となるSNS (国内登録ユーザー数) |
2000万人超 | 400万人~2000万人 | 200万人~400万人 | 200万人未満 | |
行為状況と行為結果 | 並外れて重大 | 3.5 | 3 | 2 | 1 |
非常に重大 | 3 | 2.5 | 1.5 | 0.5 | |
重大 | 2 | 1.75 | 1 | 0.25 | |
中程度 | 1 | 0.5 | 0.25 | 0.125 | |
軽微 | 0.5 | 0.25 | 0.05 | 0.01 |
しかしながら運用実態については、注意が必要である。NetzDGが施行された2017年10月1日から2019年12月31日までの間に、連邦司法庁のNetzDG5条1項違反に関する職権での過料手続きは31件開始されたが、その間実際に過料が課されることはなかった54。理由は、対象となるネットワークプロバイダのほとんどが米国に本拠を有しているからである。ただし連邦司法省も手をこまねいているわけではなく、パイロットプロジェクトとして、まずは米国に拠点を有する六つのネットワークプロバイダに対して措置を進めており、アメリカの司法省と都度司法共助を行っている55。
3.2. 2021年改正このようなNetzDG施行後の現状を踏まえて議論が開始されたNetzDG改正は、2021年3月に実現した(なお改正NetzDG4条1項6号のみ2021年7月1日、残部は全て2022年2月1日に施行される。なお後述のとおり、2021年6月3日(2021年6月28日施行)の改正法が別途成立している)。この改正は、極右主義・ヘイトクライム撲滅法(Gesetz zur Bekämpfung des Rechtsextremismus und der Hasskriminalität、以下GBRH)という改正法パッケージの7条による56。
まずはGBRH全体を概観する。GBRHで対象とされている個別法は、SNS対策法の他、刑法(1条)、刑事訴訟法(2条)、刑事訴訟法施行法(3条)、連邦住民登録法(4条)、連邦刑事庁法(5条)、テレメディア法(6条)である。8条には基本法19条1項2文57に基づき、改正法パッケージの複数の内容が基本法10条の通信の秘密を制約するものであることが明記されている。
GBRHの骨子は、インターネット上のヘイトスピーチ等の表現に関するプラットフォーマーから刑事訴追官庁への情報提供を促進することにある。改正の契機の一つとなったのは、ヘッセン州カッセルの首長であるWalter Lübcke(CDU)が 2019年6月2日にネオナチに所属する者により暗殺された事件であった58。改正の中核となるのは、NetzDG1条1項の意味におけるソーシャルネットワークプロバイダの申告義務(Meldepflicht)の導入である(新設のNetzDG3a条)。プロバイダは、特定の犯罪に関わる内容の投稿があった場合、「犯罪行為の訴追を可能にすることを目的として」連邦刑事庁に申告するよう義務付けられることとなった59。
本法案は、既に邦語の先行研究で取り上げられているとおり、「NetzDG改正部分の、SNSは違法だという苦情を受けて削除した掲載内容の情報をすべて連邦刑事庁に通知しなければならないという規定を、連邦大統領が基本法違反と判断」して認証手続を延期されていた60。このとき連邦大統領は、2020年9月16日に公法学者であるMatthias Bäckerが緑の党に提出した鑑定書(Rechtsgutachten)61を参照している一方、同鑑定書が参照する2020年5月27日の連邦憲法裁判所決定62からの直接の影響については否定している。しかし鑑定書は同決定を前提として、IPアドレスまで含んだ連邦刑事庁への申告義務を、連邦刑事庁法の規定を考慮に入れた上で「過度に広範で比例性を欠く」ものと評価した63。その根拠は、GBRHの更なる法改正によっては憲法適合的な伝達権限も連邦憲法裁判所によって要求される「二重扉」モデルの意味における憲法適合的な調査権限(Abfragebefugnisse)も生じない点にあると学説は指摘する64。鑑定書は、NetzDG3a条の手法そのものの正当性については肯定しているが、NetzDG及び連邦刑事庁法における法的根拠のあり方に対して懸念を呈しているのである65。連邦政府は、連邦大統領の認証拒否のあと、連邦内務省の責任のもとで、法案を「2020年5月27日判決の連邦憲法裁判所の基準をもって修正」した66。
「二重扉」モデルの例として挙げられるのは、テレコミュニケーションサービスにおける刑事訴追官庁への固定データの提供規定である(以下、Eifertらの説明を前提に説明する)。テレコミュニケーション法111条以下は固定データの伝達についてのプロバイダのデータ保護法の強化を表現し(第一の扉)、一方で刑事訴訟法100j条は、民間データの調査について官庁の権限を規定する(第二の扉)。このデータの調査についての刑事訴追官庁の権限は、開示についてのプロバイダの義務と両面的である(flankieren)67。
テレコミュニケーションプロバイダに「二重扉」の規定を通じて課せられている義務は、ネットワークプロバイダには課せられていない。そのため、「(刑事訴追官庁に対して)固定データを伝達するかどうか、どれくらいまで伝達するのかについて、ネットワークプロバイダは大部分において自由(weitestgehend frei)である」との理解が前提にあり68、NetzDGにおいてもその考え方は変更されていない。NetzDG5条2項が、あくまでも国内の受信担当者を設定することで、「刑事訴追官庁とネットワークプロバイダの間の自由意志による(freiwillig)直接の協力の可能性を改善させるものである」と捉えられていることは69、本稿がここまでに確認してきたNetzDG5条の変遷における議会の議論によって裏付けられている。このようにネットワークプロバイダの義務と自由について考えるとき、「二重扉」モデルの視点は、NetzDGの枠組みにおいても重要な意義を有するといえる。
なお紆余曲折を経た2021年3月改正のあと、2021年6月3日に追加の改正がなされている(2021年6月28日施行)。これは、形式的にはGBRHとは異なる文脈での改正であることから、単独の改正法として成立した70。EUの視聴覚メディアサービス指令(2010/13/EU)を改正する2018/1808指令に則して、ビデオシェアリングサービスのプラットフォームをNetzDGの対象として全面的に含むこととすることが本改正の重要な点であるが、本稿で重点的に取り扱ってきた5条については、異なる視点からの改正がなされている。前述した2021年3月改正の議論の中でも政府案として提案されていた5条改正が3月時点では成立せず、2021年6月改正として実現したのである。1項は「送達は、4条及び4a条に従った過料手続及び監督法的手続上の、あるいは違法な内容の流布(Verbreitung)又は流布の根拠なき受領のためのドイツの裁判所に先立つ司法手続きにおいて、特に削除され差し止められた内容の原状回復が要求される場合にもたらされる。このことはそのような手続きを開始するという文書の送達、司法上の最終決定の送達及び執行・実施手続における送達においても有効である」とされ、2項については、改正前の同項1文の「国内」の語に続いて「4条に挙げられた行政官庁」を挿入し、「4条に挙げられた行政官庁は、受信担当者のリストを扱う。当該官庁は国内の刑事訴追官庁に、照会への回答を与える。」との二文が付け加えられた71。
5条1項の改正は送達受取人の射程を明確にすることが目的であったが72、5条2項の改正においては「受信担当者のリスト」の存在とこれを4条に挙げられた行政官庁たる連邦司法省が扱うことが明確にされた一方、受信担当者の一般公開はスパム防止などの観点から行わないこととなり73、1項の送達受取人と2項の受信担当者の取扱いの相違がより明確にされたといえる。
以上のドイツにおけるNetzDG立法・改正過程の議論は、1.に示した我が国の状況に如何なる示唆を与えるのだろうか。
日本において令状主義が存在するように、ドイツでは捜索や押収の場合における裁判官留保が存在する。令状主義と裁判官留保は位置づけや構造が大きく異なるが、本質的な趣旨には共通するところがある。すなわち、何らかの情報や物を「強制的に」得ようとする場合に裁判所による審査を要求することで、刑事訴追機関という強い権力を有する国家機関が個人のプライバシーを不当に侵害することを防ぐことである。
本稿が対象とするプラットフォーマーから刑事訴追官庁への情報提供は「任意に」行われるものと位置付けられているが、その任意性が担保されているか否かとは区別される問題として、利用者個人の情報にアクセスする刑事訴追機関側の統制が実施される必要がある。これが本稿3.2.で言及した「二重扉」モデルの意義である。
では、プラットフォーマーと利用者の関係については、いかなる法的枠組みが必要となるのだろうか。結論から言えば、本稿3.1.に示したNetzDGの立法過程における議論を通じて、筆者は、刑事訴追に関連した情報収集としてプラットフォーマーから情報提供を受けようとする場合には、プラットフォーマーの刑事訴追機関に対する「協力」を利用者一人ひとりとの関係で正当化できる情報取得手続の法的枠組みが必要となると考える。
NetzDGが草案段階で想定していたプラットフォーマーの「自由な意志」を全面的に尊重した刑事訴追機関への協力が成立するためには、前提として、プラットフォーマーの応答義務がいかなるかたちでも課せられていないこと、プラットフォーマーと利用者の間で交わされる「同意」が利用者本人の自己決定によっていること、そしてその「同意」が契約から切り離されているという条件が充足されていることが必要である。このことは、2.2及び3.で論じた通りである。
ただしこのような利用者の「同意」とプラットフォーマーの「協力」が完全なる「自由意志」に基づくべきものと考えることが困難である刑事訴追と結びついた局面が存在することは、本稿2.3において明示し、また3.1.3.及び4.において示したプラットフォーマーの応答義務が課されることとなった過程からも明らかである。ここで考えるべきは、捜査による社会の安全の保障と個人情報の保護の衡量という比例性の担保である。
プラットフォーマーの協力が「自由な意志」によらないものとなる場合には、法律上相応の根拠と手続きが存在し、且つ比例性等が保たれていることが必要となるというのがドイツの立法過程における理解であり(本稿3.2.参照)、日本においても任意捜査が適法と言えるためには、捜査の必要性・緊急性・相当性を求める捜査比例の原則を充足していなければならないとする理解が、判例により維持されている74。これらの理解を参照すると、プラットフォーマーに対する捜査関係事項照会を刑事訴訟法197条2項(以下、単に197条2項とする)に基づいて行う日本の現状についての課題が見えてくる。
最も重要な課題は、立法の形式についてである。197条2項の規定は「捜査については、公務所又は公私の団体に紹介して必要な事項の報告を求めることができる。」とされているが、ここから相手方にいかなる義務が生じるのかという点については、従来から議論がある。大久保隆志は「この照会を求められた公務所や団体は、強制する方法はないものの、原則として報告すべき義務があるものと解されて」いるとするが75、田宮裕は「公務所・公の団体にとってはこのような国法の定めがある以上、報告の義務が生ずるが(強制処分である)、私の団体に対しては協力要請の意味しかない(任意処分)」として義務の発生を主体により区別する76。また田村正博は「通信の秘密のように特別に保護されるべきものを除き、法律上の秘密保持義務規定があっても回答すべきもの」であって「個人情報保護法上も、『法令に基づく場合』として、提供することができ、本人との間で違法と評価されない」とするところ77、JILISによる捜査関係事項照会対応ガイドラインは、事業者に対し「捜査関係事項照会は任意処分であるため、強制処分に該当すると考えられる照会に対しては、応じてはならない」との考え方を明確にする78。
このように、義務の発生や義務の範囲について解釈の余地がある197条2項の規定は、民間事業者であるプラットフォーマーにとって明確な行為規範としては機能しえない。他方、令和二年に改正された個人情報保護法は個人情報の第三者提供について個人の権利保護を重視する改正を実施しているが、23条1項1号が「個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。一 法令に基づく場合」としている点には変更がなく、法令に基づく提供要請に対しては一定の手続を経ることが求められているのみであるので、いかなる場合に「応じなくてはならないのか」「応じてよいのか」を示す行為規範として明確なものとはいえない79。
この点を本稿の議論と結びつけてみると、本稿3.2.で取り上げた二重扉モデルにおけるプラットフォーマー側に提示されるべき行為規範が、197条2項を根拠とした捜査関係事項照会には存在していないことが、「報告が義務なのか」「どこまで任意で答えてよいのか」というプラットフォーマーの困惑(本稿1.の末尾で提示した我が国における捜査関係事項照会の課題の一つ、①「刑事訴追機関による」捜査関係事項照会が可能となる範囲が法律上明らかでないこと)を生じる原因となっていると整理することができる。そうだとしたら、197条2項に付記するかたちで、(a)私人たる事業者に報告の義務が生じるかどうか、(b)一定の義務が生じるとしたら、その義務の範囲が任意捜査として行いうる範囲に留まることの二点を最低限明記し、更に事業者を名宛人とする個人情報保護法制に組み込むかたちで(c)義務が生じる場合に(任意で)応じることのできる範囲の限界についての定めを置くべきであると筆者は考える。
本稿1.の末尾で提示した捜査関係事項照会の他の課題のうちの一つ、②捜査関係事項照会に「利用者の」情報を「事業者が」提供することができる法的根拠が明らかでないことという問題点についても、事業者が刑事訴訟法上負うべき義務の発生やその範囲を法律上明確にすることで、一定程度克服することができると筆者は考えている。現状では各事業者がガイドラインを策定するなどして、「会話内容までは令状がなければ提供しない」「利用者IDは令状がなくても提供する場合がある」といったことを利用者に伝えているが、そのような基準は本来、捜査の必要性と相当性を基準として法律により規定されるべきことであり、(捜査による社会の安全の保障と個人情報の保護の衡量という比例性を保つという趣旨に立ち返れば)全ての事業者が同じ基準のもとで応答すべきことである。
本稿ではNetzDG5条2項に関する議論を通じて、プラットフォーマーから刑事訴追機関への情報提供の法的課題について検討してきた。現在のドイツではNetzDGを通じて、プラットフォーマーを経由した表現行為の規制が実践されているが、この視点の重要性がドイツに限定されるものではないことは、本稿4.において示したとおりである。
本稿3.1.2.で触れたとおり、2020年12月15日に欧州委員会が公表したデジタル・サーヴィス・アクトは、NetzDG改正にも影響を与えているところ、デジタル・サーヴィス・アクトを我が国のデジタル庁設立に象徴される一連のデジタル改革関連法と関連付けて論ずる寺田麻佑が、「そもそも、私たちが望む『デジタル社会』とは何なのかについても一歩立ち止まって考え」る必要性を唱えていることは、本稿の文脈においても注目に値する80。混沌としたデジタル社会から安心できるデジタル社会への発展を目指すためには、犯罪行為に対する適切な対処が必要であることはもちろん、同時に個人情報の適切な保全状態とその状態が脅かされている場合に不服を申し立てられる仕組みも必要であり、両者のバランスを保つことができる法的枠組みの設定が必要である。
本稿は、公益財団法人日立財団 倉田奨励金(奨励金No.1420)の助成を受けて遂行された研究の成果の一部である。
1 高知大学教育研究部人文社会科学系教育学部門助教
2 最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁(京都府学連事件判決)、最判平成20年3月6日民集62巻3号665頁(住基ネット判決)。
3 芦部信喜(著)高橋和之(補訂)『憲法(第七版)』(岩波書店・2019)123頁は、端的に「私法上の権利として認められた、人格権の一つとしてのプライバシーの権利は、前述の京都府学連事件、前科照会事件等の最高裁判決によって憲法上の権利としても確立した。」と表現する。ただしその内実の理解には議論がある(佐藤幸治『日本国憲法論(第二版)』(成文堂・2020)209頁参照)。
4 毛利透「ドイツにおける発信者情報開示請求—著作権侵害と人格権侵害それぞれの場合について—」立命館法学393・394号(2021)779頁の注3が指摘するとおり、本法律の名称の適切な訳出は極めて難しいため、NetzDGとの表記を用いる。
5 渡邊涼介/梅本大祐/今村敏(編著)『デジタルプラットフォームの法律問題と実務』(青林書院・2021)3頁。
6 日本経済新聞2019年1月21日(朝刊39頁)記事「会員情報 令状なく提供」、朝日新聞2019年1月22日(朝刊26頁)記事「Tカード情報、捜査に提供 CCC、12年から令状なしで」など参照。
7 民間の独立系調査会社であるICT総研「2020年度 SNS利用動向に関する調査」(URLは参考文献1に記載、最終閲覧日2021年10月15日)によれば、2020年7月時点ネットユーザー(n=4,400)を対象とした「人とのコミュニケーションを行う目的でのSNS利用」のアンケートにおいてLINE利用率は77.4%に上り、2位のTwitter(38.5%)に大差をつけて日本のシェア1位を占めている。公的統計では、総務省「平成27年度版情報通信白書第2部第2節」(URLは参考文献9に記載、最終閲覧日2021年10月15日)における最近約1年以内に利用した経験のあるSNS(n=2,000)の調査でも、LINEは37.5%で1位である。
8 朝日新聞2019年2月4日記事「Tカードだけじゃなかった 個人情報提供どこまで」(デジタル版記事はhttps://www.asahi.com/articles/ASM236GYTM23UTIL01C.html、最終閲覧日2021年10月15日)において、LINEが従来捜査関係事項照会によって「通信情報」の提供も可能であるという指針を掲げていることを報じたが、「通信情報は通信の秘密に関わ」るという理由で捜査関係事項照会では応答していないとして、2019年2月5日に回答を訂正した。なおLINEグループの2020年7月~12月のTransparency Report(https://linecorp.com/ja/security/transparency/2020h2、最終閲覧日2021年10月15日)によれば、日本の警察からの開示請求要請件数は1,684件、うち令状に基づく請求の1,229件、捜査関係事項照会に基づく請求の123件が対応されている(なお本Reportは2016年7~12月分以降公開されているが(URLは参考文献30に記載、最終閲覧日2021年10月15日)、捜査関係事項照会が大きく報道された2019年より前についても、ほとんどが令状に基づく場合にのみ対応されており、捜査関係事項照会のみで対応をしている場面はLINEグループについては多くない)。
9 LINEグループからの捜査機関への対応の指針について、2021年5月26日現在の基準は「捜査機関への対応」、「捜査機関向けガイドライン」(いずれもURLは参考文献30に記載、最終閲覧日2021年10月15日)。なお一般財団法人情報法制研究所(JILIS)捜査関係事項照会タスクフォース「捜査関係事項照会対応ガイドライン」(URLは参考文献3に記載、最終閲覧日2021年10月15日)を併せて参照。
10 BVerfGE 152, 216, Beschluss vom 06. November 2019 – 1 BvR 276/17 –. 中島美香「個人情報の削除を求める権利の日米欧における法制度と忘れられる権利」東海法学60号(2021)83頁以下。
11 BVerfGE 152, 152, Beschluss vom 06. November 2019 – 1 BvR 16/13 –.
12 鈴木秀美「「忘れられる権利」と表現の自由・再論」慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所紀要70号(2020)2頁参照。
13 同上、3頁、中西優美子「ドイツ連邦憲法裁判所の「忘れられる権利Ⅰ」判決とEU法」自治研究96巻9号(2020)85頁以下、同「ドイツ連邦憲法裁判所の「忘れられる権利Ⅱ」判決とEU法」自治研究96巻11号(2020)113頁以下。
14 BVerfGE 152, 216, Rn.102.
15 Ebd., Rn.103.
16 本先決決定について、宇賀克也『個人情報の保護と利用』(有斐閣・2019)206頁。
17 BVerfGE 152, 216, Rn.104.
18 Ebd., Rn.105.
19 BVerfGE 152, 152, Rn.91 f.
20 ボード・ピエロート/ベルンハルト・シュリンク/トルステン・キングレーン/ラルフ・ポッシャー(著)永田秀樹/倉田原志/丸山敦裕(訳)『現代ドイツ基本権(第二版)』(法律文化社・2019)131頁のとおり、「情報自己決定権は、いくつかのデータ取得、システムへの秘密の侵入に対してのみ保護」を受ける。
21 BVerfGE 65,1.
22 平松毅「自己情報決定権と国勢調査」ドイツ憲法判例研究会(編)『ドイツの憲法判例(第二版)』(信山社・2003)66頁は、ドイツの学説を参照して自己情報決定権から導かれる六つの原則を示している(①規範明確性の原則、②必要性の原則、③目的拘束性の原則、④比例原則、⑤情報上の権力分立の原則、⑥情報処理の透明性の原則)。
23 Laura Schulte, Vom quantitativen zum qualitativen Datenschutz, 2017, S.70 ff.
24 BGBl. I, 1990, S.2954 ff. 1990年の連邦データ保護法は、官民両方の領域におけるデータ保護水準の相互発達を強化したのみならず、両領域の違いを具体的なデータ保護義務や統制秩序の形成に関して明確化したことが特徴である(Vgl. ebd., S.109 f.)。
25 以下、宮下紘『EU一般データ保護規則』(勁草書房・2018)50頁以下参照。
26 Bundeskartellamt, Beschluss, 6. Feb. 2019―B6-22/16-. 島村健太郎「ドイツ競争制限禁止法における市場支配的なデジタルプラットフォーム事業者の濫用行為規制について―Facebook事件を素材として―」一橋法学18巻2号(2019)387頁以下参照。
27 同上、390頁以下。
28 Bundeskartellamt, Beschluss, 6. Feb. 2019―B6-22/16-, Rn.759 f.
29 神足祐太郎「ドイツのSNS法」調査と情報No.1019(2018)2頁以下。
30 鈴木秀美「ドイツのSNS対策法と表現の自由」慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所紀要(2018)1頁以下、同「インターネット上のヘイトスピーチと表現の自由」工藤達朗/西原博史/鈴木秀美/小山剛/毛利透/三宅雄彦/斎藤一久(編)『憲法学の創造的展開(上)』戸波江二先生古稀記念(信山社・2017)577頁以下、實原隆志「ドイツのSNS法」情報法制研究第4号(2018)46頁以下など。
31 比較法的観点からこのような検討を行うことの重要性は、小向太郎「捜査機関による第三者保有の個人情報に対するアクセスと本人の保護」情報通信政策研究4巻1号(2020)63頁以下において明確に示されている。本稿はこのような視点を引き継ぎつつ、ドイツにおける立法論に着目して、プラットフォーマーから捜査機関への情報提供の課題を更に深めていくことを目的としている。
32 BT-Drucksache 18/12356.
33 BT-Drucksache 18/12356, S.10.
34 神足、前掲注29、56頁、鈴木、前掲注30(2018)、7頁。
35 ドイツ刑事訴訟法132条1項1文及び2項は、以下の通り定める。「(1)緊急に犯罪の疑いがかけられている被疑者が、法律の有効な範囲に一定の住所あるいは居所を有さない一方で勾留令状(Haftbefehls)の前提条件を満たさないとき、刑事手続の執行を確保するため、被疑者は以下の各号について命令を受ける場合がある。1. 予期される科料(Geldstrafe)と手続の費用に対する相応の担保(Sicherheit)を提供すること。2. 所轄の裁判所の区域(Bezirk)に住む人に、送達受取りの権限を与えること。 (2)命令は裁判官のみが為しうるが、危険が切迫している際には検察官とその捜査員(裁判所構成法152条)もこれを為しうる」。
36 BT-Drucksache 18/12356, S.27.
37 BT-Drucksache 18/12727, S.24.
38 BT-Drucksache 18/12727, S.24.
39 ドイツ民事訴訟法184条1項は、以下の通り定める。「裁判所は、183条2項から5項に従った送達の際、訴訟代理人が選定されていなければ、相応の期日内に国内に居住する又は国内に事務所を有する送達受取人を指名するよう当事者に命ずることができる」。
40 ドイツ民事訴訟法922条2項は、仮差押え決定(Arrestbeschluss)を得た当事者に、その送達を実施するよう求めているところ、その送達について同法181条1項1文は、「178条1項3号又は180 条に従った送達が実行可能でない場合、送達すべき文書は送達のしかるべき区域にある区裁判所の書記課に保管されうる。」と定める。
41 ドイツ民事訴訟法183条2項、3項は、以下の通り定める。「外国における送達は、現存する国際法上の取決めに従い行われる。国際法上の取決めに基づき、郵便を通じて文書を直接送付することが許されるときは配達証明を伴う書留郵便により送達されるべきであり、そうでない場合には訴訟裁判長の要請による送達をその外国当局を通じて直接行う(以上2項)。2項に従った送達が不可能な場合、連邦の管轄の外交上又は領事の代理人若しくはその他の管轄官庁を通じて送達がなされる。特に国際法上の取り決めがない場合、関係国の管轄部局が司法共助を提供する準備が出来ていない場合、または特別な理由によりそのような送達が正当化される場合には、1文に従い手続きを行う必要がある(以上3項)」。
42 BT-Drucksache 18/12727, S.24 f.
43 ドイツにおいては基本法上、職業選択の自由(12条1項1文)と職務遂行(Berufausübung、同2文)が明確に区別されており、営業の自由を含む職務遂行については法律の留保のもとにある。
44 株式会社三菱総合研究所デジタル・イノベーション本部「インターネット上の違法・有害情報を巡るEUの動向—Degital Services Actについて—」総務省 プラットフォームサービスに関する研究会(第24回 2021年3月17日)資料参照(URLは参考文献6に記載、最終閲覧日2021年10月15日)。なおデジタル・サーヴィス・アクト案の21条には「犯罪行為の疑い」がある場合にはプラットフォームが届出義務を負うことが記されている。
45 Bernd Holznagel/ Lorna Woods, Rechtsgüterschutz im Internet – Regulierung durch Sorgfaltspflichten in England und Deutschland, JZ 2021, S. 278 f.
46 Ebd., S.280.
47 Ebd., S.284.
48 BT-Drucksache 18/13013.
49 Ebd., S.23.
50 Bundesrat Plenarprotokoll 958, S. 299 f.
51 Bundestag Plenarprotokoll 18/244, S.25122. なおSchön議員の発言においては、送達受取人と受信担当者の明確な区別がなされていない。
52 鈴木、前掲注30(2018)、7頁。
53 連邦司法省の過料要綱参照(https://www.bundesjustizamt.de/DE/SharedDocs/Publikationen/NetzDG/Leitlinien_Geldbussen_de.html、2018年3月22日発行、最終閲覧日2021年10月15日)。
54 Martin Eifert/Michael von Landenberg-Roberg/Sebastian Theß/Nora Wienfort, NetzDG in der Bewährung, 2020, S.184.
55 Ebd.
56 BGBl I, 2021, S.441 ff.
57 ドイツ基本法19条1項2文は、基本権を制限する法律の適用について定めた同1文に続いて、以下の通り定める。「更に、基本権を制限する法律は、条文を挙げて当該基本権を記述しなければならない」。
58 Sandra Niggemann, Die NetzDG-Novelle, CR 2020, S.327. Lübckeは移民を擁護する立場をとっており、極右と対立する立場にあった。
59 Marc Liesching/Chantal Funke/Alexander Hermann/Christin Kneschke/Carolin Michnick/Linh Nguyen/Johanna Prüßner, Das NetzDG in der praktischen Anwendung, 2021, S.11 f.
60 毛利、前掲注4、781頁。BT-Drucksache 19/23867.
61 同鑑定書は、以下のURLで公開されている(https://www.gruene-bundestag.de/fileadmin/media/gruenebundestag_de/themen_az/rechtspolitik/PDF/200917-Baecker-Gutachten-Gesetz_zur_Bekaempfung_des_Rechtsextremismus_und_der_Hasskriminalitaet.pdf、最終閲覧日2021年10月15日)。
62 2020年5月27日決定(BVerfGE 155, 119, Beschluss vom 27. Mai 2020 -1 BvR 1873/13, 1 BvR 2618/13-)について紹介する先行研究として、實原隆志「情報的措置を授権する規定の「特定性」と「二重扉」」福岡大学法学論叢65巻4号(2021)698頁以下。
63 鑑定書、前掲注61、S. 21.
64 Liesching/ Funke/ Hermann/ Kneschke/ Michnick/ Nguyen/ Prüßner (Fn.59), S.11.
65 鑑定書、前掲注61、S.19 f.
66 Ebd., S.12.
67 Eifert/ von Landenberg-Roberg/ Theß/ Wienfort (Fn.54), S.144.
68 Ebd., S.145.
69 Ebd.
70 BGBl I, 2021, S. 1436 ff.
71 Bundestag Drucksache 19/18792, S. 14.
72 本改正の政府草案の理由を示したBundesrat Drucksache 169/20, S.58及びBundestag Drucksache 19/18792, S. 54(いずれも2020、内容は同一)では、ベルリン上級地方裁判所決定(KG, Beschluss vom 6. März 2019-10 W 192/18, NJW 2019, S.2024.)やケルン上級地方裁判所(OLG Köln, Beschluss vom 11. Januar 2019-15 W 59/18.)が挙げられている。
73 Bundesrat Drucksache 169/20, S.58及びBundestag Drucksache 19/18792, S. 54.
74 最決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁以下。JILIS、前掲注9、3頁、川島健治「任意捜査の適法性」関東学院法学23巻4号(2014)29頁以下参照。
75 大久保隆志「任意捜査における第三者侵害」広島法科大学院論集12号(2016)180頁。
76 田宮裕『刑事訴訟法(新版)』(有斐閣・1996)139頁。
77 田村正博「犯罪捜査における情報の取得・保管と行政法的統制」高橋則夫/川上拓一/寺崎嘉博/甲斐克則/松原芳博/小川佳樹(編)『曽根威彦先生・田口守一先生古稀記念論文(下巻)』(成文堂・2014)520頁。
78 JILIS、前掲注9、4頁。
79 三木由希子「捜査関係事項照会問題を考える」時の法令2071号(2019)57頁以下の問題意識と同様である。
80 寺田麻佑「プラットフォーム規制の課題—EUデジタル規制改革の検討を中心に—」情報通信学会誌38巻4号(2021)121頁。